なかなか業務が立て込んで、まとまった時間もとれなくて、脇道で寄った「強度行動障害」支援についてまとめることが滞っている。今回は、すきま時間で雑感を書いてみようと思う。

 令和6年度の医療保険、介護保険、障害福祉サービス費報酬改定の骨格が徐々に発表されてきた。本年度は、身体拘束適正化、虐待防止委員会等の完全施行があり、来年度にはBCP義務化等が本格施行となる。手取り足取り、様々な論点が今回の同時改定にはあるのだが、福祉系の情報サイトに次の記事が目についた。

【障害福祉報酬改定】利用者の意思に反する異性介助を防止 厚労省、各サービスの運営基準を見直しへ | 介護ニュースJoint(https://www.joint-kaigo.com/articles/16618/

記事にもある通り、「深刻な人材不足などでどうしてもやむを得ないケースがあることなどを考慮し、報酬の減算などは差し当たり導入しない。」とされているが、障害福祉サービス等報酬改定検討チームに対して厚労省が提出したことに大きな意味がある。つまり、「同性介助」について、将来、報酬の減額という措置がありうる含みを持たせたのだ。

人手が少ないからと言って、「利用者の意思に反する異性介助」を是認するつもりはサラサラないし、知的障害を持つ女性の入浴介助やトイレでの衛生介助の場面に男性介助者を無神経に送り込むのはさすがに抵抗があり、先ずできるなら女性スタッフを送り込むのは当然と思っている。また、男性利用者の入浴介助に無神経に女性介助者を送り込む前に男性介助者が頑張るよう体制を組むようにしている。しかし、上記のように制度化を目指されると違和感が先に立つ。

先ず、これが論点になるのは、ほぼ障害福祉の領域においてだ。異性介助(本人の意思に反するという但し書きがあるナシは別として)は「ありえない」事項とされるが、これは医療や保育ではどうなのだろう。婦人科や産婦人科で女性患者の触診は女医でなければならないし、病棟で男性患者の入浴やシャワー浴は男性看護師のみしかできなくなるし、男児の保育、アタッチメントやトイレの世話も男性保育士のみの仕事になるはずだ。しかし、現実は同性介助者が望ましいとは推奨されるが、是認もされている。違いは何だろうか?考えられるのは、介助者が性的な動機で触っていると思われない専門性や目的を持って触っていると保証されているからだ。国家資格、自治体資格を持っていることがそれを裏付けているわけだ。つまり、資格自体が有するスキル、モラルが担保となっている。(そのための難しい国家試験や長時間の実習がその内実を支えている)だからこそ、ひとたびこの専門職が職務を悪用して性的な行為に及んだとしたら、刑罰や激しい社会的糾弾に見舞われるのだ。つまり、身体的な接触を伴う職業には、専門的資格、スキル、モラルが求められるということだ。しかし、今回の厚労省提案で、行政的な外形的な基準として規制をかけペナルティを与える手法に乗り出したということは、結局、生活支援員という職業が専門性やスキル、モラルを必要としない担保のなき職種という認識であることを告白したようなものだ。

もともと生活支援員の前身である「生活指導員」には資格要件が定められていた。

(措置委託制度時)
精神薄弱者援護施設基準(昭和43年5.10 厚令14)
第6条(職員の資格要件) 2
一.学校教育法(昭和22年法律第26号)の規定による大学において、心理学、教育学又は社会学を修めて卒業した者
二.学校教育法第56条第1項に規定するであつて、2年以上精神薄 弱者の福祉に関する事業に従事したもの
三.前2号に掲げる者のほか、精神薄弱者の更生援護に関し相当の学識経験を有すると認められる者
(支援費制度時)
知的障害者援護施設の設備及び運営に関する基準(平成15.3.12厚労令22)
第15条(職員の資格要件)
指導員は、次の各号のいずれかに該当する者でなければならない。
一.学校教育法(昭和22年法律第26号)の規定による大学の学部で、心理学、教育学又は社会学を修め、学士と称することを得る者
二. 学校教育法の規定による大学の学部で、心理学、教育学又は 社会学に関する科目の単位を優秀な成績で修得したことにより、 同法第67条第2項の規定により大学院への入学を認められた者
三.学校教育法の規定による高等学校若しくは中等教育学校を卒業した者、同法第56条第2項の規定により大学への入学を認められた者若しくは通常の課程による12年の学校教育を終了した 者(通常の課程以外の課程によりこれに相当する学校教育を終 了した者を含む。)又は文部科学大臣がこれと同等以上の資格を有すると認定した者であって、2年以上知的障害者の福祉に関する事業に従事したもの
四.前3号に掲げる者のほか、知的障害者の更生援護に関し相当の学識経験を有すると認められる者
*知的障害者入所(通所)更生施設、知的障害者入所(通所)授 産施設の生活支援員に準用 

上記を読めばわかるように、心理学・教育学又は社会学を修めた大学生や大学院生、学校教育法に定める中高校を卒業したもので2年以上の知的障害福祉事業の実務経験があるものが入所の知的障害者の生活支援を行えたのである。ソーシャルワーカーの素地が求められる職種であったと言える。

しかし、厚生労働省は、障害者自立支援法制定時、介護保険と同様に多様な事業者や働き手を障害福祉に呼び込むために上記の資格要件を完全に廃止した。生活支援員に高度な専門性をもともと求めない、厳しく言えば「なくてもできる職業」に堕としたのだ。(就職させてからの教育義務は事業者の責任となった。)性にかかわるフィジカルな支援はデリケートな支援でもある。それの繊細さに「支援員」は無理解であっても仕方がないので、指揮するサービス管理責任者の専門性や教える力量は各段に必要で高度になる。そんな専門的な人材をどこから供給させようとしているのか?資格要件もない集団からか?ブラックジョークとしか言いようがない。

日本知的障害者福祉協会の令和4年度全国知的障害児者施設·事業実態調査報告書から、性別に限った利用者と職員の実態数を調べると(申告されたデータなので傾向しかつかめないが)、

児·者入所施設
男性  2539(児童入所施設)+36801(施設入所支援)= 39340
女性  1218(児童入所施設)+24525(施設入所支援)= 25743

全体(障害児入所施設・児童発達支援センター・療養介護・生活介護・自立訓練・就労移行・就労継続 A型・就労継続 B 型)

男性   90613
女性   55153

入所施設、日中活動事業所総じて、男性利用者が多い。

それに対して、職員は

男性職員   36165=27603(常勤)+8562(非常勤)
女性職員   52778=31231(常勤)+21547(非常勤)


女性職員が常勤も非常勤も多い。まして、女性の非常勤職員の多さは、明らかに未経験、訓練されていない階層がこの分野に流れ込んでいることを示している。ある意味、自立支援法以来の規制緩和の成果と言えるが、この比率の非対称性を見てもどれほど厚生労働省の提案が現実からかけ離れているか一目瞭然だろう。ここで加算もしくは減算でコントロールしようとするならば、とんでもない職員の獲得競争が起こるかもしれない。

次に、「同性介助」の問題で不思議なのは、問題とされている「同性」の「性」は、sex(生物学的性別)なのかgenderなのかSexual Orientationなのかあいまいな点である。(介助というフィジカルな場面を想定しているので、おそらくsex=生物学的性別であろうが)「利用者の意思に反する異性介助」に対する同意や拒否の意思決定支援をするにしても、そもそもsex、gender、Sexual Orientationをどう伝えるのか、これを伝えるにはまた高度な知識や専門性が必要だ。外形的に生物学的性別だけで十分だという支援者は、そもそも知的障害者に知的な遅れによる性別未分化やLGBTQの可能性を認めてかかわっていないことを告白しているのと同じだ。

最後に、「同性介助」を硬直的にとらえることで、LGBTQであることに悩んでいる職員や就職しようと希望しているLGBTQの人たちを排除することになりはしないかということである。初めの方に述べたように介助は介助者の専門性、スキル、モラルの問題である。生物学的に異性なのか同性なのかが問題ではない。それを性的といやらしく勘ぐってしまう方が介助者の何を見て判断しているのだろうと考えてしまう。それならば、教育機関や福祉系の教育カリキュラムでsex、gender、Sexual Orientationの問題を学習させるほうが、加算や減算で管理するより大切であるし、人材育成、多様性のある福祉職場を生み出す力になると思う。

*以前の投稿で、社会福祉とは「制限能力者も含めて全主権者が基本的人権の実現・行使が保証される状態」と定義した。そのエンジンとなる社会福祉事業の職場も当然この原理が貫かれなければならない。LGBTQの人たちも安心して働ける包摂された職場づくりは福祉現場でも不可欠だ。硬直した「同性介助」で逆にLGBTQの人たちを排除しないように心から願う。

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