前回の投稿の終わりに、社会福祉法人が「憲法89条の公の支配に属さない慈善又は博愛の事業に対する公金支出禁止規定を回避するために設けられた」制度という新しい解釈に基づき、社会福祉法人改革が主導されたことを示したが、先ずこの解釈の妥当性について考えてみたい。そして、この新解釈の裏には、次の2点があることも示した。一つは、社会福祉事業は第89条の「慈善・博愛」事業(公益事業)であること、もう一つは、社会福祉法人は、抵触を回避するため公的規制を受けている(公益)法人であること。以上二つの見解が潜んでいる。
第89条全文を掲載しておく。
第89条(公の財産の支出・利用の禁止) 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。 |
そもそも、社会福祉事業が憲法第89条の「慈善・博愛」事業にあたるのかを検証してみよう。
この問題を探っていくと、社会福祉事業=慈善・博愛事業とするのは、憲法解釈・政府見解であるという主張に突き当たる。例えば、社会福祉基礎構造改革により利用契約制度が導入された直後の総合規制改革会議による「規制改革の推進に関する第1次答申」(平成13年12月11日)第1章福祉・保育(https://www8.cao.go.jp/kisei/siryo/011211/1-2.pdf)において、
「政府は、介護保険法(平成9年法律第 123 号)及び社会福祉法の成立・ 施行後でも、介護等のサービスを含む福祉が「慈善・博愛」事業に含まれるとの憲法解釈 を堅持しており、サービスの安定的・継続的な提供のために必要な規制・監督を課せない 民間企業に対して、公費による支援を社会福祉法人と同等に行うことはできないとしている。この考え方に基づき、社会福祉法人立の介護等の福祉施設については、民間企業と異 なる厳しい規制を受けることから、ストック面の公的助成が行われている。」
と政府は、(社会)福祉=「慈善・博愛」という憲法解釈を堅持していると明記した。
総合規制改革会議「中間とりまとめ―経済活性化のために重点的に推進すべき規制改革―」【 抜粋版 】
(平成14年7月23日)第2章 民間参入・移管拡大による官製市場の見直し」における所管省の主な意見の中の「教育・福祉分野における株式会社等への助成の取扱い」(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/07/s0726-12m.html)において、
厚生労働省も、
「憲法第89条の「慈善・博愛事業」についても、時代の推移に伴い対象者が拡大するなど福祉の在り方は変容しているが(福祉の普遍化)、様々な理由から社会的支援を必要とする者に対し、その自立を支援するという社会福祉事業の理念は変わっておらず、その意味で、現在においても、社会福祉事業は「慈善・博愛事業」である。この憲法解釈は、これまで政府として一貫している。なお、憲法解釈の変更については、十分に慎重でなければならないと考える。」と主張している。
先ず、はっきりさせておきたいのは、この政府の憲法解釈なるものを文章として探しても、いつ政府や厚生労働省が発表したものか年月日すら分からない。
日本国憲法の解説のバイブル的なテキストでも、あいまいである。
「全訂日本国憲法」(宮澤俊義著 芦部信喜補訂第2版 日本評論社 1988年)では
憲法第89条の解説において
「『慈善』の事業とは、肉体的または経済的の弱者(老幼者・病人・貧困者等)を主として物質的に援助する事業をいう。特に、宗教的な見地や人道主義的見地からなされるものをいう。
社会福祉事業法にいう社会福祉事業はだいたいこれに属する。(P739)
“だいたい”という曖昧な表現は何だろうか?
「憲法 第5版」(芦部信喜 高橋和之補訂 岩波書店)
「本条の…後段の趣旨・目的は必ずしも明確ではない。大別して、①私的な事業への不当な公権力の支配が及ぶことを防止するための規定と解する立場と、②公財産の濫費を防止し、慈善事業等の営利的傾向ないし公権力に対する依存性を排除するための規定とする立場とがある。この対立が、「公の支配」の解釈の相違と結び合って、具体的問題の解決の仕方を大きく左右する。
すなわち、①の立場は、一般に「公の支配に属する」を、「その事業の予算を定め、その執行を監督し、 さらにその人事に関与するなど、その事業の根本的方向に重大な影響を及ぼすことのできる権力を有すること」と言うように、厳格かつ狭義に解するので、監督官庁が事業の自主性が失われる程度に達しない権限(たとえば私立学校振興助成法一二条、社会福祉事業法五六条〔現行社会福祉法五八条〕で定める、報告を徴したり、勧告したりする権限)を有するだけでは、「公の支配に属する」と言えず、その事業に対する助成は違憲の疑いがあることになる。
これに対して、②の立場は、一般に「公の支配に属する」を、「国または地方公共団体の一定の監督が及んでいることをもって足りる」というように、観やかに、かつ広義に解するので、業務や会計の状況に関し報告を徴したり、予算について必要な変更をすべき旨を勧告する程度の監督をもっていれば、成は合憲とされることになる。(もっとも、私学助成の合憲性を基礎づけるには、教育のもつ「公の性質」や憲法二六条の教育の機会均等の原則などを考慮に入れることも必要であろう)。)」(P354-355)
以上のように、社会福祉事業について、専門書であっても見解が一致しておらず、あいまいに社会福祉事業=慈善・博愛事業とうたっているに過ぎない。
こうした時は、第1次史料にあたるのが、このブログの立場だ。前回引用した「社会福祉事業法の解説」(以下、「解説」)において、社会福祉事業がどう定義されているか見てみよう。
「第三節 社会福祉事業の趣旨
社会福祉事業とはなにか、ということについては、社会福祉事業法は、同法の社会福祉事業の範囲について列挙することによってあきらかにしていること、また社会福祉事業を定義することの困難なこと、および現在わが国でいちおう到達している社会福祉事業の定義については、上にのべたのであるが、社会福祉事業法は、これを定義することにかえて、社会福祉事業経営の本旨をあきらかにすることとしているのである。すなわち、社会福祉事業は、援護、育成または更生の措置を要するものにたいし、その独立心をそこなうことなく、正常な社会人として生活することができるように援助することを趣旨として経営されるべきものとしているのである(三)。この事業経営の本旨は、社会福祉事業法の適用される範囲内のみでなく、ひろく社会福祉事業全般に通じるものであるべきで、この本旨にしたがって経営されていないものは、社会福祉事業ということはできないというべきであろう。
(中略)
…社会福祉事業が、公私いずれがおこなうものたるを問わず、慈恵的な施与とは根本的に異なるものであることをあきらかにしたものである。したがって、社会福祉事業の対象となるものが、援護、育成、更生の措置をうけるにあたっては、その独立心をそこなうような方法をもってなされないようにするとともに、つねにこれをうけたものが、正常の社会人として社会経済活動に参加または復帰できるようにおこなわれなければならないのである。」
社会福祉法の現在に至るまで、社会福祉事業については、具体的な事業を指定列挙するという列挙主義を採用しているが、1951年当時の保護更生といった古めかしい援助観をまとっているとはいえ、明らかに「慈恵的な施与」とは一線を画する概念であることを明記している。つまり、社会福祉事業は、第89条に規定される慈善事業とはまったく異なる概念であることが、制度創設当時に示唆されているのである。ちなみに、その後段において社会福祉法人は、「とくに民法の公益法人とは別個にもうけた特殊法人」とも明記されている。ここまで書いてあっても、社会福祉法人を「慈善事業を行う公益法人」とするならば、どんな理由があるのだろうか?
「社会福祉事業法の解説」を読み進めていくと、非常に紛らわしい一節があり、この一節をもって、第89条に抵触するとする解釈があるとも思われる。長文となるが引用しよう。
第四章 社会福祉事業の運営 第一節 社会福祉事業の財政 一 公費による助成 従来、民間社会福祉事業にたいする公費による助成は、重要な地位をしめており、旧社会事業法第十一条にも、「政府へ社会事業ヲ経営スル者ニ対シ予算ノ範囲内=於テ補助スルコトヲ得」と明記されていたほか、じっさいに法令により、または法令によらずして種々の助成が国、地方公共団体によっておこなわれ、これが民間の社会福祉事業の財源の基礎の一つとなっていたのである。しかるに、憲法第八十九条は、「公金その他の公の財産は」「公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又は利用に供してはならない。」と規定して、公の支配にぞくしない私の社会福祉事業にたいする助成の禁止がなされ、一面、公私の責任の分野を明確にするための指令は、原則的にこの助成を禁止したので、民間社会福祉事業に重大な影響があたえられた。しかしながら、公の支配にぞくしない社会福祉事業にたいする公費の助成は禁止されているが、公の支配にぞくする事業にたいしては、公費の助成をうることができるわけであり、生活保護法では、一九五〇年(昭和二五年)の改正で、その保護施設にたいする公費の助成をみとめ、さらに児童福祉法についても、一九五一年(昭和二六年)の改正で、同様の助成をみとめるにいたった。すなわち、生活保護法の保護施設については、同法の一九五〇年(昭和二五年)の改正で、 (一)その保護施設を利用することが、その地域における被保護者の保護のため、きわめて効果的であり、かつ、 (二)その地域に都道府県または市町村の設置する同種の保護施設がないか、またはあっても、これに収容もしくは供用の余力がないとき には、その修理、改造、拡張または整備に要する費用につき補助をすることができ(生七四Ⅰ)、また児童福祉法の児童福祉施設については、同法の一九五一年(昭和二六年)の改正により、 (一)その児童福祉施設が社会福祉法人または民法の公益法人の設置するものであり、かつ、 (二)その児童福祉施設が主として利用される地域で、児童福祉法の規定にもとずく措置を必要とする児童、その保護者または妊産婦の分布状況からみて、同種の児童福祉施設が必要とされるにかかわらず、その地域に、国、都道府県または市町村の設置する同種の児童福祉施設がないか、またはあってもこれが十分でないとき には、その修理、改造、拡張または整備に要する費用について補助できることとされた(児五六の二 Ⅰ)。そして、これらのばあいには、これらの施設を公の支配にぞくさせるために、その人事と予算について、つよい監督規定がもうけられている(生七四Ⅱ、見五六の二Ⅱ)。また、その他の一般の社会福祉事業の施設についても、社会福祉事業法は、国または地方公共団体は、必要があるとみとめるときは、省令または当該地方公共団体の条例でさだめる手続にしたがい、社会福祉法人にたいし、 補助金を支出し、または通常の条件よりも有利な条件で、当該社会福祉法人に貸付金を支出し、もしくは、 その他の財産を譲渡し、もしくは貸付けることができる(ただし、国有財産法および地方財政法第八条第一項の規定の適用をさまたげない)と規定して、助成の途が講じられた(五六Ⅰ)。 |
なんとなく読んでしまうと、社会福祉事業は、憲法第89条の規定に触れる部分があるので、生活保護法・児童福祉法・社会福祉事業法において、民間社会福祉事業及び社会福祉法人は、「公の支配に属する事業」であると規定するに至り、その理論構成によって、施設の修理・改造・拡張または整備に対して公的助成をうけることができるようになったと読める。
しかし、この文章を節目と挙げられているトピックスを境にして時系列に整理しなおしてみよう。日本国憲法第89条の施行開始日は、1947年5月3日。社会福祉事業法の施行開始日は、1951年6月1日である。1951年5月31日まで、日本に存在したのは、社会事業団体であって、社会福祉事業団体ではない。終戦直後から、生活保護・児童保護を主となって担ってきたのは、私設社会事業団体は、私人もしくは法人格を持つとしたら、公益法人であった。この点を考慮して、「解説」の文章を編成しなおすと
(戦前~1947年5月2日)
「従来、民間社会事業にたいする公費による助成は、重要な地位をしめており、社会事業法第十一条にも、「政府へ社会事業ヲ経営スル者ニ対シ予算ノ範囲内=於テ補助スルコトヲ得」と明記されていたほか、じっさいに法令により、または法令によらずして種々の助成が国、地方公共団体によっておこなわれ、これが民間社会事業の財源の基礎の一つとなっていたのである。」
敗戦後の国土の壊滅的被害は、生活保護を必要とする生活困窮者(戦災者・引揚者)を多く生み出し、親保護者を失った戦災孤児に対する保護を必要とした。そのため、先ず、生活保護法や児童保護法が先行して公布施行されたのは周知の事実だが、保護する施設について、以下示す通り、特段資格要件を定めていなかった。
①1946年9月9日 生活保護法公布(1946年10月1日施行)
第六條 この法律において保護施設とは、この法律による保護を目的とする施設又はこの法律による保護を受ける者の援護のために必要な施設をいふ。 前項の援護とは、宿所の提供その他この法律による保護を全うするため必要な事項で命令をもつて定めるものをいふ。 第七條 市町村が保護施設を設置しようとするときは、その設備について、地方長官の認可を受けなければならない。 市町村以外の者(都道府縣を除く。以下同じ。)が保護施設を設置しようとするときは、地方長官の認可を受けなければならない。 第十二條 市町村長は、必要と認めるときは、保護を受ける者を保護施設に收容し、若しくは收容を委託し、又は私人の家庭若しくは適當な施設に收容を委託することができる。 第十四條 保護施設の長は、命令の定めるところにより、その施設に收容された者に對して、適當な作業を行はせることができる。 第四十條 都道府縣、市町村その他の公共團體は、左の建物及び土地に對しては、有料で使用させるものを除いては、租税その他の公課を課することができない。 一 主として保護施設のために使ふ建物 二 前號の建物の敷地その他主として保護施設のために使ふ土地 |
(特に、生活保護法の保護施設に関わる条項をみればわかる通り、民間保護施設は地方長官(知事)の認可さえ受ければ、個人でも公益法人でも、誰でも開設でき、授産をさせることができた。この点が、制度を悪用し、入所者を不当に働かせて搾取する収益を追求する悪質な民間保護施設を生み出す余地を作った。)
②1947年12月12日児童保護法公布(1948年1月1日施行)
第三十五條 國及び都道府縣は、命令の定めるところにより、兒童福祉施設を設置しなければならない。 市町村その他の者は、命令の定めるところにより、行政廳の認可を得て、兒童福祉施設を設置することができる。 都道府縣知事は、地方兒童福祉委員会の意見を聞き、市町村に対し、兒童福祉施設の設置を命ずることができる。 兒童福祉施設には、兒童福祉施設の職員の養成施設を附置することができる。 第三十六條 助産施設は、保健上必要があるにもかかわらず、経済的理由により、入院助産を受けることができない妊産婦を入所させて、助産を受けさせることを目的とする施設とする。 第三十七條 乳兒院は、乳兒を入院させて、これを養育することを目的とする施設とする。 前項の規定による養育は、必要があるときは、乳兒が満二歳に達するまで、これを継続することができる。 第三十八條 母子寮は、配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女子及びその者の監護すべき兒童を入所させて、これらの者を保護することを目的とする施設とする。 第三十九條 保育所は、日日保護者の委託を受けて、その乳兒又は幼兒を保育することを目的とする施設とする。 第四十條 兒童厚生施設は、兒童遊園、兒童館等兒童に健全な遊びを與えて、その健康を増進し、又は情操をゆたかにすることを目的とする施設とする。 第四十一條 養護施設は、乳兒を除いて、保護者のない兒童、虐待されている兒童その他環境上養護を要する兒童を入所させて、これを養護することを目的とする施設とする。 第四十二條 精神薄弱兒施設は、精神薄弱の兒童を入所させて、これを保護するとともに、独立自活に必要な知識技能を與えることを目的とする施設とする。 第四十三條 療育施設は、身体の虚弱な兒童に適正な環境を與えて、その健康増進を図ることを目的とする施設又は身体の機能の不自由な兒童を治療するとともに、独立自活に必要な知識技能を與えることを目的とする施設とする。 第四十四條 教護院は、不良行爲をなし、又はなす虞のある兒童を入院させて、これを教護することを目的とする施設とする。 第四十五條 厚生大臣は、中央兒童福祉委員会の意見を聞き、兒童福祉施設の設備及び運営について、最低基準を定めなければならない。 第四十六條 行政廳は、前條の最低基準を維持するため、兒童福祉施設の長に対して、必要な報告をさせ、兒童の福祉に関する事務に從事する官吏又は吏員に、実地につき監督させることができる。 第五十七條 都道府縣、市町村その他の公共團体は、左の各号に掲げる建物及び土地に対しては、租税その他の公課を課することができない。但し、有料で使用させるものについては、この限りでない。 一 主として兒童福祉施設のために使う建物 二 前号に掲げる建物の敷地その他主として兒童福祉施設のために使う土地 |
ここでも、民間の児童福祉施設については、厚生省が最低基準を定めるとはいえ、民間の設置者については特段制限が設けられていない。
(1947年5月3日~1950年5月3日)
1947年5月3日 日本国憲法施行
「しかるに、憲法第八十九条は、「公金その他の公の財産は」「公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又は利用に供してはならない。」と規定して、公の支配にぞくしない私の社会事業にたいする助成の禁止がなされ、一面、公私の責任の分野を明確にするための指令は、原則的にこの助成を禁止したので、民間社会事業(原文では、「民間社会福祉事業」とあるのを改変)に重大な影響があたえられた。」
*「公私の責任の分野を明確にするための指令は、原則的にこの助成を禁止した」と記載されている「指令」は、連合国最高司令官総司令部 SCAPIN778(1946年2月27日)「社会救済」及び連合国最高司令官総司令部公衆衛生福祉局 「政府の私設社会事業団体に対する補助に関する件」(1946年10月30日)を指すと思われる。(この指令の具体的内容と意味については次回投稿で明らかにしたい)
*上記の一節は、「解説」の社会福祉事業の定義などの立場からすると、この時期には存在したのは、社会福祉事業体ではなく、従来の社会事業体である。「解説」は、わざわざその時期を曖昧にして、記載しているので、この点を再編成・修正している。
民間の保護施設、児童福祉施設は、雑多な運営主体による「慈善事業」であるため、憲法第89条に抵触し、必要な施設の修理・改造・拡張または整備にたいする公的助成が行われないまま厳しい運営をしなければならなかった。
(1950年5月4日~1951年5月31日)
1950年5月4日 改正生活保護法施行
(種類) 第三十八條 保護施設の種類は、左の通りとする。 一 養老施設 二 救護施設 三 更生施設 四 医療保護施設 五 授産施設 六 宿所提供施設 2 養老施設は、老衰のため独立して日常生活を営むことのできない要保護者を收容して、生活扶助を行うことを目的とする施設とする。 3 救護施設は、身体上又は精神上著しい欠陷があるために独立して日常生活の用を弁ずることのできない要保護者を收容して、生活扶助を行うことを目的とする施設とする。 4 更生施設は、身体上又は精神上の理由により養護及び補導を必要とする要保護者を收容して、生活扶助を行うことを目的とする施設とする。 5 医療保護施設は、医療を必要とする要保護者に対して、医療の給付を行うことを目的とする施設とする。 6 授産施設は、身体上若しくは精神上の理由又は世帶の事情により就業能力の限られている要保護者に対して、就労又は技能の修得のために必要な機会及び便宜を與えて、その自立を助長することを目的とする施設とする。 7 宿所提供施設は、住居のない要保護者の世帶に対して、住宅扶助を行うことを目的とする施設とする。 (公益法人の保護施設の設置) 第四十一條 都道府県及び市町村の外、保護施設は、民法第三十四條の規定により設立した法人(以下「公益法人」という。)でなければ設置することができない。 *民法第三十四條 祭祀、宗敎、慈善、學術、技藝其他公益ニ關スル社團又ハ財團ニシテ營利ヲ目的トセサルモノハ主務官廳ノ許可ヲ得テ之ヲ法人ト爲スコトヲ得 2 公益法人は、保護施設を設置しようとするときは、あらかじめ、左に掲げる事項を記載した申請書を都道府県知事に提出して、その認可を受けなければならない。 一 保護施設の名称及び種類 二 設置者たる法人の名称並びに代表者の氏名、住所及び資産状況 三 寄附行為、定款その他の基本約款 四 建物その他の設備の規模及び構造 五 取扱定員 六 事業開始の予定年月日 七 経営の責任者及び保護の実務に当る幹部職員の氏名及び経歴 八 経理の方針 3 都道府県知事は、前項の認可の申請があつた場合に、その施設が第三十九條に規定する基準の外、左の各号の基準に適合するものであるときは、これを認可しなければならない。 一 設置しようとする者の経済的基礎が確実であること。 二 その保護施設の主として利用される地域における要保護者の分布状況からみて、当該保護施設の設置が必要であること。 三 保護の実務に当る幹部職員が厚生大臣の定める資格を有するものであること。 4 第一項の認可をするに当つて、都道府県知事は、その保護施設の存続期間を限り、又は保護の目的を達するために必要と認める條件を附することができる。 5 第二項の認可を受けた公益法人は、同項第一号又は第三号から第八号までに掲げる事項を変更しようとするときは、あらかじめ、都道府県知事の認可を受けなければならない。この認可の申請があつた場合には、第三項の規定を準用する。 第四十二條(公益法人の保護施設の休止又は廃止) 第四十三條(指導) 第四十五條(改善命令等) (都道府県の補助) 第七十四條 都道府県は、左に掲げる場合においては、第四十一條の規定により設置した保護施設の修理、改造、拡張又は整備に要する費用の四分の三以内を補助することができる。 一 その保護施設を利用することがその地域における被保護者の保護のため極めて効果的であるとき。 二 その地域に都道府県又は市町村の設置する同種の保護施設がないか、又はあつてもこれに收容若しくは供用の余力がないとき。 2 第四十三條から第四十五條までに規定するものの外、前項の規定により補助を受けた保護施設に対する監督については、左の各号による。 一 厚生大臣は、その保護施設に対して、その業務又は会計の状況について必要と認める事項の報告を命ずることができる。 二 厚生大臣及び都道府県知事は、その保護施設の予算が、補助の効果を上げるために不適当と認めるときは、その予算について、必要な変更をすべき旨を指示することができる。 三 厚生大臣及び都道府県知事は、その保護施設の職員が、この法律若しくはこれに基く命令又はこれらに基いてする処分に違反したときは、当該職員を解職すべき旨を指示することができる。 |
「しかしながら、公の支配にぞくしない社会事業にたいする公費の助成は禁止されているが、公の支配にぞくする事業にたいしては、公費の助成をうることができるわけであり、生活保護法では、一九五〇年(昭和二五年)の改正で、その保護施設にたいする公費の助成をみとめ、」
「すなわち、生活保護法の保護施設については、同法の一九五〇年(昭和二五年)の改正で、
(一)その保護施設を利用することが、その地域における被保護者の保護のため、きわめて効果的であり、かつ、
(二)その地域に都道府県または市町村の設置する同種の保護施設がないか、またはあっても、これに収容もしくは供用の余力がないとき
には、その修理、改造、拡張または整備に要する費用につき補助をすることができ(生七四Ⅰ)」
「「そして、これらのばあいには、これらの施設を公の支配にぞくさせるために、その人事と予算について、つよい監督規定がもうけられている(生七四Ⅱ、見五六の二Ⅱ)。」
大きく括られていた保護施設について、この改正で、養老施設・救護施設・更生施設・医療保護施設・授産施設・宿所提供施設と機能分化が行われるとともに、雑多な運営主体を容認していた保護施設について、その運営主体を公益法人(すなわち主務大臣に慈善事業と認定された法人)に限定し、その上で、公の支配に属する(施設設置の認可、指導の受け入れ、人事予算への監督を受け入れる等)をすることで、修理、改造、拡張または整備への公的助成の道筋をつけたのである。
(1951年6月1日~)
①1951年6月1日 社会福祉事業法施行
(定義) 第二條 この法律において「社会福祉事業」とは、第一種社会福祉事業及び第二種社会福祉事業をいう。 2 左の各号に掲げる事業を第一種社会福祉事業とする。 一 生活保護法にいう養老施設、救護施設、更生施設その他生計困難者を無料又は低額な料金で收容して生活の扶助を行うことを目的とする施設を経営する事業及び生計困難者に対して助葬を行う事業 二 兒童福祉法にいう乳兒院、母子寮、養護施設、精神薄弱兒施設、盲ろうあ兒施設、虚弱兒施設、し体不自由兒施設又は教護院を経営する事業 三 身体障害者福祉法にいう身体障害者更生指導施設、中途失明者更生施設又は身体障害者收容授産施設を経営する事業 四 公益質屋又は授産施設を経営する事業及び生計困難者に対して無利子又は低利で資金を融通する事業 3 左の各号に掲げる事業を第二種社会福祉事業とする。 一 生計困難者に対して、その住居で衣食その他日常の生活必需品若しくはこれに要する金銭を與え、又は生活に関する相談に応ずる事業 二 兒童福祉法にいう助産施設、保育所又は兒童厚生施設を経営する事業及び兒童の福祉の増進について相談に応ずる事業 三 無料又は低額な料金で身体障害者福祉法にいう義し要具製作施設、点字図書館又は点字出版施設を経営する事業及び身体障害者の更生相談に応ずる事業 四 生計困難者のために、無料又は低額な料金で、簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他の施設を利用させる事業 五 生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う事業 六 前項各号及び前各号の事業に関する連絡又は助成を行う事業 4 この法律における「社会福祉事業」には、左の各号に掲げる事業は、含まれないものとする。 一 更生緊急保護法(昭和二十五年法律第二百三号)にいう更生保護事業 二 実施期間が六月(前項第六号に掲げる事業にあつては、三月)をこえない事業 三 社団又は組合の行う事業であつて、社員又は組合員のためにするもの 四 第二項各号及び前項第一号から第五号までに掲げる事業であつて、常時保護を受ける者が、收容保護を行うものにあつては五人、その他のものにあつては二十人に満たないもの 五 第三項第六号に掲げる事業のうち、社会福祉事業の助成を行うものであつて、助成の金額が毎年度五十万円に満たないもの又は助成を受ける社会福祉事業の数が毎年度五十に満たないもの (社会福祉事業の趣旨) 第三條 社会福祉事業は、援護、育成又は更生の措置を要する者に対し、その独立心をそこなうことなく、正常な社会人として生活することができるように援助することを趣旨として経営されなければならない。 附 則 (施行期日) 1 この法律は、昭和二十六年六月一日から施行する。但し、第四章、第五章並びに附則第三項から第六項まで及び第十項の規定は、同年四月一日から、第三章及び附則第七項から第九項までの規定は、同年十月一日から施行する。 (関係法律の廃止) 2 社会事業法(昭和十三年法律第五十九号)は、廃止する。 11 この法律の施行の際、現に民法第三十四條の規定により設立した法人で、社会福祉事業を経営しているもの(以下「公益法人」という。)は、昭和二十七年五月三十一日までに、その組織を変更して社会福祉法人となることができる。 12 前項の規定により、公益法人がその組織を変更して社会福祉法人となるには、その公益法人の定款又は寄附行為の定めるところにより、組織変更のため必要な定款又は寄附行為の変更をし、厚生大臣の認可を受けなければならない。この場合においては、財団たる公益法人は、寄附行為に寄附行為の変更に関する規定がないときでも、厚生大臣の承認を得て、理事の定める手続に従い、寄附行為の変更をすることができる。 |
社会福祉事業法の制定に伴い、保護施設・児童福祉施設等を第1種・第2種社会福祉事業に分けるとともに、生活保護法・児童福祉法には定められていない「その独立心をそこなうことなく、正常な社会人として生活することができるように援助する」趣旨を盛り込んで「社会福祉事業」として再構成し、社会福祉事業を経営する公益法人には、社会福祉法人に移行できる道筋をしめした。
②1951年5月31日 生活保護法の一部を改正する法律公布
第四十一條の見出し並びに同條第二項及び第五項中「公益法人」を「社会福祉法人」に、同條第一項中「民法第三十四條の規定により設立した法人(以下「公益法人」という。)」を「社会福祉法人」に改める。 第四十二條、第四十三條第二項及び第四十五條第二項中「公益法人」を「社会福祉法人」に改める。 附 則 (施行期日) 1 この法律は、昭和二十六年十月一日から施行する。但し、第四十一條から第四十三條まで及び第四十五條の改正規定は、同年六月一日から施行する。 4 第四十一條の改正規定の施行の際現に認可を受けて保護施設を設置する公益法人が、引き続きその保護施設を設置するときは、昭和二十七年五月三十一日までは、その保護施設は、この法律による改正後の第四十一條に基いて認可された保護施設とみなす。 |
この改正で、社会福祉事業法施行と同時に、保護施設の経営体を公益法人ではなく社会福祉法人に限定をし、1952年5月31日までの一年間の猶予期間を与え、公益法人から社会福祉法人への移行を促したのである。
③1951年6月6日 児童福祉法の一部を改正する法律公布
第四章中第五十六條の次に次の二條を加える。 第五十六條の二 都道府県は、左の各号に該当する場合においては、第三十五條第二項の規定により、市町村以外の者が設置した兒童福祉施設について、その修理、改造、拡張又は整備に要する費用の四分の三以内を補助することができる。 一 その兒童福祉施設が、社会福祉事業法第二十九條第一項の規定により設立された社会福祉法人又は民法第三十四條の規定により設立された法人の設置するものであること。 二 その兒童福祉施設が主として利用される地域において、この法律の規定に基く措置を必要とする兒童、その保護者又は妊産婦の分布状況からみて、同種の兒童福祉施設が必要とされるにかかわらず、その地域に、国、都道府県又は市町村の設置する同種の兒童福祉施設がないか、又はあつてもこれが十分でないこと。 前項の規定により、兒童福祉施設に対する補助がなされたときは、厚生大臣及び都道府県知事は、その補助の目的が有効に達せられることを確保するため、当該兒童福祉施設に対して、第四十六條及び第五十八條に規定するものの外、左の各号に掲げる権限を有する。 一 その兒童福祉施設の予算が、補助の効果をあげるために不適当であると認めるときは、その予算について必要な変更をすべき旨を指示すること。 二 その兒童福祉施設の職員が、この法律若しくはこれに基く命令又はこれらに基いてする処分に違反したときは、当該職員を解職すべき旨を指示すること。 *第四十六條 行政廳は、前條の最低基準を維持するため、兒童福祉施設の長に対して、必要な報告をさせ、兒童の福祉に関する事務に從事する官吏又は吏員に、実地につき監督させることができる。 行政廳は、兒童福祉施設の設備又は運営が、前條の最低基準に達しないときは、その改善を命じ、又は兒童福祉委員会の意見を聞き、その事業の停止を命ずることができる。 *第五十八條 第三十五條第二項の規定により設置した兒童福祉施設が、この法律若しくはこの法律に基いて発する命令又はこれらに基いてなす処分に違反したときは、行政廳は、同項の認可を取り消すことができる。 兒童福祉施設であつて、この法律による認可を受けないもの又は前項の規定により認可を取り消されたものについては、行政廳は、兒童福祉委員会の意見を聞き、その事業の停止を命ずることができる。 国庫は、第一項の規定により都道府県が補助した金額の三分の二以内を補助することができる。 第五十六條の三 都道府県は、左に掲げる場合においては、補助金の交付を受けた兒童福祉施設の設置者に対して、既に交付した補助金の全部又は一部の返還を命ずることができる。 一 補助金の交付條件に違反したとき。 二 詐欺その他の不正な手段をもつて、補助金の交付を受けたとき。 三 兒童福祉施設の経営について、営利を図る行為があつたとき。 四 兒童福祉施設が、この法律若しくはこれに基く命令又はこれらに基いてする処分に違反したとき。 (施行期日) 1 この法律は、昭和二十六年十月一日から施行する。但し、第四十八條、第五十六條の二及び第五十六條の三に関する改正規定並びにこの法律の附則第七項の規定は、公布の日から施行し、この法律の附則第七項の規定は、同年四月一日から適用する。 |
「さらに児童福祉法についても、一九五一年(昭和二六年)の改正で、同様の助成をみとめるにいたった。
また児童福祉法の児童福祉施設については、同法の一九五一年(昭和二六年)の改正により、
(一)その児童福祉施設が社会福祉法人または民法の公益法人の設置するものであり、かつ、
(二)その児童福祉施設が主として利用される地域で、児童福祉法の規定にもとずく措置を必要とする児童、その保護者または妊産婦の分布状況からみて、同種の児童福祉施設が必要とされるにかかわらず、その地域に、国、都道府県または市町村の設置する同種の児童福祉施設がないか、またはあってもこれが十分でないとき
には、その修理、改造、拡張または整備に要する費用について補助できることとされた(児五六の二 Ⅰ)。」
「そして、これらのばあいには、これらの施設を公の支配にぞくさせるために、その人事と予算について、つよい監督規定がもうけられている(生七四Ⅱ、見五六の二Ⅱ)。」
この改正の内容をこれまでの経過に沿って整理するならば、公的助成を受けて児童福祉施設を修理、改造、拡張または整備をするのであれば、経営主体は、社会福祉法人か公益法人に移行しなければならないことが初めて示されたというのがポイントである。(生活保護法と異なり、経営主体に「公益法人」が残された理由は別の機会に述べることとする)ただ、社会福祉法人と公益法人では、補助金や貸付金について有利な条件や税制上の優遇等を受けることになり、本来的に言えば、公益法人も社会福祉法人に移行することが求められたと言える。
「また、その他の一般の社会福祉事業の施設についても、社会福祉事業法は、国または地方公共団体は、必要があるとみとめるときは、省令または当該地方公共団体の条例でさだめる手続にしたがい、社会福祉法人にたいし、 補助金を支出し、または通常の条件よりも有利な条件で、当該社会福祉法人に貸付金を支出し、もしくは、 その他の財産を譲渡し、もしくは貸付けることができる(ただし、国有財産法および地方財政法第八条第一項の規定の適用をさまたげない)と規定して、助成の途が講じられた(五六Ⅰ)。」
長々と法律を引用したり、対照させたりしてきたが、この間の経過は、社会福祉事業法成立前に、雑多な運営主体で構成されていた民間保護施設・児童福祉施設の窮状を救うため、「公の支配に属する事業」と位置付けることで、憲法89条を回避し公的助成を獲得するための社会事業家・厚生省の理論構成の賜物であって、社会福祉事業=慈善事業、社会福祉法人=89条回避のための法人という「理論」を証明するものでも何でもないのだ。
社会福祉事業は、憲法第25条第2項に基礎づけられる、国民の「健康で文化的な最低限の生活」を営む権利を尊重保障する国が増進させなければならない義務に基礎づけられる事業であり、なおかつ社会福祉法人もこうした増進義務のある社会福祉事業を支える特別な法人であるという当たり前の結論しか歴史的な経過は語っていないのである。
ただ、「解説」のこの一節は非常に紛らわしく、社会福祉事業という概念がない時代(戦前~事業法制定まで)の社会事業を社会福祉事業と書くことで、慈善事業の含みを持たせるようにした意図はどこにあるのだろうか?推理小説ではないが、そのように混同することで、誰がどのような得をするのかを考えてみた。当時、日本政府は敗戦後の財政窮乏の折、困窮者の社会的救済を公的責任ですべて果たす余裕や考えを持たなかった。従って、従来からの社会事業団体や戦後の混乱の中で心を痛めた篤志家、慈善活動家に依存するしかなかった。彼らのモチベーションを動員するには、社会的な救済(社会福祉)が「慈悲」「善意」の心に基づく活動であるという余地を残して置いたほうがよいと判断したのではないか。それだから、確かに社会福祉事業は社会事業とは別概念ではあるが、同じ地平にあるものとして混同して記載したのではないだろうか?しかし、所詮この主張は、動員用の口実であって、歴史的な辻褄にはあっていない。それを「真実」として流布し始めると、どんな手の込んだ理屈を作り上げるのか、そして第89条の正しい理解とは何なのか等々次回の投稿で明らかにしていこうと思う。