「社会福祉法人を考える」シリーズを書き終えて、ここ数年調べためていたことをやっと公開できて、ホッとしている。さて、今度は何を書こうかと思うと、なかなかテーマが浮かんでこない。「障害者支援施設のあり方」とかは仕事上、旬なテーマだが、ちょっと準備がいりそうだ。構想がまとまるまでのしばらくの間、これまで、書いてきたテーマやトピックをまとめながら、書き残していることを補足していこうかと思う。
先ずは、「氷山モデル」についてまとめと補足をしていこうと思う。
ちょうど一年前「ワンポイント:「氷山モデル」とICF(アセスメントモデル①)」に書いたことをまとめておくと
①もともと「氷山モデル」は、経営学においてビジネス上の課題分析をする場合、表面上見えている課題の下には数えきれないほどの課題が水面下にあるということを視覚的に理解するモデルとして発案され、TEACCHチームにおいて、家族に「行動上の問題」(水面上)と背景(水面下)の関連性を理解してもらうモデルとして採用された。
②我が国においては、「氷山モデル」はアセスメントツールとして改良され、「氷山モデルシート」として使用されている。基本の考え方は、「課題となっている行動」(水面上)=「本人の特性」✕「環境・状況」(水面下)と分析し、原因となる「本人の特性」や「環境・状況」に対する適切な「必要なサポート」をすれば、「課題となっている行動」は改善されるとするものである。
③一方、ICF(国際生活機能分類)は、WHOが提唱したものであり、国際標準的な分類である。様々な症例や活動形態について、コード化されており、医療関係者も含めて汎用性がある。
④ICF(国際生活機能分類)は、「医学モデル」と「社会モデル」の統合モデルであり、「生活機能のさまざまな観点の統合をはかる上で、『生物・心理・社会的』アプローチを用いる」こととされている。このアプローチは、BPSアプローチ(モデル)と呼ばれるもので、人間の心理的問題や身体的な症状・病気は、生物的要因(医学的要因)、心理的要因、社会的要因がそれぞれ分離しているのではなく、多くの場合、相互に影響し合った複合的な問題からなるとするモデルである。「生活課題・病気・行動障害等」=「生物的要因」✕「心理的要因」✕「社会的要因」と分析し、介入ポイントを探っていくアプローチでもある。
⑤ただ、日本ではICFを使用する際、ICFテキストには記載されているにもかかわらず、知的障害・自閉症等発達障害を「心身機能(body functions)」のカテゴリーに入れることがあいまいにされている傾向がある。障害福祉の分野では、言われている割には活用されることが実際は少ない。
前回の投稿では、行動分析やアセスメントのツールや枠組みとして、「氷山モデル」以外に、ICFモデルやその背景としてBPSモデル・アプローチを紹介したわけだが、どれを活用するかは実践においてどれが有用なのかという支援者の考えに委ねて終わった。
今回は少し論を進めて、氷山モデルとBPSモデルについて、ちょっと実践的な比較を行ってみよう。
公開されている国立障害者リハビリテーションセンター発達障害情報・支援センター強度行動障害支援者研修資料(https://www.rehab.go.jp/ddis/data/material/strength_behavior/)にアップされてる「特性確認シート」(https://www.rehab.go.jp/application/files/4516/3062/6999/3_21A3.pdf)を見ると、観察されている「行動」に対応すると思われる「【2】その行動の背景にある要因として考えられること(認知・記憶/注意・集中/運動・姿勢などの特性も含む)」が、対応しており、「【3】支援のアイデア」方向性まで導かれている。左から右へ流していくと支援のアイディアにたどり着けるよう工夫されたものだ。
以前、このブログの「強度行動障害支援の支援モデルはどうあるべきか?~研究史批判から整合性のあるモデルを考える」(https://looker-on.com/?p=370)で紹介したが、平成20年度「発達障害者の新しい診断・治療法の開発に関する研究」(厚生労働省科学研究費補助金 こころの健康科学研究事業 主任研究者 奥山眞紀子氏(国立成育医療センターこころの診療部)において、「これまでの強度行動障害事業とその研究報告について批判的な検討」が行われた論文「Ⅱ 強度行動障害の再検討 研究1 強度行動障害の再検討 石井班の報告を中心に」(研究協力者 川村昌代 あいち小児保健医療センター)において、強度行動障害を示す障害の組み合わせに、てんかんを併存している群が多いと分析されていることやLooker-onがこれまで調べた経験から情緒安定の目的で抗精神病薬を長期に服用させた場合の薬剤起因性行動障害による二次障害があること、最近再び注目されてきたが虐待等トラウマ経験による行動障害の存在(トラウマインフォームドケア)の最発見、こうした新たな角度も考慮すると、「課題となっている行動」(水面上)=「本人の特性」✕「環境・状況」(水面下)という枠組みで分析して、支援者(もしくは多職種連携による専門家集団)の高度な知識と経験により、本人特性に様々な疾患や要因を書き込んでいくよりも、初めから「生活課題・病気・行動障害等」=「生物的要因」✕「心理的要因」✕「社会的要因」の枠組みで、てんかんや長期間の薬物療法は、「生物的要因」情報に、トラウマ体験は「心理的要因」や「社会的要因」に分類していく方が、メカニズムが明快になるように思われる。
アセスメントツールとしての「氷山モデル」は、BPSモデルと比較すると、心理的背景を書き込む欄がないのだ。(本人の障害特性の部分に書き込めばいいと言えばいいのだが、本人の意思は障害特性ではない)仮に、望まない支援環境に連れて来られた利用者が反抗心のために他害行為や衣類破りを行っているとかトラウマほどではないが過去の嫌な支援経験により現在の支援者たちを信頼できなくて拒絶的な態度をとっているという仮説は、そもそも心理的要因という視点を記載しなければならないBPSモデルからは情報を整理する過程で仮説として立てられやすいが、氷山モデルや特性確認シートでは捨てられてしまう可能性がある。
この話は、結局アセスメントというものをどのように行うか、どのようなものと定義するかに帰着する。
Looker-onは、この点については、バイブルのように考えを踏襲している本がある。
一つは、「医療・保健・福祉・心理職のためのアセスメントを高めるハンドブック」(近藤直司著 明石書店)
(現在は、版を重ね内容もブラッシュアップされ、第3版を重ねている)BPSモデルという視点が明快な本で、「アセスメント」という用語の定義も分かりやすい。
「一つ一つの情報を自分なりに解釈し、それらを組み立て、生じている問題の成り立ち mechanism を構成し、まとめ上げ、支援課題を抽出すること、あるいは、その人がどんな人で、どんな支援を必要としているのかを明らかにすること」
単に、情報を「生物的要因」、「心理的要因」、「社会的要因」と分類するだけではなく、その要因情報がどのように絡まりあって問題を生じさせているかというメカニズムを、自分なりに解釈し支援課題を抽出する行為がアセスメントなのだと記載している。仮説は、この定義によれば、「根拠ある仮説」(メカニズムを説明できるという意味)でなければならないのである。
もう一冊は、「援助を深める事例研究の方法」(岩間伸之著 ミネルバ書房)
これは、日本社会福祉士会が事例検討会を行う時の方法論としている本である。これも事例検討について、
「本人のこれまでの人生、人生観、生き方、生き様、価値観今の生活世界、感情などに近づくこと、つまり本人そのものに近づくこと。」
「本人の<ストーリー>への接近」
言語表現に制限がある知的障害に適用困難を感じる部分があるが、「本人に寄り添う」と抽象的に述べられるよりは、はるかにイメージしやすいと思っている。
いずれにせよ、本人の意思決定支援を標榜するのなら、アセスメントにおいても、本人が思っていること、心理的な課題、それを形成した成育歴や生活歴の分析は、強度行動障害の支援を行う上で避けてはいけない視点ではないかと思う。また、サービス管理責任者に義務付けられた本人とのアセスメント面談が設けらられた意味をこうした視点から取り組んでほしいとも思うのだ。