ある研修企画の会議で、障害者支援施設において利用者からの暴力や威嚇行為を受けた支援スタッフに対する心理的な支援の在り方について考える機会があった。支援現場での「暴力」の問題は、従来から支援者からの利用者に対する暴力即ち虐待という観点で語られることは多いが、利用者からの攻撃を支援者や家族が受けていることは稀ではない。ネット上で、「障害者 暴力」と検索してみると、圧倒的に行政機関や公益団体が発信する情報は、「障害者虐待」に関するもので、知的障害・発達障害児者が支援者に対して行う暴力を取り扱ったサイトとしては、民間団体が運営する「福祉保育の事例解決データーベース みんなのじれい」(https://fukushisenpai.com/ 運営:株式会社welf villa)が確認できるぐらいだ。こうしたデーターベースサイトは、具体的事例はよくわかり、その場での支援のノウハウは閲覧する人によってはつかめるかもしれないが、公的な機関による実態調査がない中では、普遍的、標準化された支援方法や制度改革につながらない問題を抱えている。こうしたサイトがネットに立ち上がってくるということは、実際に支援現場に暴力に対応するという需要があるということの裏返しを意味している。

*Looker-onのインターネット検索では、我が国における知的障害福祉分野における「利用者からの暴力」に関する公的及び研究団体からの統計調査や論文を見出すことができなかった。情報を持っている方はご教示願いたい。

「障害者支援施設の在り方について考える」シリーズに取り掛かる上でも、「利用者からの暴力」について避けては通れない課題だ。とは言え、考える基準として、恒例の書店巡りをして、やはり海外文献にあたることとしようと思う。これまた英国の文献を紹介することとなるのだが、「攻撃的なクライエントへの対応 対人援助職の安全対策ガイド」(ポーリン・ビビー著1994年英国 原題Personal Safety for Social Workers 邦訳出版2023年 明石書店 清水隆則監訳者他)が正面切ってこの問題を取り扱っているので、この文献の内容を紹介しながら、「利用者からの暴力」について考えてみたい。注意深い読者は、この本が英国で出版されたのは、今から10年前でそれなりにタイムラグがある。そのため、この本の内容をそのまま現在に適用するのは慎重であるべきとは思うが、本質的な部分について紹介し考察していこうと思う。

先ず、本書の成り立ちから

「はじめに」において、「本書は、The Suzy Lamplugh 信託団体のDiana Lamplughと共同したChris Cardyの業績、「職場における安全のためのトレーニング」 (Training for Personal Safety in the workplace) に大きく依存している。」とさりげなく書かれている。The Suzy Lamplugh 信託団体=The Suzy Lamplugh Trustは、娘のSuzy Lamplughの失踪事件(ストーカーに騙され誘い出されたとされる事件。現在も所在不明)を契機に、両親が1986年12月に設立された慈善団体。このトラストの使命は、訓練や様々なプロジェクトを通じた個人の安全に対する意識の向上、人々が攻撃を避けることができる目的とした支援、行方不明者の親族や友人にカウンセリングとサポートの提供である。また、英国の全国ストーカー相談窓口を運営している。

The Suzy Lamplugh TrustのWebサイトには

Mission

Our mission is to reduce the risk and prevalence of abuse, aggression, and violence – with a specific focus on stalking and harassment – through education, campaigning, and support.

(私たちの使命は、教育、キャンペーン、サポートを通じて、虐待、攻撃、ストーカー行為やハラスメントについて特別焦点が当たる暴力のリスクとその蔓延を減らすことです。 Looker-on訳)

Vision

Our vision is to eliminate abuse, aggression, and violence, creating a society in which people are safer and feel safer.

(私たちのビジョンは、人々がより安全で安全と感じられる社会を創ることで虐待、攻撃、暴力をなくすことです。 Looker-on訳)

と団体の使命とビジョンが謳われている

Diana Lamplughは、Suzy Lamplughの母親でこのトラストの創立者である。本書が準拠した書籍は、暴力や攻撃といったものについて闘ってきた当事者たちの成果の上に発展させられたものである。

こうした背景があるからか、本書が対象とするクライエントは、

「一例えば、 子どもは、学校や保育現場で、気まぐれや発散のため、虐待的な言葉使いやちょっとした暴行をしがちである。

一精神障碍者は、理性的な行動の判断がうまくいかず、暴言や暴行をしてしまう可能性がある。

一娯楽の場やパブでは、アルコールのため、中には毒づく人がいるが、脅しはしない。」

「ソーシャルワーカーは、門番的役割を果たすことが多い。資金やサービスを手に入れる手段と見なされている。そのため、クライエントの要望に応えられない時やその意思がない場合には、暴力のリスクが高くなる。金錢給付の拒否は、特に危険な要素と見なされている。クライエントの援助の期待が、拒否されたとき、フラストレーションや怒りがソーシャルワーカーに向くようになるであろう。ソーシャルワーカー自身も、資源の不足のためクライエントの窮状に応えることができない場合、ストレスやフラストレーションが高くなると報告している。」

と例示されているよう、人格形成が未熟な子どもや精神疾患により理性的な行動の判断ができない精神障碍者、生活困窮者等が暴力をふるうクライアントとして想定されている。そのため、知的障害者・発達障障害者の暴力については、本書の視点から類推をもって考える必要がある。しかし、被害者救済をミッションとしてきた団体の立場として、被害者が被ったダメージから暴力を定義する視点は大切ではないかと思う。

その上で、「暴力」(violence)の例としては

「身体的暴力                                                    

致死に至る暴行、重度傷害に至る暴行、軽度傷害行為、蹴ること、咬むこと、叩くこと

武器の使用、飛び道具の使用                               

唾をかける行為、かきむしる行為、性的暴行               

非身体的暴力

言葉による虐待、人種的、性的虐待、

脅し(武器の使用、不使用ともに)、電話での虐待、犬を用いた脅し、様々な形態のハラスメント

ののしり、どなる、悪口、いじめ、あてつけ、無視」

定義として、「職務遂行中の被雇用者に向けられた身体的、精神的ダメージをもたらすあらゆる行為」が採用されている。そして、「この定義は、あらゆる形態の身体的、非身体的虐待、攻撃、脅しや暴行を含むとともに、犠牲者中心主義を採用するものである。すなわち、何がダメージ、特に精神的ダメージかというアセスメント(判断)に際しては、当事者の主観を基礎にしなければならないということである。」

支援現場で、支援者が利用者から受ける行為の中で「他害行為」と呼ばれるものは暴行・傷害行為であり、これに、唾をかける行為が身体的暴力に分類されて、「言葉による虐待」ののしり、どなる等も非身体的であるとはいえ「暴力」と分類されているのが、興味深く、我が国には弱い視点ではないだろうか。

生理的な問題として考えるならば、暴力を受け身体的、精神的、生命に危険を感じたならば、およそ動物は、その危機から逃げるか反撃するのが本能というものである。そのような危険な一種悪意が行使される職場に誰が好き好んで職務を遂行しようと思うだろうか?

本書で例示されている以下のワーカーや組織の対応は、

「ワーカーは、たとえクライエントの過去の暴力に気づいていても、暴力事例の報告に接すると、ショックを受け、実際に起きたことに驚く。しかし、ソーシャルワーカーは、自分の身に起きそうな暴力の可能性を否定するようになるであろう。そして、その否定によって、恐怖に圧倒されることを防止し、自己効力感の減退による無気力感を感じないようになるであろう。

不幸なことに、このようなやり方は、攻撃リスクの過小評価や無視をワーカ一にもたらし、何の準備もなく非常に危険な状況に歩み寄ることを許すことになろう。暴力のリスクへの認識を欠き、それへの対策をなおざりにすれば、自お相手の攻撃傾向を助長し、物理的暴力を引き起こしてしまうことにつながる。」(P31)

「ソーシャルワーカーは、専門職としてそのような攻撃をあらかじめ予期し、 予防すべきであるという非現実的で、多くの場合、自らに言い聞かせた期待があるが、そうできない場合、それは自責の念を生じさせる。自分に与えられた責務を果たそうとしているソーシャルワーカーに対する暴力は、彼らの自尊心と専門職としての能力を傷つける効果をもつ。」(P33)

「ソーシャルワーカーが脅されたり、身体的暴力を振るわれたりする際、様々反応が生じるであろう。暴力を経験したワーカーたちは、攻撃された瞬間。 「凍り付き」、続いてショックと驚きを感じたと報告している。その後、一般に怒りが生じ、それは攻撃者や職場の同僚や所属に向かうこともある。」(P33)

「Victor Schwarzは、「コミュニティ・ケア」誌で、ソーシャルワーカーは、 『自分に対する暴力に対して、自らを責めたり、また仲間同士で自責の念をもつ』ことを明らかにしている。」(P33)

ワーカーは、利用者が暴力をふるう事実を過小評価するか、ないものとして意識から排除したり、直面した場合のショックや怒りは、攻撃したクライエント、ワーカー自身、同僚・所属機関に向けられることを明らかにしている。これらは、心理学でいう防衛機制、即ち「抑圧(不愉快な思い、葛藤・不安を無意識のうちにどこかに押し込める)」「否認(故意に意識に上らせない)」「合理化(自分の本来の気持ち・動機を隠して都合の良い理屈で正当化する)」「投射(感情の主体と客体を入れ替えて自分を守る)」をワーカーも所属組織も自らの精神的バランスや組織の安定感を守るために選択しがちな心理機制と言える。

本書は入所施設についての調査結果に基づいてわざわざ1章割いて分析している。

第11章「入所とディケアの現場」において

入所施設は

一般にフィールド現場よりも暴力事件が多いということは、幾つかの特別な要素が働いているであろうことを示唆している。多分、最も明白なポイントは、 それらの現場では、ワーカーと利用者の接触のレベルが高いというところにある。すなわち、緊張が高まる機会が多く、「クール・ダウン」するための自然な休憩が少ない。」(P99)

英国でも入所施設における暴力事件が多いとされる報告は、容易に我が国でもクライアントからの暴力が存在することを示唆している。さらに

「Warner 報告は、また次のことを明らかにした。『あまりに多くの無資格で、 時に効果を発揮できない入所ケアスタッフが、不十分な訓練とスーパービジョンを受け、この国で最も困難な児童の処遇にたずさわることを余儀なくさせられている。』その結果、スタッフに強いストレスをもたらし、Staffordshire Pindown事件(註;「スタッフォードシャー・ピンダウン」事件を指す。)のような不適切な行為や虐待行為が増えることなろう。

歴史的に入所部門は、軽視されてきた。スタッフの賃金は安く、サービスの質は低く、訓練も不十分であった。Warner報告は、児童ホームのスタッフの採用、教育と管理について貴重な勧告を幾つか行っているが、その多くは、成人の入所ホームにも当てはまる。」(P101)

*Staffordshire Pindown(スタッフォードシャー・ピンダウン)事件
1983年から1989年にかけて、イギリスのスタッフォードシャー州にある児童養護施設で発覚した、児童に対する虐待的な懲罰・監禁事件
児童養護施設で 「ビヘイビア・モディフィケーション(行動修正)」と称して、問題行動を起こした子どもたちを個室に監禁する、床に押さえつけるなどの虐待的な行為などの不適切な処遇が横行しており、「ピンダウン」はその隠語。この手法では、子供たちを時には数週間にわたって隔離し、場合によっては自殺に追い込むこともあった。考案した上級ソーシャルワーカーが、問題行動への対処として「この問題をピンダウンしなければならない(抑えつけなければならない)」と言ったことに由来している。
議会は「ピンダウン」の慣行に関する公開調査を命じ、その後の報告書は、この慣行を「非倫理的、非専門的、かつ違法」であると非難し、英国の児童法に大きな影響を与えた。後年、「クオリティ・プロテクツ(Quality Protects)」イニシアチブという英国の社会的養護システムの大改革につながった。

「不幸なことであるが、多くの最も脆弱なクライエントが入所現場で、経験不足や訓練を受けていないスタッフによってケアされている事実がある。」(P100)として、Strathclyde地方自治体の調査結果として、「攻撃を引き起こしがちなワーカーの行動」を明らかにしている。

  • 不適切な身体的態度、挑戦的、ぞんざいな対応
  • 優位に立ち、支配し、権威を振りかざしたいという明らかな姿勢。ある筆者は、「彼らは、たびたびスタッフも少年も、メンツを失うことなく引き下がったわけではないという状況にもっていきがちである」と述べている。
  • クライエントへの恐怖、彼らとの関係の不足
  • ストレスの影響、休息の欠如、忍耐のレベルを下げてしまう残業
  • 管理や規則の責任の一貫性がないこと
  • クライエントの処遇において、クライエントをレビューや議論に参加させるといったより公開性が求められるようになってきた。それによって、ワーカーがうれしくない事実に直面する機会も増えてきたこと。
  • 人手不足、経験不足と支援の欠如
  • 暴力や暴力を起こす恐れのあるクライエントの情報を同僚にうまく伝達しないこと

英国の児童入所施設における事例調査ではあるが、障害者支援施設においてもこんなスタッフがいたら攻撃を受けるか抑圧的な関係が生み出されるのは容易に想像がついてしまう。まして、我が国の入所施設において人材不足や「すそ野広く他分野からの人材の確保」という名のもとに進んでいる無資格者の増大等は、成人入所者からスタッフが攻撃を受けるリスクを増やしていると言えるだろう。

こうした入所施設の構造的な課題やワーカーや組織が抱える心理的機制は、以下の結果をもたらすことになる。

「多くの調査によって、ソーシャルワーカーもクライエントも暴力を報告することに大変消極的であることが明らかにされている。ワーカーが暴力の報告をしないことには、幾つかの理由がある。ある例では、暴力事件は、ソーシャルワーカーとしての自己の能力の結果であり、その報告は、他人に自己の『失敗』を印象づけることになるというワーカーの思いがある。幾つかの研究では、 ワーカーは、そのような出来事は自分たちの職場では『当たり前』(normal) のことであるから、報告しなかったことが明らかにされている。」

知的障害・発達障害者の強度行動障害に代表される攻撃性について、様々な関わり方や解決法について開発されてきているはいるが、何はともあれ、暴力を受けるという事実の実態が明らかにならない限り、いかなる解決をしなければならないかは明らかにならない。そのためには、「利用者からの暴力」の報告システムが組織内に運用されなければならない。本書がまず強調している解決策はその点にある。

「スタッフは、次のことを意識する必要がある。 すなわち、暴力行為を減らす手段を講じるとともに、暴力事件が起きた場合、 それは近代ソーシャルワークと社会を反映していること、そして、それはケア専門職がその責めを負うものではない。また、スタッフは、特に深刻で繰り返される脅しがある場合、クライエントの危険性を注意深く理性的にアセスメントすることを奨励されるべきである。」(P33)

「ソーシャルワーク・スタッフは、自己と同僚に対する暴力事件を予防する責任を有する。その責任の一端が、事件が起これば報告するということである。 攻撃されたり、脅かされたりすることが、人としてまた専門職としての失敗でないこと、また報告をためらったり、秘密にすることは、自己と同僚を深刻なリスクにさらすことになることを肝に銘じるべきである。また、事件の情報は、暴力を予防するための効果的な戦略の発展に寄与するであろうし、身の安全を守るトレーニング・プログラムの策定にも役立つであろう。」(P80-81)

「身の安全を守る戦略として、スタッフの採用、スーパービジョン、支援と訓練の問題に取り組む必要があろう。」(P100)

そして、Warner報告(The Warner Report (1992), Choosing with Care ‐ Report of the Committee of Inquiry into the Selection, Development and Management of Staff in Children’s Homes, London: HMSO.訳:児童ホームスタッフの選定、開発、管理に関する調査委員会報告,ロンドン英国出版庁)から、スーパービジョンについて以下のように引用がなされている。

「傷つけられ、混乱し怒る児童に日常的にかかわる仕事は、骨の折れる経験であろう。効果的なスーパービジョンがなければ、ケアワーカーは、直面する行動への対応について誰にも話すことができないということに気づき、疲弊していくだろう。ワーカー自身の怒りやフラストレーションは、自分に向かい、バーンアウトに陥り児童に十分なケアを提供できなくなるであろう。」(レポートP94)

*今回は孫引きの文章を紹介したが、いずれ原文が入手出来たら明らかにしたい。

児童福祉の分野の提言であるが、これは障害者支援施設においても謙虚に聞くべき提言だと思う。暴力事件に特化した報告システムの職場における構築と適切なスーパービジョン体制が両輪の輪だ。暴力を受けたスタッフや組織のトラウマや防衛機制で武装された複雑で微妙な心理、なかったことにしようとする心理を解きほぐし、問題に正面から向き合い、報告から解決に向かっていく過程は、高度なスーパービジョンの力量が求められている。我が国で利用者からの暴力についてまともな調査が行われていないのは、正に職場に報告システムも管理的なスーパービジョン体制やそれを担うスーパーバイザーが育成されていないことを示している。そして、この現状を放置しているが故に、暴力を振るわれたスタッフの心に「障害があるから殴っても許されるのか」というやるせない怒りと諦念を積み重ねて、モラルハザードを引き起こしていくことにはなりはしないか?

入所施設のスーパーバイザー(管理者・上位者)から「攻撃されたり、脅かされたりすることが、人としてまた専門職としての失敗でないこと、また報告をためらったり、秘密にすることは、自己と同僚を深刻なリスクにさらすことになることを肝に銘じるべきである。」というメッセージが攻撃されたスタッフや所属組織に語られ、理性的なアセスメントが行なわれる職場文化が形成されていたならば、どれだけ多くのスタッフがバーンアウトせず、利用者の立場に寄り添った支援ができただろうか?

(追記)

最後に、本書を読んで考えさせられた法制度的な問題がある。

本書の最初の部分を読んでいくと、前述の「ソーシャルワーク・スタッフは、自己と同僚に対する暴力事件を予防する責任を有する。」とした一節やスーパービジョン体制の構築は、単なる実践上の要請だけからではなく、英国において法的な要請として定められていることが分かる。

職場保健安全法(Health and Safety at Work etc. Act 1974)

(http://legislation.gov.uk/ukpga/1974/37/contents)

第2条の雇用者の一般的義務条項では

2 General duties of employers to their employees.(雇用者の被雇用者に対する一般的な義務)

(1)It shall be the duty of every employer to ensure, so far as is reasonably practicable, the health, safety and welfare at work of all his employees.

訳)すべての雇用者は、合理的に実行可能な限り、すべての被雇用者の職場における健康、安全及び福祉を確保する義務を負う。

(2)Without prejudice to the generality of an employer’s duty under the preceding subsection, the matters to which that duty extends include in particular—

訳)前項に基づく雇用者の義務の一般性を損なうことなく、当該義務が及ぶ事項には、特に次のものが含まれる。

(a)the provision and maintenance of plant and systems of work that are, so far as is reasonably practicable, safe and without risks to health;

訳)合理的に実行可能な限り、安全かつ健康に対するリスクのない設備及び作業システムの準備及び維持。

(b)arrangements for ensuring, so far as is reasonably practicable, safety and absence of risks to health in connection with the use, handling, storage and transport of articles and substances;

訳)物品及び物質の使用、取扱い、保管及び輸送に関連して、合理的に実行可能な限り、安全かつ健康に対するリスクがないことを確保するための取決め。

(c)the provision of such information, instruction, training and supervision as is necessary to ensure, so far as is reasonably practicable, the health and safety at work of his employees;

合理的に実行可能な限り、被雇用者の職場における健康及び安全を確保するために必要な情報、指導、訓練及びスーパービジョンの提供。

(d)so far as is reasonably practicable as regards any place of work under the employer’s control, the maintenance of it in a condition that is safe and without risks to health and the provision and maintenance of means of access to and egress from it that are safe and without such risks;

訳)雇用者の管理下にある職場については、合理的に実行可能な限り、当該職場を安全かつ健康への危険のない状態に維持し、当該職場への出入りのための安全かつそのような危険のない手段を確保し、維持すること。

(e)the provision and maintenance of a working environment for his employees that is, so far as is reasonably practicable, safe, without risks to health, and adequate as regards facilities and arrangements for their welfare at work.

訳)被雇用者に対し、合理的に実行可能な限り、安全かつ健康への危険がなく、かつ、職場における被雇用者の福利厚生のための設備及び措置に関して適切な労働環境を確保し、維持すること。

(3)Except in such cases as may be prescribed, it shall be the duty of every employer to prepare and as often as may be appropriate revise a written statement of his general policy with respect to the health and safety at work of his employees and the organisation and arrangements for the time being in force for carrying out that policy, and to bring the statement and any revision of it to the notice of all of his employees.

訳)別に定める場合を除き、すべての雇用者は、被雇用者の職場における健康と安全に関する一般的な方針並びに当該方針を実施するために現在有効な組織及び措置について、文書を作成し、適切な頻度で改訂し、かつ、当該文書及びその改訂版をすべての被雇用者に周知させる義務を負う。

以下、(4)~(7)は略

第7条の被雇用者の一般的義務では

7 General duties of employees at work.(就業中の被雇用者の一般的な義務)

It shall be the duty of every employee while at work—

訳)就業中、すべての被雇用者は、次の義務を負う。

(a)to take reasonable care for the health and safety of himself and of other persons who may be affected by his acts or omissions at work; and

訳)自身及び就業中の自己の行為又は不作為によって影響を受ける可能性のある他の人の健康と安全に合理的な注意を払う。 また

(b)as regards any duty or requirement imposed on his employer or any other person by or under any of the relevant statutory provisions, to co-operate with him so far as is necessary to enable that duty or requirement to be performed or complied with.

訳)関係法令により又はそれに基づき雇用者又はその他の者に課せられた義務又は要件に関しては、当該義務又は要件の履行又は遵守に必要な範囲で、当該雇用者又はその他の者に協力する

となっており、「利用者からの暴力」は、職場における被雇用者の健康、安全及び福祉の問題に分類され、雇用者には情報、指導、訓練及びスーパービジョンの提供を義務付ける。さらに、被雇用者は、職務中に受けた暴力やその報告を怠ったために他の職場スタッフが暴力を受けないように行動したり、雇用者に協力を行う義務を負うというのが法的規定である。「利用者からの暴力」に対する責任の所在が明確なシステムが構築されていると言っていいだろう。

*ちなみに、第2条・第7条違反は、罰金刑または禁錮刑の対象となっており、罰金刑は上限無制限、禁錮刑は審議される法廷によって異なるが、最大6ヶ月又は2年と法改正が進む中、厳罰化が進んでいる。

一方、日本はどうであろうか?

法律名で似通っている労働安全衛生法について見てみると

(事業者等の責務)

第三条 事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。

2 機械、器具その他の設備を設計し、製造し、若しくは輸入する者、原材料を製造し、若しくは輸入する者又は建設物を建設し、若しくは設計する者は、これらの物の設計、製造、輸入又は建設に際して、これらの物が使用されることによる労働災害の発生の防止に資するように努めなければならない。

3 建設工事の注文者その他の仕事を他人に請け負わせる者は、施工方法、作業方法、工期、納期等について、安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を付さないように配慮しなければならない。

第四条 労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならない。

労働安全衛生法において、被雇用者が業務が原因で精神疾患にならないよう配慮する安全配慮義務を雇用者は有するが、その原因となった防止措置(ストレスチェック、長時間労働の上限規制、健康診断等)の不履行には50万円以下の罰金刑が科さられることとはなっているが、英国のほうがはるかに職場ですべきことについて広範で具体的であり、違反の場合の行政罰も厳格であることが比較すると分かってくる。

こうした曖昧さ故なのか、日本では「利用者からの暴力」は、近年の法整備の中で、カスタマーハラスメントの類型に整理されることとなった。

具体的には、

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律

第三十三条 (職場における顧客等の言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)

事業主は、職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(次条第五項において「顧客等」という。)の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの(以下この項及び次条第一項において「顧客等言動」という。)により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

3 事業主は、他の事業主から当該他の事業主が講ずる第一項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。

4 厚生労働大臣は、前三項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

5 第三十一条第四項及び第五項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。

(職場における顧客等の言動に起因する問題に関する国、事業主、労働者及び顧客等の責務)

第三十四条 国は、労働者の就業環境を害する顧客等言動を行つてはならないことその他当該顧客等言動に起因する問題(以下この条において「顧客等言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、各事業分野の特性を踏まえつつ、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。

2 事業主は、顧客等言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。

3 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、顧客等言動問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。

4 労働者は、顧客等言動問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。

5 顧客等は、顧客等言動問題に対する関心と理解を深めるとともに、労働者に対する言動が当該労働者の就業環境を害することのないよう、必要な注意を払うように努めなければならない。

対策の内容としては、「カスハラは人権侵害であり許されない」という基本姿勢を明確にし、職員と利用者・家族の双方に周知(利用者・家族には契約解除も含まれることを周知)、被害職員が速やかに安心して相談できる窓口の設置、相談・対応体制の整備(暴力の原因がカスタマーハラスメントなのか障害によるものなのかのアセスメント 認知症等のBPSDなら医療対応なのか等の見極め)があげられている。

英国と日本の制度を比較すると、表面的な理念の部分は共通しているが、具体的な対策の部分では、スーパービジョン体制の構築等が義務付けられていないなどソーシャルワークーの伝統が弱い点が見いだされる。また、職場の課題を明らかにすることは、一緒に働いている仲間への義務責任であることという認識が日本には弱いということも見て取れる。

知的障害児者の暴力には、生物的、心理的、社会的要素が複雑に絡まりあい、それに支援者・所属機関自身の問題も関与することで生じるものが多い。医療対応一本で解決する単純な問題でもない。そもそも、人格や事理分別能力が未熟、制限が強いクライアントをカスタマー=顧客・消費者とみなして対応することが現場感覚としても、法律論、権利論としても成立するのだろうか?知的障害福祉分野で、識者たちがこのような視点から批判的に「暴力」を捉え、実態を解明することが愁眉の課題であるにもかかわらず、その実践を怠り続けて、カスタマーというラベルを貼ることで「対等な関係」や人格尊重が図られていると自賛するならばそれはあまりにも知的障害という障害の問題点を軽んじてはいないかと思ってしまう。関係機関が実態把握と分析を行うことを強く願う。

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