新年度を巡って、人との別れや退職・異動・昇進・降格等々人事があり、気疲れを感じている。このブログもこつこつ書いてきて、今回の投稿で50本目となる。「社会福祉」の世界を調べていくと、なんと歴史や事実が振り替えられていないか、誤った認識がふりまかれているか、落胆することも多い。そんな時は、Aimerのcrossoversでも聞きながら、一歩前に踏み出す気持ちを維持している今日この頃。

さて、今回の投稿は、前回の投稿で、ドラッガーが偏って紹介されている背景に、社会福祉法人や福祉サービスを、非営利(団体)=公益・慈善事業(団体)と解釈しているから、ドラッガーの非営利組織論で満足したのではないかという仮説を提起したが、実際社会福祉事業を公益・慈善事業と解釈することは歴史や法律の辻褄が合っているのか考えてみよう。

2000年の社会福祉基礎構造改革において、社会福祉サービスの利用方法が措置委託制度しかなかった現状から利用契約によるサービス購入費の公的助成制度中心の制度に切り替わる中(「措置から契約へ」とまとめられるが、現実には、措置委託制度は土台として残り、その上に利用契約・公的助成制度が乗っかったというのが、制度の正確な理解だ)、社会福祉法人以外の多様な事業体の参加も認められたために、社会福祉事業において独占的な立場を保障されていた「社会福祉法人の在り方」が問題となることになった。

政府の流れでは、

平成23年(2011年)7月社会福祉法人の「内部留保」報道(グローバルキャノン戦略研究所松山幸弘氏の調査)を発端に、社会保障審議会介護給付分科会、財務省予算執行検査、会計検査院調査が行われ、社会福祉法人の経営・ガバナンス等の課題が問題視されていく。

平成25年(2013年)6月規制改革会議(内閣府が設置する審議会)提案の規制改革計画において、財務諸表の公開を提言。

同年9月 厚生労働省が「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」を立ち上げる。

平成26年(2014年)6月規制改革会議(内閣府が設置する審議会)提案の規制改革計画において、財務諸表の公開・ガバナンスの強化、社会貢献の義務化が提言。

同年7月 「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」が「社会福祉法人制度の在り方について」公表

平成27年(2015年)第189回国会に内閣が「社会福祉法等の一部改正する法律案」提出。最終的に参院閉会中審査を経て、平成28年(2016年)3月31日公布された。

国会審議で、キーワードになったのが、「社会福祉法人の公益性と非営利性」であった。例えば、

第189回国会 衆議院 厚生労働委員会(平成27年7月8日)において

塩崎国務大臣答弁

「今、西村先生からお話ありましたように、これはできてから六十年ということで、いわゆる社会福祉サービスの中身自体も随分変わってきて、ニーズも変わってきている、複雑化もしているということ、そしてまた、多様な事業参加者がおられたりするということが一つ。  それから、社会福祉法人の運営に対するさまざまな指摘があって、同じ公益法人の中でもいろいろな濃淡がある御意見がいろいろなところで聞かれるということもございました。そして、透明性の跛行性というものも公益法人と呼ばれる中でもありましたし、また一方で、公益性のある福祉事業をやっている方の中でいわゆる社会福祉法人ではない営利企業の方もおられる、こういうこともあります。  そして、公益法人改革というのがございました。この公益法人の改革の中でいろいろな改革が行われましたけれども、そもそも、さっき申し上げたように、公益法人と一般的に呼ばれる中にもいろいろな種類がありますけれども、これにも跛行性があって、いろいろな指摘が実は十八年の公益法人制度改革以降、社会福祉法人に関しても言われてきた。 そうなると、恐らくこの委員会のメンバーは皆コンセンサスがあると思いますけれども、社会福祉法人自体は大変大事だというふうに思っていらっしゃると思います。  何が大事かというと、やはりまずは公益性と非営利性というもの。公益法人たる社会福祉法人、つまり税を軽減してもらうという大事な、減免をしている、かからない税すらある、それはほかの事業体とは全く違うわけでありますから、公益性、非営利性をもっと徹底しないといけないのではないかという観点。  あるいは、そうであればあるほど国民に対する説明責任というのを果たさないと、税の使い方としていかがなものかということ。  それから、地域社会への貢献。先ほど地域包括ケアシステムの話がありましたけれども、やはりこの社会福祉法人が、そういった地域包括ケアの中でもそうですが、どういう貢献をこれからの社会福祉法人はすべきなのか。  こんなことをやはり考えていくのが大きな三本柱かなというふうに考えております。」

社会福祉法人は、「非営利の公益法人」と定義づけられて、非営利、公益性を徹底しなければ、納税を行っている営利法人等からの批判は免れないとも述べられている。この厚生労働大臣の主張に根拠を与えたのが、「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」が発表した「社会福祉法人制度の在り方について」報告書(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000050215.pdf)である。

その第1部「社会福祉法人制度の概要」において、次のように説明されている。

(制度創設期)

 ○ 社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを主たる目的として、社会福祉法(昭和 26 年法律第 45 号)に基づき設立される法人である。

 ○ 社会福祉法人制度が創設された当時の昭和 20 年代、我が国は、終戦による海外からの引揚者、身体障害者、戦災孤児、失業者などの生活困難者の激増という困難に直面していた。これらの者への対応はまさに急務であったが、戦後の荒廃の中、行政の資源は不十分であり、政府には民間資源の活用が求められた。

○ このため、社会福祉事業を担う責務と本来的な経営主体を行政(国や地方公共団体等の公的団体)としつつも、事業の実施を民間に委ね、かつ、事業の公益性を担保する方策として、行政機関(所轄庁等)がサービスの対象者と内容を決定し、それに従い事業を実施する仕組み(以下「措置制度」という。)が設けられた。そして、措置を受託する法人に行政からの特別な規制と助成を可能とするため、「社会福祉法人」 という特別な法人格が活用されたのである。

社会福祉法人は、①社会福祉事業を行うことを目的とし(公益性)、②法人設立時 の寄附者の持分は認められず、残余財産は社会福祉法人その他社会福祉事業を行う者 又は国庫に帰属し(非営利性)、③所轄庁による設立認可により設立されるという、 旧民法第 34 条に基づく公益法人としての性格を有している。

 ○ また、①憲法第 89 条の「公の支配」に属する法人として、行政からの補助金や税制優遇を受ける一方、②社会的信用の確保のため、基本的に「社会福祉事業のみ」を経営すべきという原則論の下、所轄庁の指導監督を受けてきた。

社会福祉法人制度について、この説明は正しいのかどうかを判断するには、社会福祉法人制度が創設された時点の政府の説明を確認することが必要ではないだろうか?重要な法律は、その解説本が必ず政府及び法律作成に携わった関係者によって出版されるものである。

「社会福祉事業法の解説」(木村忠次郎著 初版昭和26(1951)年7月 改訂版昭和30(1955)年3月 時事通信社発行)の「社会福祉法人」について解説している部分を、重要箇所であるので、長文になるが引用してみよう。(ちなみに、この本も中央図書館の膨大な蔵書から探してもらったものだ。スタッフに感謝申し上げる)

*著者の木村忠次郎氏は、初版執筆時、厚生省社会局長 改訂版執筆時、厚生事務次官である。

第二節社会福祉法人

一 性格

社会福祉事業法において「社会福祉法人」とは、社会福祉事業をおこなうことを目的として、社会福祉事業法のさだめるところにより設立された法人をいう(二二)。従来、社会福祉事業をおこなうことを目的として設立される法人は、公益にかんする社団または財団で営利を目的としないものとして、民法による社団法人または財団法人とするものとされていたのであるが、従来の社団法人、財団法人には種々雑多なものがなり、その社会的信用においても、社会福祉事業の健全性を維持する上においても、遺憾な点があり、その純粹性を確立するために、特別法人としての社会福祉法人の制度をもうけることとしたものである。この点については、社会保障制度審議会の社会保障制度にかんする勧告において、民間社会福祉事業の自主性をおもんじ、特性をいかすとともに、特別法人制度の確立それとその組織的発展をはかり、公共性をたかめることによつて、国および地方公共団体がおこなう事業と一体となって活動できるようにすべきであるとのべているのも、同一の趣旨にでるものであつて、社会福祉事業をおこなう主体の確立により、その組織的発展をはかる趣旨のものなのである。 上にのべたように、社会福祉事業法によれば、社会福祉事業のうち、第一種社会福祉事業の主体は、 民間でこれをおこなうものは、原則として、社会福祉法人にかぎられているのであるが(四)、このことは第一種社会福祉事業の主体は、その事業の性質にかんがみ、社会福祉法人またはこれに準じるものでなければならぬこととしたものであつて、第一種社会福祉事業を経営するものの主体たるべきものとしてのみ社会福祉法人の制度がつくられたことを意味するものではなく、上にのべたその「定義」において、社会福祉事業をおこなうことを目的とするとうたつているように、社会福祉事業をおこなうことをその本来の目的として組織され、法人ならば、原則として社会福祉法人であることをたてまえとすることを本旨としているものである。したがって、第二種社会福祉事業にぞくするもののみをおこなうことを目的とするものであつても、これを社会福祉法人とすることができるばかりでなく、これも社会福祉法人の本来の目的となるものにほかならないのである。

右にのべたように、社会福祉法人制度の創始は、社会福祉事業の公共性と純粹性とを確立するために、民間の社会福祉事業をおこなう法人で、基礎が確実で経営の優秀なものは、その事業が第一種社会事業であっても、第二種社会福祉事業であつても、これを他の公益法人とは別個の標識をあたえようとするものであるので、そのために社会福祉法人以外の者は、その名称中に、「社会福祉法人」 まだはこれにまぎらわしい文字をもちいてはならないと規定して、その名称の保護をしているのである(二三 八八)また、社会福祉法人は、上にのべたその性格から、その基礎が確実であることを要するので、社会福祉事業をおこなうに必要な資産をそなえることが要求されている(二四)。必要な資産の限度については、その法人が目的としている社会福祉事業の経営について必要な程度とされているものであるから、その目的とする事業種類および規模によつて、とうぜん差異があるが、その事業を所定の基準にしたがっておこなうに必要な施設を所有しているか、またはその目的を達成するように使用できる使用権が確実に設定されており、かつその事業経営に必要な最低限の運用資産があるか、 これを確実に生みだしうる財源のあることを要する。事業の種類および区分におうじて、詳細な基準がきめられ、個々の具体的な認可にあたり、慎重に考慮すべきところであろう。(初版P92-94  改訂版P145-147 同一文章)

定款は社会福祉法人を設立しようとするものがさだめる(二九Ⅰ)。民法では公益法人を社団法人と財団に区別し、社団法人については、定款、財団法人については寄附行為ということばをもちいているが、ここに定款ということばがつかわれているのは、この法人が社団法人であるというのではない。(改訂版P148)

六.解散

解散は、社会福祉法人の人格の消滅である。解散にかんする事項は定款にさだめなければならない。

(中略)

社会福祉法人が解散したときは、その人格は消滅するのであるが、清算の目的の範囲内においては、この清算の結了するまでのあいだ、なお法人として存続するものとみなされるほか、清算人の選任、解任、務、清算の手続、清算結了の届出等、おおむね民法の公益法人の規定が準用されている (五三、民族七〇、七三七六、七七Ⅱ、七八一八三、登記令七、八)。

3 残余財産の帰属解散した社会福祉法人の残余財産は、合併および破産のばあいを除くほか、厚生大臣にたいする清算結了の届出のときにおいて、定款のさだめるところにより、その帰属すべきものに帰属する(四五Ⅰ)。処分されない財産は、国庫に帰属する(四五Ⅱ)。(改訂版P158-160 初版P103-105 同文)

七合併

民法の公益法人については合併の規定がなく、そのために合併のばあいには、従前の法人の解散と、新しい法人の設立をおこなわねばならなかった。社会福祉事業をおこなう法人として、社会福祉法人を基礎の強固なものとするためには、弱小の法人は合併を促進する必要があることのすくないのにかんがみ、その合併を容易ならしめるため、社会福祉法人は、他の社会福祉法人と合併することができることとされた(四六)。合併については、一の法人が他の法人を吸収する吸収合併と、二以上の法人が合併して新たな法人を新設する新設合併との両者がみとめられている。(改訂版P160-161 初版P105 同文)

ちなみに、社会福祉事業法は制定当初から

社会福祉事業法第24条

社会福祉法人は、社会福祉事業を行うに必要な資産を備えなければならない。

社会福祉事業法第25条(収益事業)

社会福祉法人は、その経営する社会福祉事業に支障がない限り、その収益は社会福祉事業の経営に充てるため、収益を目的とする事業をすることができる。

と、社会福祉事業経営の基盤を強固にする目的での収益事業を是認してきた。

長文引用をしたが、これらの文章のどこをどうみても、木村氏は、従来の公益法人(社団法人・財団法人)では社会福祉事業の純粋性を維持するために、公益法人に手続きは準ずる部分があるとはいえ、別の建付けの「特別法人」として「社会福祉法人」を創設したとしか読めようがない。そして、社会福祉事業を語るキーワードは、「公共性と純粋性」である。まして、合併も収益事業も、社会福祉事業を強固安定にしていく上で奨励是認されていたものであり(次いでいうと、社会福祉事業について、事業法では常に「経営」という用語が使われている。)国庫帰属は、社会福祉事業とは公共事業であるから、解散をする場合は、その財産は公に帰属する=国庫帰属となるにすぎないのである。それをもって、「非営利」ではないのだ。「特別法人」とは、公益法人と別カテゴリーであることを指しているのであって、公益法人の特別要素という意味ではないのだ。

「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」が発表した「社会福祉法人制度の在り方について」報告書は、社会福祉事業法制定時の経緯・制度趣旨を全く無視し、公共性を公益性にすり替えている辻褄の合わない歴史観・解釈を打ち出している。

*ちなみに、「引揚者、身体障害者、戦災孤児、失業者などの生活困難者」の救済事業について、本報告書は、「事業の公益性」という用語を使用している。つまり、これら救済事業は暗に公益事業(もしくは、人道的な慈善事業)であると述べているわけだが、これらは大日本帝国政府が引き起こした戦争被害であり、その後継者である日本政府(実質、同一ではあるが)に重大な国家責任がある公的な事業ではなかったか?

「社会福祉事業の公益性と非営利性」という用語は政府及び政府の立場に賛成する参考人から何度も繰り返されたが、この用語の辻褄の合わなさを指摘する者も「社会福祉事業の公共性と純粋性」という観点から批判する意見も、国会議事録には見出されなかった。

こうした辻褄の合わない審議が行われたのは、もはや人々は歴史的事実を忘却し、多くの人が「社会福祉事業=公益事業」という認識をしているからではないかという仮説に思い至った。

平成23年「内部留保」報道より前に、その下準備は進められていた。

平成18年(2006年)8月 社会福祉法人経営研究会(学識経験者、厚生労働省、全国経営協、全社協にて構成)が「社会福祉法人の現状と課題―新たな時代における福祉経営の確立に向けた基礎作業―」(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000024652_1_2.pdf)を発表

地方レベルでも、例えば大阪府では

平成19年(2007年)3月大阪府社会福祉協議会社会福祉法人の在り方研究会が「社会福祉法人の在り方研究会報告書」(https://www.osakafusyakyo.or.jp/tosho/arikatahoukoku.pdf)を発表

同年6月大阪府社会福祉協議会社会施設長研修会「社会福祉法人の存在意義と社会的使命~公益性と優遇税制の仕組みを解明する~」が開催される。

大阪府の報告書は、インターネットでダウンロードが可能であり、報告書のとりまとめは、「介護保険の父」と名の高い堤修三氏が行っている。

経営研究会の概要版において、社会福祉法人が「憲法89条の公の支配に属さない慈善又は博愛の事業に対する公金支出禁止規定を回避するために設けられた」と「社会福祉事業法の解説」には明記されていない新たな解釈が提示された。この解釈には二つの意味がある。一つは、社会福祉事業は第89条の「慈善・博愛」事業(公益事業)であること、もう一つは、社会福祉法人は、抵触を回避するため公的規制を受けている(公益)法人であること。

次の投稿では、この新しい解釈が歴史的、法律的に辻褄があっているのかを検証してみよう。

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