前々回の投稿で、政府は、2000年(平成12年)に保育体制を転換して、従来の社会福祉法人に保育所の経営(60人定員以上)を限定し、地域に計画的に保育所を配置していく方法から規制緩和した基準で多様な経営体による保育所運営に舵を切ったことを史料で示した。

規制緩和をして保育所の数を増やすのは一つの政策手法としてあり得るが、保育所に入りたいという需要に対応するだけの保育士が確保されていることが前提となる。保育所を増やし、受け入れ可能児童数を増やしても、その児童数に対応できる保育士がいなければ、保育の現場は逆に危険極まりない。

政府は保育所に勤める保育士の数を計算し、対策を講じてきたのだろうか?実際、政府は、1994年(平成6年)「エンゼルプラン」を皮切りに、1999年(平成11年)「新エンゼルプラン」、2001年(平成13年)「待機児童ゼロ作戦」、2004年(平成16年)「子ども・子育て応援プラン」、2008年(平成20年)「新待機児童ゼロ作戦」と一貫として保育所の増設を目指してきた。この矢継ぎ早の前のめりの増設を支える肝心の保育士の数については、2013年(平成25年)「保育を支える保育士の確保に向けた総合的取組」を厚生労働省雇用均等・児童家庭局 職業安定局が公表し、保育士の確保策を打ち出した。

「総合的取組」が提案された背景として、厚労省は「『待機児童解消加速化プラン』により、保育の量拡大を図るなか、平成29年度末には保育士が約7.4万人不足することが見込まれており、保育を支える保育士の確保が重要」としているのだが、時系列を整理すると、話は逆であると思われる。

細かく見てみよう。

この時期の厚労省資料を検索すると、平成29年度末には7.4万人保育士が不足するデータが引用されている。この根拠となる出典は、この資料の下に書いてある「平成21年度保育士の需要等に関する調査研究報告書」なる調査研究だ。正確には、「平成21年度保育士の需要状況等に関する調査研究」(平成21年度厚生労働省委託調査研究 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 平成22年2月)とする厚生労働省が民間の調査機関に依頼調査した報告に依拠している。

*ちなみにこの報告書を地元の都道府県立中央図書館で探してもらったところ、所有しておらず国立国会図書館から取り寄せることとなった。

先ず、調査の概要を見てみよう。

第1 調査概要概要

1、実施概要

(1)目的

 保育サービスについては、待機児童解消に向けて、平成20年2月に策定された「新待機児童ゼロ作戦」に基づき、保育サービスの量的拡大を図るための取組を進めることとしている。今後、労働力人口が減少していく中、女性の労働市場への参加が促進され、さらに共働き世帯が増加し、必要な保育サービス量がますます拡大していくことが予想される。

これに対して、保育士の需要は、今後、増大することが予想されているが、量の拡大とともに、質の向上も求められており、質の高い保育士を安定的に確保する必要がある。特に、保護者への支援、障害児への対応、児童虐待への対応、地域の家庭への子育て支援など、保育所に多様な機能が求められるようになってきており、これらに対応できる高度な知識や経験を持つ保育士の確保が急務となってきている。

保育士は、保育士養成施設による養成等により年間約5万人程度の資格取得者を養成し、 保育士試験においても年間5千~1万人程度の資格取得者を輩出しているが、労働条件や 処遇の悪化などから、保育士の資格を持ちながらも他職に就いたり、保育現場に就職しても離職する者等もあり、今後の保育士需要に応えることができなくなることが危惧される。

このような状況認識に基づいて、全国各地域別の保育士の需要推計を行い、各地域の不足状況の特性を把握整理するとともに、有資格者の再就職・復職意向や就業継続意向、及び、再就職や復職、就業継続の障害条件等を抽出し、今後、保育所の保育士が子育てと仕事を両立させて、継続的に就業するための環境整備課題と方策を明らかにするために実施した。

調査目的は明確であり、保育サービスの量的拡大を図る「新待機児童ゼロ作戦」を支える質の高い保育士の量的・質的確保維持のための阻害要因や必要数を算出することであることが明記されている。

全国統計だけではなく、全都道府県からのデータ収集統計整理も巻末に参考資料として収めているので、検証がし、推計方法についても明確にされているので、推計方法の妥当性も検討しやすい。

推計方法については、長文となるが核心部分となるので、全文引用する。

1、都道府県別保育士の需要推計

以下では、「子ども・子育てビジョン」(平成22年1月29日閣議決定)での数値目標(全国値)等を元に、平成29年度末までの都道府県別の保育士の需要を推計した。

(1) 今後の保育所利用の増加に伴う必要保育士数の推計方法

ここでは、都道府県別の保育所の利用増加に伴う必要保育士数の推計方法を概説する。 推計は、今後の保育所受入児童数について都道府県別の推計をまず行い、次にそれに伴って必要とされる保育士数を推計した。

①保育所受入児童数

(ア) 平成21年度末の都道府県別の年齢階層別保育所受入児童数の推計

平成21年度末の年齢階層別(0歳児、1~2歳児、3歳児、4歳以上児)保育所受入 児童数の全国値(「子ども・子育てビジョン」での数値目標)に対して、平成21年10月 時点での年齢階層別(0歳児、1~2歳児、3歳児、4歳以上児)の保育所入所人員数の都道府県構成比を乗じ、平成21年度末の年齢階層別(0歳児、1~2歳児、3歳児、 4歳以上児)保育所受入児童数の都道府県値として算出した。この値を3歳未満児、3 歳以上児別にそれぞれ集計した。

(イ) 平成22~29年度末の都道府県別の年齢階層別保育所受入児童数の推計

平成29年度末の都道府県別の年齢階層別(3歳未満児、3歳以上児)の保育所受入児童数は、都道府県別の利用児童ニーズ量を用いた。 平成22~28年度末の都道府県別の年齢階層別 (3歳未満児、3歳以上児)の保育所受入児童数は、上記(ア)で算出した平成21年度末値と、上記の平成29 ニーズ量)を直線補完する方法で、各年度末の値を推計した。

さらに、平成22~29年度末の都道府県別の年齢階層別(0歳児、1~2歳児、3歳児、 4歳以上児)の保育所受入児童数について、上記の3歳未満児、3歳以上児の推計値に対して、全国推計値の年齢構成比を用いて、それぞれ按分して推計した。

②最低必要保育士数の推計(現行の児童福祉施設最低基準に基づく推計)

上記、①で算出した、平成21~29年度末の年齢階層別(0歳児、1~2歳児、3歳児、 4歳以上児)の保育所受入児童数に対して、現行の児童福祉施設最低基準(0歳児3:1、 1~2歳児6:1、3歳児20:1、4歳以上児30:1)に基づき、年齢階層別の最低必要保育士数を算出した。これらの年齢階層別値を合計したものを、各都道府県全体の最低必要保育士数とした。

さらに、別途、平成20年度値として、年齢階層別の保育所受入児童数(福祉行政報告例 (平成20年10月分月報(概数))に対して、同様の児童福祉施設最低基準を用いて、最低必要保育士数を推計した。

③必要とされる保育士数(常勤換算数)の推計

平成20年10月1日現在の保育士数(常勤換算数)を基準値として、それに上記②で算 出した最低必要保育士数の各年の伸び率を乗じて、平成21~29年度末の必要とされる保育士数(常勤換算数)を推計した。また、必要とされる保育士数(常勤換算数)の平成20年 10月1日現在値からの増分を、今後の増分の累積数とした。

(2) 今後の保育所利用の増加に伴う必要保育士数の推計結果

上記の推計の結果、今後の保育所の利用の増加に伴って必要とされる保育士数(常勤換算)は、平成26年度末で約40万9千人、平成29年度末で約46万人と推計された。これは、平成20年10月1日現在の保育士数に比べて、平成26年度末で約6万3千人増、平成 29年度末で約13万1千人増に相当する。

都道府県別にみると、今後、ほとんどの都道府県で保育士の需要が増加することが予想される。中でも、東京都で約2万4千人増(平成29年度末、以下同様)、埼玉県で約1万 1千人増、愛知県で約1万1千人増、神奈川県で約8千人増と、特に都市部において今後、 大きな保育士の需要増加が生じることが見込まれる。

長々と書いたが、要約すると、平成21年度末、平成22年度~29年度末の年齢階層別(0歳児、1~2歳児、3歳児、 4歳以上児)の保育所受入児童数を推計し、各年齢階層児童数から、0歳児数を3で除した数、1~2歳児数を6で除した数、3歳児数を20で除した数、4歳以上児数を30で除した数を合計した数が、各年度の必要保育士数(常勤換算)の推計値となるのである。

供給数の推計はやや複雑である。

(2) 将来の都道府県別保育士の労働力供給推計

ここでは、将来(平成29年度末)の都道府県別保育士の労働力供給推計の方法について 説明する。具体的にはまず、足元値として平成21年度末値を実績値として整理し、その後、 将来推計を行った。

①平成21年度末の都道府県別の年齢階層別保育士数の設定

都道府県別保育士数の年齢階層別のコーホート変化率として、平成7年 平成12年、平 成12年 平成17年のそれぞれのコーホート変化率の相乗平均を用いた。

平成17年の都道府県別の年齢階層別保育士数に、各年齢階層のコーホート変化率を乗じて、平成22年時点の都道府県別の年齢階層別 (25歳以上の各階層) 保育士数を推計した(これを暫定値とする)。

平成22年の都道府県別の20~24歳の保育士数 (暫定値)については、平成17年の2 20 ~24歳の保育士数に対して、最近の都道府県別の保育士養成施設資格取得者数の伸び率を乗じたものとした。なお、養成施設資格取得者数の伸び率は、〔平成12~16年度の合計数] に対する〔平成17~19年の合計数の5/3〕の比を乗じたものとした。

このようにして算出した都道府県別の年齢階層別保育士数の年齢階層合計が、平成21年 度末の都道府県別保育士数(需要推計で用いた必要とされる保育士数(常勤換算数))に 一致するように、年齢階層別の保育士数を按分推計にて調整した。この調整した結果を、 平成21年度末の都道府県別の年齢階層別保育士数として利用した。

②平成26年度末、平成31年度末の都道府県別の年齢階層別保育士数の推計

上記で設定した、平成21年度末の都道府県別の年齢階層別保育士数に対して、各年齡階層のコーホート変化率を乗じて、平成26年度末、及び平成31年度末の年齢階層別の保育士数を推計した。

ここで、平成26年度末、及び平成31年度末の20~24歳の保育士数については、今後の 保育士養成施設取得者数が現状程度で推移すると想定し、平成21年度末の20~24歳の保育士数と同じであるとした。

③平成29年度末の都道府県別保育士数の労働力供給の推計

上記②で推計した平成26年度末と平成31年度末の都道府県別の年齢階層別保育士数を 直線補完することで、平成29年度末の都道府県別の年齢階層別保育士数を推計した。この 年齢階層合計の値を平成29年度末の都道府県別保育士数の労働力供給であるとした。

供給推計については、「コーホート変化率」の理解が必要だ。本調査においては以下のように定義されている。

コーホート変化率=ある年齢階級の保育士数/5年前の一つ若い年齢階級の保育士数

つまり、5年間でどれだけの保育士が残存しているか(離職・復帰問わず)の割合である。供給推計をする場合、平成21年度末の年齢別保育士数等を確定させて、各年齢層にコーホート変化率を乗じながら累計をしていくと供給数の推計が出るということになる。

後は、需要推計数から供給推計数を引けばよい。

(3) 将来の都道府県別保育士の労働力需給の推計

上記まで推計した将来の都道府県別保育士の労働力需要と労働力供給の関係を整理した。

(平成29年度末)。

以上の結果をみると、保育士数の労働力供給は平成29年度末において、平成20年10月 1日値に対して、全国で約5万7千人増加することが分かる。その結果、先にみたように、 平成29年度末の保育士需要は約13万1千人の増加が見込まれることから、平成29年度末では、約7万4千人、需要が供給を上回ることが想定される。

保育士需要と保育士供給の関係を都道府県別にみると、平成29年度末時点では、保育士需要が保育士供給を約結果を都道府県別にみると、29都道府県で需要が供給を上回り、18 都道府県で供給が需要を上回ると想定され、都道府県によって需要と供給の関係が異なることが分かる。

この中で、需要が供給を上回る地域としては、東京で約2万2千人、埼玉で約9千人、 千葉で約7千人、沖縄県で約6千人、大阪府で約5千人となっており、全体としては大都市圏で多いことが分かる。

一方で、供給が需要を上回るのは京都府で約2千人と最も多いが、全体として規模は大きくない。

「報告書」では、保育士を増やして供給ギャップを埋めていく方策を以下のように提言していた。

正規(常勤)で保育所の保育士の仕事を継続していくための労働条件の整備

出産子育て期間後に再就職・復職できるための労働条件の整備

長期勤務を支援し、専門性と経験を高め「保育のプロ」として成長できる機会がある専門職とする仕組みの整備

・男女問わず、一生の仕事として選択できる専門職市場へ整備→民間施設給与等改善費等の改革(10年以上、加算率等)

・キャリアコースの開発(保育職、地域子育て支援センターコーディネーター職、管理職)

・学校、地域行政、保育所、保育関係団体の協働による障害キャリア支援ネットワークの構築

経営の近代化、1法人1施設の保育所保育士の職場環境向上課題の解決のための仕組みの整備

実際、保育所に勤める保育士の数はどのように推移したのか?これは、厚労省が毎年行っている「社会福祉施設等概況調査」(各年度10月1日時点)を見ると分かる。

常勤換算数

平成21年度(2009年度) 保育士 331,849人

平成25年度(2013年度) 保育士 356,233人

平成26年度(2014年度) 保育士 368,662人

平成29年度(2017年度) 保育士 363,003人+保育教諭(保育士免許取得)59,217人=422,220人

厚労省が平成25年度時点で狼狽したのは平成25年度の保育士の実績値を見て想像できる。調査書時点からでも2.7万人しか就業している保育士が増えていない現実を見れば、翌年度に総合的な対策を立てないと平成29年度の供給ギャップが埋まらないと考えたのも無理はない。

「総合的取組」の全体像は以下の通り

目を引くのは、それ以降「1億総活躍社会」でも強調されていく保育士の待遇改善としての民改費アップやキャリアアップへの助成である。

  • 保育士の処遇改善の実施保育士の処遇改善のため、保育所運営費の民間施設給与等改善費(民改費)を基礎に、上乗せ相当額を保育所運営費とは別に交付する。交付対象は、私立保育所(私立認定こども園の保育所部分を含む)の保育士等とし、上乗せ相当額を保育所に交付。 【保育士等処遇改善臨時特例事業により実施。(安心こども基金)】※民間施設給与等改善費は、保育士等の平均勤続年数に応じた加算率により私立保育所に対する保育所運営費を上乗せする仕組み。※保育所に対し、処遇改善計画の策定と実績報告を求める。
  • 保育所の管理者等を対象とした雇用管理の研修保育所の管理者(所長等)を対象とした、保育士等の職員の離職防止につながる雇用管理等の研修を実施。研修のための費用(研修参加費等)は安心こども基金を活用し国と都道府県又は市区町村が支援。【保育士研修等事業により実施。(安心こども基金)】

しかし、現実を見る限り、保育士の給与アップ等様々な方策を尽くしても、供給ギャップは4万人近く埋まらなかった。

現在はどうだろうか?

「調査報告」と同様の手法で計算してみよう。

「保育所等関連状況取りまとめ(令和5年4月1日)」(こども家庭庁)より抜粋

この表から、

令和4年4月の最低配置職員数は

0歳児 144835人÷3=48278.3…≒48,279人

1・2歳児 956,090人÷6=159348.3…≒159,349人

三歳以上は3歳も4歳以上も一緒くたなので、全員3歳の場合と全員4歳の場合の間にある。

1,628,974人÷30=54299.133…≒54,300人(全員4歳児)

1,628,974人÷20=81448.7≒81,449人(全員3歳児)

計 261,928人~289,077人

令和5年4月の最低配置職員数は

0歳児 135,991人÷3=45330.3…≒45,331人

1・2歳児 960,598人÷6=160099.6…≒160,100人

1,620,746人÷30=54024.86…≒54,025人(全員4歳児)

1,620,746人÷20=81037.3.7≒81,038人(全員3歳児)

計 259,456人~286,469人

加重平均を取ると、260,692人~287,773人(ここにあまり根拠はないのだが、中間点の令和4年10月の最低配置職員数の範囲としておこう)

それに対して、保育所に勤める保育士等の数はどうか?

「社会福祉施設等概況調査」(各年度10月1日時点)から拾ってみると

令和4年10月1日時点

保育士 393,927人

保育補助者 38,150人

保育教諭 128 134人(保育士資格保有者) 119,120人

計 560,211人(保育士資格保有者算定 551,197人)

一見すると、保育士含めて保育に直接あたる職員は倍近くいるので、保育士不足は起こらないように見える。(少子化による児童数の減少の影響は大きいと言える)

しかし、共稼ぎ等の家族のニーズに応える一方、保育士の労働条件を整備しようとすると以下のようなギャップ比が生じる。

条件を

保育所が延長保育を常態化し、土曜日も開所する。(7時~19時の12時間を開設時間とする)

保育士等は、8時間労働で週休二日制+有給5日間をとるという労働条件を満たす。

と設定し、乱暴だが、毎時間児童が100%と登園しているとして、必要な保育士の人数を常勤換算で算出すると

12時間×297日(365日-日曜日52日-祝祭日16日)/8時間×245日(365日-完全週休2日制120日)=1.818…≒1.82

保育補助者を除いた有資格者数は、522,055人

522,055人÷(260,692人~287,773人)≒1.82~2.0倍

因みに、保育士の労働条件を改善しようとして、労働時間を7時間半にすると、ギャップ比は1.94倍、さらに休日を130日に増やすと、ギャップ比は2.0倍を超える。

「働く女性のため」という名目で保育所が開いている時間を長くする一方、「保育士の待遇改善」として時短や休日を増やせば、ギャップ比が高くなるのは当然だ。

このグラフの印象は、政府の施策が、賃金等の処遇改善を行い、潜在保育士も含めて開拓していることに効果を上げているように見受けられる。

しかし、割合で考えてみよう。

平成29年度 社会福祉施設等に従事している保育士の割合 57万人÷147.1万人=38.8%

令和3年度 社会福祉施設等に従事している保育士の割合 65.9万人÷173.1万人=38.1%

平成29年度 内、保育所に従事している保育士の割合 422,220人÷57万人=74.1%

令和3年度 内、保育所に従事している保育士の割合 522,055人万人÷65.9万人=79.2%

保育士資格保有者の中で、社会福祉施設等に従事している保育士の割合はさほど変化はなく、保育所に勤めている保育士も著しく増加したわけではないことが見て取れる。

全てが無駄というわけではないだろうが、乳幼児の保育を保育所で引き受けることは、数字が不可能であることを示しているのではないか?次の待遇改善のポイントを、恐らく労働時間短縮や休日増加とするだろうが、それに伴うギャップ比はさらに増えるだけだ。つまり、保育士は常勤非常勤問わず、児童数の2倍以上の確保が必要だ。まして、はかない命もあり、親でさえ子育てを躊躇する子どもを第三者である保育者が見ることは保育者自身がいくら資格者とは言え、何かあった時の責任とかそれに対する躊躇いがあるはずだ。保育士だって人間なのだ。給料がいくら上がっても「割が合わない仕事」なのだ。

少子高齢化社会の中で働き手の確保が困難になっていく中で、保育所増設・機能拡大で保育を乗り切ることは明らかな無理や確保困難な保育士に過剰な責任を押し付けることを意味していないだろうか?

「働く母親のため」というスローガンは、意地悪く言うなら、「働く」(労働・自己実現)ことと「子育て」を対立させ、「子育て」を忌避視する女性の意識を強化しないだろうか?それと暗に子育ての主担は、母親であるという社会的なメッセージを固定することになっていないだろうか?両性の愛情、同意の上に子どもが生まれるのだから、主担は父母であるにもかかわらずである。(もちろん、これまで述べてきたように、わが国の場合、男性がそもそも女性ほどの家事スキルがないにもかかわらず優位な立場に社会的に置かれている為、著しく不公平なのであるが…)企業は、「働く」(労働・自己実現)ことを従業員に求め、結果「子育て」を切り捨て、「やりがい」や「自己実現」「責任感」を搾取してきたとも言える。

子育てを社会全体で担うというのなら、戦前に取り組まれたような企業内保育所もしく職場の中に子育て機能・場を持つような仕組みが当たり前の企業風土・文化となるようにすることを考えるべきだ。労働と子育ての両立は職場でこそ実現されるのが合理的だ。子育てを両親に指導できる保育士を職場に配置し、その保育士の指導監督のもとに従業員がその日の保育担当を輪番で行うことがあってもいいのではないかと思う。職場自体が子育て(遠くない将来介護)の拠点機能を持たなければならないのではないだろうか?

「子どもの一番の保育者は親」と言うのなら、はかない命である0歳児の保育は、人手の少ない保育士に任せるのではなく、両親が家庭で保育することを前提に訪問保育士による支援が確保されるよう、両親が安心して休業できる育児休暇・手当制度や職場体制を拡充したり、保育所保育士より訪問保育士の育成に転換すべきではないだろうか?

PDCAサイクルにのっとって、物理的に無理な手法に固執するより、現実に向き合って、パラダイム転換をすることが遠回りなようで近道だと思う。

保育体制の問題で、「経営の近代化」というワードが出てきた。この問題を深堀すると、社会福祉法人制度の在り方の問題に行き着く。機会あれば、社会福祉法人制度について書いていこうと思う。

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