前回の投稿で、戦前からの保育体制やその歴史についてまとめてみた。これまで、ブログに見慣れない資料を紹介・提供してきた。今回は、史料を探し出す過程も記載しようと思う。その過程について、感じたことも述べていくが、様々な発掘をしていく中で一番感じた感想を述べると、社会福祉法人制度に関わる政策史及びその研究史は、後世検証する研究者がいるとするならば、意識的か無意識なのか不明であるが、検証に堪え得ない歪曲や改竄、隠ぺいが行われていることを見つけるのではないかと思っている。以降、何回かにわたって、こうしたことが投稿の中に出てくると思う。

さて、今回の投稿は、引き続き保育政策の変遷である。戦前、都道府県や社会事業家によって運営された常設保育所や季節保育所が乳幼児からの保育を担っていた実態があり、居住地域か職場に保育所を設けることや共同保育という形態が、伝統的な形態であること等々を記述してきた。

今でこそ、営利法人も含めて様々な経営体が保育所を運営することが当たり前になっているが、その経緯を調べるために、居住する都道府県の中央図書館に文献を漁っていた。

「保育所における営利法人 実態の検証と展望」(石田慎二著 2015年4月法律文化社刊)という研究書があり、貸し出しを求め、読み始めた。「序章1.研究の背景」において、簡潔に、多様な経営体の保育所経営が認められた経緯を記載している。

「2000年以前の民間の保育所の設置経営は、1963年に通知された「保育所の設置認可等について」 (児発第271号)によって、保育事業の公共性、純粋性および永続性を確保し事業の健全なる進展を図る観点から原則として社会福祉法人が行うものとされていた。しかし、2000年3月に保育所の設置認可等について」(児発第295号) が通知されたことによって、営利法人、学校法人、特定非営利活動法人(以下「NPO法人」とする)などの多様な経営主体が保育所経営に新しく参入できるようになった。」(P1)

厚生労働省HPに「保育所の設置認可等について」(児発第295号)は、全文が掲載されている。

○保育所の設置認可等について

(平成一二年三月三〇日)
(児発第二九五号)

(各都道府県知事・各指定都市市長・各中核市市長あて厚生省児童家庭局長通知)

 保育所の設置認可等については、「保育所の設置認可等について」(昭和三八年三月一九日児発第二七一号。以下「児発第二七一号通知」という。)により行ってきたところであるが、待機児童の解消等の課題に対して地域の実情に応じた取組みを容易にする観点も踏まえ、今般、保育所の設置認可の指針を左記のとおり改めたので、貴職において保育所の設置認可を行う際に適切に配意願いたい。
 また、保育所の設置認可に係る申請があった際に、その内容が児童福祉施設最低基準(昭和二三年厚生省令第六三号)その他の関係法令に適合するものでなければ認可してはならないことは当然であり、この点については従来の取扱いと変更がないものであるので、念のため申し添える。

                     記

第一 保育所設置認可の指針

一 地域の状況の把握
 都道府県及び市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、保育所入所待機児童数をはじめとして、人口数、就学前児童数、就業構造等に係る数量的、地域的な現状及び動向、並びに延長保育等多様な保育サービスに対する需要などに係る地域の現状及び方向の分析を行うとともに、将来の保育需要の推計を行うこと。
 都道府県知事(指定都市及び中核市においては市長。以下同じ。)においては、これらの分析及び推計(関係市町村が行ったものを含む。)を踏まえて、保育所設置認可申請への対応を検討すること。

二 認可申請に係る審査等
 保育所設置認可申請については、一で把握した地域の状況を踏まえつつ、個別の申請の内容について、以下の点を踏まえ審査等を行うこと。

(一)   定員
 保育所の定員は、「小規模保育所の設置認可等について」(平成一二年三月三〇日児発第二九六号)及び「夜間保育所の設置認可等について」(平成一二年三月三〇日児発第二九八号)に定める場合のほか、六〇人以上とすること。
 ただし、就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成18年法律第77号)第3条第2項の認定を受ける場合であって、当該認定を受ける同項に規定する幼保連携施設を構成する幼稚園及び保育所の定員の合計数が60人以上となるときは、当該保育所の定員について、10人以上であれば60人を下回っても差し支えないこと。(なお、「小規模保育所の設置認可等について」の第1の1の(2)のいずれかの要件に該当する定員20人未満の保育所にあっては、幼保連携施設を構成する幼稚園及び保育所の定員の合計数が20人以上となるときは、当該保育所の定員について、10人以上であえれば差し支えないこと。)

(二)   社会福祉法人による設置認可申請
 社会福祉法人を設立して保育所の経営を行う者については、社会福祉事業法(昭和二六年法律第四五号)をはじめとする関係法令等に照らし、社会福祉法人の設立についても適正な審査を行うこと。

(三)   社会福祉法人以外の者による設置認可申請

(1)    審査の基準
 社会福祉法人以外の者から保育所の設置認可に関する申請があった場合には、以下の基準に照らして審査すること。

ア     保育所を経営するために必要な経済的基礎があること。

イ     経営者(設置者が法人である場合にあっては、当該法人の経営に携わる役員とする。以下同じ。)が社会的信望を有すること。

ウ (ア)及び(イ)のいずれにも該当するか、又は(ウ)に該当すること。

(ア)        実務を担当する幹部職員が、保育所等において二年以上勤務した経験を有する者であるか、若しくはこれと同等以上の能力を有すると認められる者であるか、又は、経営者に社会福祉事業について知識経験を有する者を含むこと。

(イ)        社会福祉事業について知識経験を有する者、保育サービスの利用者(これに準ずる者を含む。)及び実務を担当する幹部職員を含む運営委員会(保育所の運営に関し、当該保育所の設置者の相談に応じ、又は意見を述べる委員会をいう。)を設置すること。

(ウ)        経営者に、保育サービスの利用者(これに準ずる者を含む。)及び実務を担当する幹部職員を含むこと。

エ     保育所を経営する事業に関し、不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者でないこと。

オ  財務内容が適正であること。

(2)    認可の条件
 社会福祉法人以外の者に対して保育所の設置認可を行う場合には、設置者の類型を勘案しつつ、以下の条件を付すことが望ましいこと。

ア 児童福祉施設最低基準を維持するために、設置者に対して必要な報告を求めた場合には、これに応じること。

イ 収支計算書又は損益計算書において、保育所を経営する事業に係る区分を設けること。

ウ 保育所を経営する事業については、「社会福祉法人会計基準の制定について」(平成一二年二月一七日社援第三一〇号。以下「社援第三一〇号通知」という。)に定める資金収支計算書及び資金収支内訳表を作成するとともに、当該資金収支内訳表においては、社援第三一〇号通知に定めるところにより保育所の各施設ごとに経理区分を設けること。また、併せて、当該経理区分ごとに、積立預金の累計額を記載した明細表(以下「積立預金明細表」という。)を作成すること。

エ 毎会計年度終了後三か月以内に、次に掲げる書類に、保育所を経営する事業に係る現況報告書を添付して、都道府県知事に対して提出すること。

(ア)         前会計年度末における貸借対照表

(イ)         前会計年度の収支計算書又は損益計算書

(ウ)         ウに定める保育所を経営する事業に係る前会計年度の資金収支計算書及び資金収支内訳表

(エ)         ウに定める保育所を経営する事業に係る前会計年度末における積立預金明細表

オ 都道府県知事は、保育所の運営が著しく適正を欠くと認めるときは、当該保育所に対し、期限を定めて必要な措置をとるべき旨を命じ、さらに当該保育所がその命令に従わないときは、期間を定めて事業の停止を命じることがあり、その際、当該保育所がその命令に従わず他の方法により運営の適正を期しがたいときは、認可の取消しを行うことがあること。

(3)    市町村との契約
社会福祉法人以外の者と市町村との間で保育の実施に係る委託契約を締結する際には、以下の事項を当該契約の中に盛り込むことが望ましいこと。

ア     収支計算書又は損益計算書において、保育所を経営する事業に係る区分を設けること。

イ     保育所を経営する事業については、社援第三一〇号通知に定める資金収支計算書及び資金収支内訳表を作成するとともに、当該資金収支内訳表においては、社援第三一〇号通知に定めるところにより保育所の各施設ごとに経理区分を設けること。また、併せて、当該経理区分ごとに、積立預金明細表を作成すること。

ウ 保育所の認可に対して付された条件を遵守すること。

第二 既設の保育所に対する指導
 この通知の施行前に設置認可を受けた保育所に係る社会福祉法人以外の者については、社会福祉法人とするか、又は第一の二(三)に掲げる基準等を満たすよう指導すること。

第三 実施期日等
 この通知は平成一二年三月三〇日から施行し、児発第二七一号通知はこの施行に伴って廃止する。
 なお、この通知は、地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成一一年法律第八七号)による改正後の地方自治法(昭和二二年法律第六七号)第二四五条の四に規定する技術的な勧告に当たるものである。

この通達により、保育所は、国、地方公共団体、社会福祉法人以外のものでも開設が可能となり、同時期に出された「小規模保育所の設置認可等について」「夜間保育所の設置認可等について」(いずれも厚生労働省HP掲載 下段 参考資料)によって、保育所は60人以上の定員から20人以上の小規模保育、夜間保育も国、地方公共団体、社会福祉法人以外のものでも行えるようになったのだ。

この通知を背景から理解しようと思うと、「保育所の設置認可等について」(昭和三八年三月一九日児発第二七一号通知)が必要なのだが、インターネットでいくら検索しても出てこない。「保育所の設置認可等について」児発第271号通知で検索しても、上記の児発第295通知しか出てこないのだ。悩んだ挙句、先の中央図書館に電話で問い合わせをし、児発第271号通知を探してもらった。(書籍だけでなく、法律条文も探してくれるのである。本当に感謝申し上げる)法律の条文は、官報等に収められるが、各省の「通知」といった下位の条文は残っていかないとのことで、探し当てるのに難航したとのこと。結局、「就学前教育事典(昭和41年6月刊 第1法規出版社)」という通知が発令された同時期に出版された事典に全文が所収されていたとのことで、その事典を閲覧させてくれた。(58年も前の通知について、大学研究者は原文を閲覧したのだろうか。1963年~2000年の37年間保育所の設置認可の基準になってきた条文の内容が明らかでない中で、それを引用史料として組み立てられる論文の批判検証ができない状況に、客観性は保障されていると言えるのだろうか。研究者の「解説」を一方的に鵜呑みにするしかないのだ。(ちなみに、図書館の職員は、国会図書館データベースまで探してくれ、1件ある統計資料集に収められているのをデジタルアーカイブでみせていただいた。通知レベルの取り扱いはその程度なのだ。国立公文書館には、様々な省庁の通達通知レベルまで保管されているのだろうか?政策史を研究する時、史料の透明性は確保されているといれる現状からは程遠いように思う。)

児発第271号の全文は以下の通りである。

〇保育所の設置認可等について

昭和38年3月19日 児発第271号

各都道府県知事 各指定都市の市長宛

厚生省児童局長通達

一部改正経過 昭和40年9 月13日 児発第786号によりー部改正

保育行政の運用については従来から多大の御尽力を煩わしている次第であるが、 今回保育所の設置認可等の取扱方針を次のとおり改正したので、これによつて保育行政の適正かつ円滑なる推進を確保されたく通達する。

第1  保育所設置認可の方針

1 認可の要件

保育所の認可に当たつては、 児童福祉施設最低基準その他の法令に定めるところによるほか、 次の各号に掲げる要件を満たすものでなければならないものとし、 もつて保育所の適正配置その他その事業の健全なる進展を図るものとする。

(設置位置)

(1) 保育所を設ける位置は、 既設の保育所がその周囲おおむね2 キロメートルの地域内にないこと。 ただし、要措置児童の分布状況、地理的条件等に特別の事情がある場合は、この限りでないこと。

(定員)

(2) その保育所の定員は60人以上とし、措置児童のおおむね2 割以上は3 才未満児を入所させるものとし、かつ、定員のおおむね1割以上の2 才未満児の設備を設けるものであること。

(要措置児童数)

(3)その保育所を通常利用できると認められる地域内の要措置児童(昭和36年2 月20日児発第129号通達「児童福祉法による保育所への入所の措置基準について」 の別紙の措置基準のいずれかに該当するものをいう。以下同じ。)の数がおおむね60人以上であること。

(職員)

(4) その保育所の保母の数は、三才以上児おおむね30人につき1 人以上及び3 才未満児おおむね8 人につき1人以上であるほか、 調理担当員及び用務員がおかれていること。

(設置経営主体)

(5) 私人の行なう保育所の設置経営は社会福祉法人の行なうものであることとし、保育事業の公共性、純粋性及び永続性を確保し事業の健全なる進展を図るものとすること。

なお、社会福祉法人とすることが著しく困難であるものについては、 少くとも民法法人である財団法人とするよう行政指導を行なうこと。

(協議)

⑥ 都道府県知事(指定都市の市長を含む。以下同じ。)は、 上記の各号に定める認可の要件を満たすことができない特別の事情がある申請については、当省に協議するものとすること。

2 年度別長期計画の策定

都道府県知事及び市町村長(特別区の区長を含む。)は、 要措置児童の分布状況、 既設保育所の分布状況、地理的事情その他ー切の事情を勘案して、それぞれその管内における保育所の設置に関する年度別長期計画を樹立するものとし、毎年度必要に応じてこれを修正しておくものとすること。

第2  既設保育所に対する指導方針

1 運営の是正措置

既設の保育所で第1 の1に定める認可の要件を満たさないものについては、 たとえば当該保育所の増改築等の場合にその是正を図る等、 極力この趣旨にそうよう行政指導を行ない、 また必要に応じて保育所の統廃合をも配慮すること

既設の保育所であつて最低基準に定める設備その他の基準を満たしていないもの、 又は入所の措置基準等を無視し保育所本来の目的に適合しない運営をしているものについては、 前記に準じ必要な行政指導を行なうこと。

2 社会福祉法人への切換

すでに当省の内議承認をうけた保育所で社会福祉法人にすべき・旨の条件を付して承認されたものでいまだにこれが履行されていないもの、又は従来から認可されている社会福祉法人又は財団法人以外の私人の設置する保育所については、極力行政指導を行ない、 社会福祉法人とするようにすること。

第3 実施期日その他

1 この通達は、昭和38年度(従前の例により当省の内議を経て本年4 月から開設されるものを除く。)

から実施する。

なお、 昭和38年度分保育所設置認可計画書の提出期日については、昭和38年4 月20日とする。

2 次に掲げる通達は廃止する。

(ア)昭和28年12月9 日児発第596号通達「保育所の認可等について」

(イ)昭和30年12月1日児発第653号通達「保育所の認可等について」

(ウ) 昭和34年10月12日児発第940号通達「保育所設置認可内議調査書の様式の改定について」

就学前教育事典(昭和41年6月刊 第1法規出版社)より

本当は、(ア)(イ)の通達も探さないといけないのだろうが、又の機会に譲るとして、児発第271号と児発第275号を合わせて並べると、前述の石田氏著作の結論のように単純に保育所の運営は社会福祉法人に限定されていたと言いえない実態が浮かび上がってくる。

そもそも、保育所は、社会福祉事業法(下段 参考資料)において、第2種社会福祉事業に分類されている。第1種社会福祉事業(特に、社会福祉施設を設置する事業)は、よく国・地方公共団体・社会福祉法人しか運営できないと言われているが、社会福祉事業法では、都道府県知事への事前申請と許可(もちろん、クリアしなければならない課題は多々あるが)があれば、前記以外の経営体でも運営が可能である。(社会福祉事業法第57条)第2種社会福祉事業について言えば、事業開始日から1ヶ月以内に都道府県知事に届出をすればよいのであるが、271号275号通知どちらも、第1種社会福祉事業並みに事前申請を求めている。保育所という社会福祉事業が社会福祉事業の中でも独特な位置を確立していたと言っていいだろう。

271号通知の内容で目を引くのは、

  1. 新規保育所は、「既設の保育所がその周囲おおむね2 キロメートルの地域内にない」ように配置するように計画配置するように規制がされていた。
  2. 「措置児童のおおむね2 割以上は3 才未満児かつ、定員のおおむね1割以上の2 才未満児の設備を設ける」と乳幼児保育を義務付け、定員を60人以上と大規模化・統合することが目指された。

そして、保育所の運営が社会福祉法人に限定されていたというよりは、

多くの保育所が、小規模な経営体であった為、行政としては、保育事業の「公共性、純粋性及び永続性」の確保と「健全なる進展を図る」も目的で、社会福祉法人もしくは財団法人が運営するもしくは切り替えを推進したのである。

ここら辺の事情は、271号通知に先立つ7年前の論文「順調に発展する社会福祉法人」(斎藤治美 時の法令No.402号 1961年10月13日号所収)に詳しい。

*この論文は、社会福祉法人制度について重要な論文であり、全社協等の様々な論文や提言に引用されるが、地元の図書館には所蔵されておらず、現論文は、国立国会図書館の送信サービスでやっと入手することができた。この内容は、社会福祉法人制度を検討する上で重要な内容を含んでおり、今後のブログでたびたび紹介すると思う。

この論文の中で、一章を割いて、保育所について述べている部分がある。

(四) 保育所をめぐる問題

34年2月末現在で厚生省がおこなった 全国社会福祉施設調査によると、全社会福祉施設数の実に72%を、地方公共団体および民間の経営する保育所が占めており、民間社会福祉施設だけについてみると、保育所の占める比率は、約76%とさらに高い。このように、社会福祉施設の中で保育所の数が圧倒的に多いことの理由としては、

(1)保育所開設の要望がきわめて強いこと。

(2)他の社会福祉施設とちがって、地域の一般住民の利益との結びつきが強く、保育所の設置に関しては、設置主体側も利用者側もともに熱心であるため開設の要望が実現されやすいこと。

(3)通所施設であるため、施設の最低基準が収容施設に比較してゆるやかであり、したがって、比較的小額の投資で簡単に開設できること。

などがあげられる。

ところで、これら民間保育所の経営主体を調べてみると、社会福祉法人の経営のものは、全体のわずか12%程度にすぎず、約10%が民間の公益法人経営によるもの、そして、実に60%以上が個人経営によるものなのである。このようなことは、他の社会福祉施設にはみられない現象であり、これによっても、保育所は、いかに小規模のものが多いかがわかる。

個人による保育所の経営には、いろいろ好ましくない弊害をともないがちであり、社会福祉事業の本来のあり方としては、これを社会福祉法人の経営によらせて健全な経営をはかることが望ましいのであるが、他方、法人格を与えるにはあまりにも小規模で財産的基礎の薄弱なものが多いところに、保育所特有のジレンマがあるのである。

社会福祉事業法が施行されて、10年がたった時点での社会福祉法人制度の実態が見て取れる。

本論文の他の部分で、社会福祉法人が経営する保育所が395施設と紹介されている。(ちなみに、保育所が断トツの数であり、次は児童養護施設318施設である。)

論文通りに計算すると、

395施設÷12%×60%≒1975施設が、個人経営の保育所となる。1939年(昭和14年)当時の社会事業家や寺院・市町村が運営する「常設保育所」数は1436施設であった。寺院や市町村が急激に増えていると思われないので、個人経営が増加したと推察されるのだ。

社会福祉施設の大部分を占めている保育所の経営体が法人格を持たない個人経営体であるというジレンマが、保育所経営体を社会福祉法人に限定して何とか移行させようとする厚生省の様々な行政指導を生み出した背景なのだ。7年後の第271号通知が38年近く威力を発揮したのは、個人経営体を社会福祉法人に体裁上でも切り替える政策を進めるために致し方なったからだったとも言える。

しかし、地域における保育所の存立は、その地域に恒常的に子どもたちがいることにかかっている。過疎化や地域の世代交代、人口流失等々人口構造が変化していく中で、保育所の配置、形態も変化し続けなければならない。地域に保育所が存在し続けるためには、地域に子どもたちがそして子育て世帯が生活できるように地域おこし・町おこしと連動しなければならないのは容易に考えられるだろう。社会福祉法人に看板をかけ変えただけの個人経営・家族経営体が、そのような地域福祉・地域活性化の視点をもって保育所経営を取り組めるのだろうか。

「社会福祉法人に看板をかけ変えただけの個人経営・家族経営体」が「1施設1法人」という小規模法人の中心的なモデルを構成しているのは言うまでもない。次の投稿では、史料に基づいてその辺の事情を明らかにしていきたいと思う。

(参考資料)

社会福祉事業法

(施設の設置)

第五十七条 市町村(特別区を含む。この章において以下同じ。)又は社会福祉法人は、施設を設置して、第一種社会福祉事業を経営しようとするときは、その事業の開始前に、その施設(以下「社会福祉施設」という。)を設置しようとする地の都道府県知事に、左の各号に掲げる事項を届け出なければならない。

一 施設の名称及び種類

 二 設置者の氏名又は名称、住所、経歴及び資産状況

 三 条例、定款その他の基本約款

 四 建物その他の設備の規模及び構造

 五 事業開始の予定年月日

 六 施設の管理者及び実務を担当する幹部職員の氏名及び経歴

 七 要援護者等に対する処遇の方法

 2 国、都道府県、市町村及び社会福祉法人以外の者は、社会福祉施設を設置して、第一種社会福祉事業を経営しようとするときは、その事業の開始前に、その施設を設置しようとする地の都道府県知事の許可を受けなければならない。

3 前項の許可を受けようとする者は、第一項各号に掲げる事項の外、左の各号に掲げる事項を記載した申請書を当該都道府県知事に提出しなければならない。

一 当該事業を経営するための財源の調達及びその管理の方法

 二 施設の管理者の資産状況

 三 建物その他の設備の使用の権限

 四 経理の方針

 五 事業の経営者又は施設の管理者に事故があるときの処置

4 都道府県知事は、第二項の許可の申請があつたときは、第六十条の規定により厚生大臣が定める最低基準に適合するかどうかを審査する外、左の各号に掲げる基準によつて、その申請を審査しなければならない。

一 当該事業を経営するために必要な経済的基礎があること。

 二 当該事業の経営者が社会的信望を有すること。

 三 実務を担当する幹部職員が社会福祉事業に関する経験、熱意及び能力を有すること。

 四 当該事業の経理が他の経理と分離できる等その性格が社会福祉法人に準ずるものであること。

 五 脱税その他不正の目的で当該事業を経営しようとするものでないこと。

5 都道府県知事は、前項に規定する審査の結果、その申請が、同項に規定する基準に適合していると認めるときは、社会福祉施設設置の許可を与えなければならない。

6 都道府県知事は、前項の許可を与えるに当つて、当該事業の適正な運営を確保するために必要と認める条件を附することができる。

(第二種社会福祉事業)

第六十四条 国及び都道府県以外の者は、第二種社会福祉事業を開始したときは、事業開始の日から一月以内に、事業経営地の都道府県知事に第六十二条第一項各号に掲げる事項を届け出なければならない。

2 前項の規定による届出をした者は、その届け出た事項に変更を生じたときは、変更の日から一月以内に、その旨を当該都道府県知事に届け出なければならない。その事業を廃止したときも、同様とする。

○小規模保育所の設置認可等について

(平成一二年三月三〇日)

(児発第二九六号)

(各都道府県知事・各指定都市市長・各中核市市長あて厚生省児童家庭局長通知)

保育所の設置認可等の取扱いについては、「保育所の設置認可等について」(昭和三八年三月一九日児発第二七一号)により、また、このうち小規模保育所に関しては、併せて「小規模保育所の設置認可等について」(昭和五七年八月二四日児発第七一三号。以下「児発第七一三号通知」という。)により行ってきたところであるが、今般、保育所の設置認可については、「保育所の設置認可等について」(平成一二年三月三〇日児発第二九五号。以下「児発第二九五号通知」という。)により行うこととし、また、小規模保育所の設置認可等の指針についても左記のとおり改めたので、これらにより小規模保育所の設置認可等について適切にお取り扱い願いたい。

第一 小規模保育所の設置認可の指針

一 六〇人未満の定員の保育所(以下「小規模保育所」という。)の設置認可申請については、児発第二九五号通知の「一 地域の状況の把握」に基づき検討した結果、当該申請に係る保育所の定員を六〇人以上とすることが困難であること、当該地域について二〇人以上の保育需要が継続すると見込まれること及び他に適切な方法がないことを確認の上、以下の要件に適合することを審査し、小規模保育所として設置認可を行って差し支えないものであること。

(一) 当該保育所の設備及び運営については、児童福祉施設最低基準(昭和二三年一二月二九日厚生省令第六三号)その他法令等(以下「児童福祉施設最低基準等」という。)に定めるところに適合するものであること。

(二) 保育所・その所在地等が次のいずれかに該当するものであること。

① 市部又はその周辺の要保育児童が多い地域に所在し、かつ、保育の実施による入所児童のおおむね四割以上は三歳未満児を入所させることとしている保育所。ただし、定員二一人以上の小規模保育所にあっては、三歳未満児の割合は、おおむね三割以上で差し支えないこと。

② 過疎地域活性化特別措置法(平成二年法律第一五号)第二条第二項の規定により内閣総理大臣が公示した過疎地域をその区域とする市町村内の地域等に所在する保育所。

③三歳未満児を保育の実施による入所児童のおおむね八割以上、かつ、このうち乳児は保育の実施による入所児童の一割以上、入所させることとしている保育所。

(三) 定員は二〇人以上であること。

(四) 施設長は、保育士の資格を有し、直接児童の保育に従事することができるものを配置するよう努めること。保育士その他の職員については、児童福祉施設最低基準等に定めるところにより所定数を配置すること。

二 小規模保育所に対する費用の支弁については、「児童福祉法による保育所運営費国庫負担金について」(昭和五一年四月一六日厚生省発児第五九号の二)に定める保育単価が適用されること。

ただし、定員二〇人及び二一人から三〇人までとする小規模保育所については、各々特別保育単価が適用されるものとし、毎年度別途通知するものであること。

第二 実施期日等

この通知は平成一二年三月三〇日から施行し、児発第七一三号通知はこの施行に伴って廃止する。

なお、第一の一は、地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成一一年法律第八七号)による改正後の地方自治法(昭和二二年法律第六七号)第二四五条の四に規定する技術的な勧告に当たるものである。

○夜間保育所の設置認可等について


(平成一二年三月三〇日)

(児発第二九八号)

(各都道府県知事・各指定都市市長・各中核市市長あて厚生省児童家庭局長通知)

保育所の設置認可等の取扱いについては、「保育所の設置認可等について」(昭和三八年三月一九日児発第二七一号)により、また、このうち夜間保育所に関しては、併せて「夜間保育所の設置認可等について」(平成七年六月二八日児発第六四二号。以下「児発第六四二号通知」という。)により行ってきたところであるが、今般、保育所の設置認可については、「保育所の設置認可等について」(平成一二年三月三〇日児発第二九五号。以下「児発第二九五号通知」という。)により行うこととし、また、夜間保育所の設置認可等の方針についても左記のとおり改めたので、これらにより夜間保育所の設置認可等について適切にお取り扱い願いたい。


一 保育所の設置認可等の取扱方針については、児発第二九五号通知により示されたところであるが、夜間保育所の設置認可申請については、同通知に定める事項に加え、次の基準に照らして審査を行うこと。
(一) 設置経営主体
夜間保育の場合は、生活面への対応や個別的な援助がより一層求められることから、児童の保育に関し、長年の経験を有し、良好な成果をおさめているものであること。
(二) 定員
入所定員は、二〇名以上とすること。
(三) 対象児童
夜間、保護者の就労等により保育に欠けるため、市町村が保育の実施を行う児童であること。
(四) 職員
施設長は、保育士の資格を有し、直接児童の保育に従事することができるものを配置するよう努めること。保育士については、児童福祉施設最低基準(昭和二三年厚生省令第六三号)等に定めるところにより所定の数を配置すること。
(五) 設備及び備品
① 仮眠のための設備及びその他夜間保育のために必要な設備、備品を備えていること。
② 既存の施設に夜間の保育所を併設する場合にあっては、直接児童の保育の用に供する設備については専用でなければならないが、管理部門等については運営に支障を生じない範囲で既存の施設の設備と共用することも差し支えないこと。
③ 地域の実情に応じて、分園(平成一〇年四月九日児発第三〇二号「保育所分園の設置運営について」に定める分園をいう。)を設置することができる。
(六) 保育の方法
開所時間は原則として概ね一一時間とし、おおよそ午後一〇時までとすること。

二 夜間保育所に対する費用の支弁については、「児童福祉法による保育所運営費国庫負担金について」(昭和五一年四月一六日厚生省発児第五九号の二)に定める保育単価が適用され、この他別に定める加算分保育単価を加えて適用されること。
ただし、定員二〇人及び二一人から三〇人までとする夜間保育所については、各々「小規模保育所の設置認可等について」(平成一二年三月三〇日児発第二九六号)の第一の二で定める特別保育単価に別に定める加算分保育単価を加えて適用されること。

三 都道府県知事、指定都市又は中核市の市長は、夜間保育所の設置認可を行った場合又は届出を受けた場合は、速やかに別紙様式により当省に報告すること。

四 夜間保育所を設置経営する市町村及び社会福祉法人等に夜間保育所の運営についての報告を求めることがある。

五 この通知は平成一二年三月三〇日から施行し、児発第六四二号通知はこの施行に伴って廃止する。

なお、本通知(二を除く)は、地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成一一年法律第八七号)による改正後の地方自治法(昭和二二年法律第六七号)第二四五条の四に規定する技術的な勧告に当たるものである。

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