前回の投稿で、介護保険法・総合支援法ともに社会保障法それも給付法にすぎないことを書いておいた。今回はその流れで、報酬改定のたびに浮上する補足給付(正確には、特定障害者特別給付費)算定のための「基準費用額」の見直し論や食事提供体制加算に関する廃止論について考える視点を整理してみたいと思う。

先ずは、補足給付の根拠法令を引用しよう。先ずは、言葉の定義から

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法:平成十七年法律第百二十三号)

(特定障害者特別給付費の支給)

第三十四条 市町村は、施設入所支援、共同生活援助その他の政令で定める障害福祉サービス(以下この項において「特定入所等サービス」という。)に係る支給決定を受けた障害者のうち所得の状況その他の事情をしん酌して主務省令で定めるもの(以下この項及び次条第一項において「特定障害者」という。)が、支給決定の有効期間内において、指定障害者支援施設若しくはのぞみの園(以下「指定障害者支援施設等」という。)に入所し、又は共同生活援助を行う住居に入居して、当該指定障害者支援施設等又は指定障害福祉サービス事業者から特定入所等サービスを受けたときは、当該特定障害者に対し、当該指定障害者支援施設等又は共同生活援助を行う住居における食事の提供に要した費用又は居住に要した費用(同項において「特定入所等費用」という。)について、政令で定めるところにより、特定障害者特別給付費を支給する。

2 第二十九条第二項及び第四項から第七項までの規定は、特定障害者特別給付費の支給について準用する。この場合において、必要な技術的読替えは、政令で定める。

3 前二項に定めるもののほか、特定障害者特別給付費の支給及び指定障害者支援施設等又は指定障害福祉サービス事業者の特定障害者特別給付費の請求に関し必要な事項は、主務省令で定める。

障害者支援施設及び共同生活援助(グループホーム)を「特定入所等サービス」と言い、特定入所等サービスの利用者で、生活保護・低所得1(市町村税非課税 障害基礎年金2級相当の年間80万円以下)・低所得2(市町村税非課税 それ以外)を「特定障害者」と定義づけられている。(当初、本人名義資産500万円 後に350万円以下、不動産を持たない等の制限があったが、22年度より撤廃)この特定障害者が支払う食費・居住費に対する補填給付が特定障害者特別給付費(補足給付)と呼ばれるものだ。(特定障害者にしか支給されないし、自立支援給付とは性格を異にするからこの名称としたのだろうか)

さて、次は特定障害者特別給付費(補足給付)の計算方法だ。根拠法を示すと、法の一段下の施行令に根拠がある。

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行令(平成十八年政令第十号)

第四款 特定障害者特別給付費及び特例特定障害者特別給付費の支給

(特定障害者特別給付費の対象となる障害福祉サービス)

第二十条 法第三十四条第一項に規定する政令で定める障害福祉サービスは、施設入所支援、共同生活援助その他これらに類するものとして厚生労働省令で定めるものとする。

(特定障害者特別給付費の支給)

第二十一条 特定障害者特別給付費は、次の各号に掲げる特定障害者(法第三十四条第一項に規定する特定障害者をいう。以下この条において同じ。)の区分に応じ、当該各号に定める額とする。

一 指定障害者支援施設等から特定入所等サービス(法第三十四条第一項に規定する「特定入所等サービス」をいう。次号において同じ。)を受けた特定障害者 指定障害者支援施設等における食事の提供及び居住に要する平均的な費用の額を勘案して厚生労働大臣が定める費用の額(以下この条において「食費等の基準費用額」という。)から平均的な家計における食費及び居住に要する費用の状況並びに特定障害者の所得の状況その他の事情を勘案して厚生労働大臣が定める方法により算定する額(以下この条において「食費等の負担限度額」という。)を控除して得た額(その額が現に食事の提供及び居住に要した費用の額を超えるときは、当該現に食事の提供及び居住に要した費用の額)

二 指定障害福祉サービス事業者(法第二十九条第一項に規定する指定障害福祉サービス事業者をいう。以下同じ。)から特定入所等サービスを受けた特定障害者 共同生活援助を行う住居における居住に要する平均的な費用の額を勘案して厚生労働大臣が定める費用の額(次項において「居住費の基準費用額」という。)に相当する額(その額が現に居住に要した費用の額を超えるときは、当該現に居住に要した費用の額)

2 厚生労働大臣は、前項の規定により食費等の基準費用額若しくは食費等の負担限度額を算定する方法又は居住費の基準費用額を定めた後に、指定障害者支援施設等における食事の提供若しくは居住に要する費用又は共同生活援助を行う住居における居住に要する費用の状況その他の事情が著しく変動したときは、速やかにこれらを改定しなければならない。

3 第一項の規定にかかわらず、特定障害者が指定障害者支援施設等に対し、食事の提供及び居住に要する費用として、食費等の基準費用額(法第三十四条第二項において準用する法第二十九条第五項の規定により特定障害者特別給付費の支給があったものとみなされた特定障害者にあっては、食費等の負担限度額)を超える金額を支払った場合には、特定障害者特別給付費を支給しない。

障害者支援施設の補足給付については、施行令第21条1において定義づけられている。

「障害福祉サービス・障害児通所支援等の利用者負担認定の手引き 【令和6年4月版】」Vol.18 厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 こども家庭庁 支援局」を参考にしながら、補足給付の「正体」を整理してみよう。

最もシンプルで典型的な、障害基礎年金だけの収入で、工賃はなく、自身で健康保険料を支払っている障害者支援施設の入所者を考えてみる。

「手引き」を参考にして計算式を抽出すると(P30-35)

負担限度額(月額)(「食費等の負担限度額」:平均的な家計における食費及び居住に要する費用の状況並びに特定障害者の所得の状況その他の事情を勘案して厚生労働大臣が定める方法により算定する額)(月額)

=控除後認定収入額(年金等収入(年額)-健康保険料)/12 – その他の生活費

「その他の生活費」とは、食費・居住費以外に必要な生活費として定められた額(可処分所得)なので、控除後認定収入額から引くと残るのは、生活する上で必要な経費としての食費・水光熱費に支払うことができる限界額が残るという組み立てである。

補足給付(月額)

=基準費用額(月額)(「食費等の基準費用額」:指定障害者支援施設等における食事の提供及び居住に要する平均的な費用の額を勘案して厚生労働大臣が定める費用の額)‐負担限度額(月額)

(施行令第21条1)

補足給付は、日額で計算するので、

補足給付(日額)=補足給付(月額)/30.4(365日/12≒30.4日と月平均で計算する)

上記のように算出されるのであるが、12倍して、これを年額計算に直すとするとこの「正体」が見えてくる。

補足給付(年額)

=基準費用額(月額)×12‐年金等収入(年額)+健康保険料+その他の生活費×12

移項すると

年金等収入(年額)‐基準費用額(月額)×12+補足給付(年額)=健康保険料+その他の生活費×12

「その他の生活費」は、補足給付が始まって以来要件の若干の変更はあるものの大体、2.5万円~2.8万円で固定されてきた。右辺は固定されているのだ。従って、基準費用額と補足給付の役割は、低所得者層に対する可処分所得(「その他の生活費」)と健康保険料の確保のための調整弁であるということだ。

*ちなみに、障害基礎年金1級を年額100万円とし、補足給付を出さなくてもよい(つまり0円)と仮定して、計算すると、基準費用額は約52,833円になり、現行の基準費用額に近い数字が導き出される。インフレ局面になれば、物価高の影響で基準費用額が上昇するが、その為年金との差が縮まるので、補足給付は増額になる。年金・物価・自治体の財力様々な力関係が反映するが、明らかなのは低所得者層に属する施設利用者には一定の可処分所得と社会保険料が確保保障されるのだ。

この制度設計には、日本の社会保障制度が社会保険を軸に整備拡充されてきたことと密接に関係がある。社会保障制度審議会による1950年(昭和25年)勧告及び1962年(昭和37年)勧告は、社会保険制度を軸に制度設計する意義を以下のように詳細に述べている。

*以下、長文の引用が続くので、太字を中心に流し読みでも構いません。

1950年(昭和25年)勧告において、社会保障は社会保険制度を軸に構築していくことが提言された、長文ではあるが、重要な部分なので引用する。

社会保障制度に関する勧告( 昭和251016

社会保障制度審議会

日本国憲法第25条は、(1)「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」(2)「国は、すべての生活部面について社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定している。これは国民には生存権があり、国家には生活保障の義務があるという意である。これはわが国も世界の最も新しい民主主義の理念に立つことであって、これにより、旧憲法に比べて国家の責任は著しく重くなったといわねばならぬ。

いうまでもなく、日本も今までにいろいろの社会保険や社会事業の制度をもっている。しかしながら、 そのうちには個々の場合の必要に応じて応急的に作られたものもあって、全体の制度を一貫する理念をもたない。その上長年にわたるインフレーションは これらのどの制度をも財政難におとしいれその多くはいまや破綻の状態にある。しかも戦争は国民の生活を極度に圧迫して、いまや窮乏と病苦とに耐えないものが少くない。ことに家族制度の崩壊は彼等からその最後のかくれ場を奪った。

社会保障制度審議会は、この憲法の理念と、この社会的事実の要請に答えるためには、1日も早く統―ある社会保障制度を確立しなくてはならぬと考える。いわゆる社会保障制度とは、疾病、負傷,分娩, 廃疾,死亡,老齡,失業、多子その他困窮の原因に対し、保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ、生活困窮に陥った者に対しては、国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに、 公衆衛生及び社会福祉の向上を図り、もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすることをいうのである。

このような生活保障の責任は国家にある。国家は これに対する総合的企画をたて、これを政府及び公共団体を通じて民主的能率的に実施しなければならない。この制度は、もちろん、すべての国民を対象 公平と機会均等とを原則としなくてはならぬ。 またこれは健康と文化的な生活水準を維持する程度のものたらしめなければならない。そうして一方国家がこういう責任をとる以上は、他方国民もまたこれに応じ、社会連帯の精神に立って、それぞれの能力に応じてこの制度の維持と運用に必要な社会的義務を果さなければならない。

しかしこういう社会保障制度はそれだけでは、その目的を達し得ない。一方においては国民経済の繁栄、国民生活の向上がなければならない。他方においては最低賃金制,雇傭の安定等に関する政策の発達がなければならない。 しかし、わが国の貧弱な財政の下においてはこれらすべてを一時に実現することは困難である。 

1. 国民が困窮におちいる原因は種々であるから、 国家が国民の生活を保障する方法ももとより多岐 であるけれども、それがために国民の自主的責任の観念を害することがあってはならない。その意味においては、社会保障の中心をなすものは自らをしてそれに必要な経費を醸出せしめるところの社会保険制度でなければならない。

2. しかし、わが国社会の実情とくに戦後の特殊事 情の下においては、保険制度のみをもってしては 救済し得ない困窮者は不幸にして決して少くない。 これらに対しても、国家は直接彼等を扶助しその 最低限度の生活を保障しなければならない。いうまでもなく、これは国民の生活を保障する最後の施策であるから、社会保険制度の拡充に従ってこの扶助制度は補完的制度としての機能を持たしむべきである。

3. しかしながら、社会保障制度は前述のような措置だけではいけない。更に、すすんで国民の健康の保持増進のための公衆衛生に対する行政や施設を同時に推進しなければならない。更にまた、国民生活の破綻を防衛するためには社会福祉行政も 拡充しなければならない。社会保障制度は、社会 保険,国家扶助,公衆衛生及び社会福祉の各行政 が、相互の関連を保ちつつ総合一元的に運営されてこそはじめてその究極の目的を達することができるであろう。

1950年当時まだ日本は貧困にあえいでいたが、戦前の乱立する社会保険制度や社会事業を整理統合する方向(社会保険制度の統合拡充)で社会保障制度を完成させることを成し遂げることを選択した。その根拠は勧告から整理するならば

国家による生存権保障

社会連帯

国民の自主的責任の尊重

つまり、日本国憲法により基本的人権である生存権を保障し(公金を投入し)、国民一人一人が自分の生活を自分の責任において選択構築する自由を担保することを、社会連帯によって支えるという社会像を制度的に保障するには、国民が保険料を払い支える社会保険制度が最適であるとしたと言える。(保険料は強制的に徴収されるのではない。本来は、自らが納めることで被保険者資格を得え、保険給付を受ける権利を得るのだ。)

この社会像を展開していくと、全国民が全国民を支える社会像に行き当たる。それが、国民皆保険・皆年金である。高度経済成長に入った日本が目指した社会保障のグランドデザインであり、かつそのグランドデザインを維持する上での課題を示したのが1962年勧告だ。

社会保障制度の総合調整に関する基本方策についての答申及び社会保障制度の推進に関する勧告

昭和37822

社会保障制度審議会

(1)社会保障は、国民生活を安定させる機能をもつとともに、なおそれが所得再分配の作用をもち、 消費需要を喚起し、また景気を調節する等の積極 的な経済的効果をもつ、この点からいえば、社会 保障は、国の政策として、公共投資および減税の 施策とならんで、あるいはそれ以上重要な意義をもつこと。

(2) 国民所得および国家財政における社会保障費の 地位については、今後10年の間に、日本は、この 制度が比較的に完備している自由主義の諸国の現 在の割合を、少なくとも下廻らない程度にまで引き上げるべきこと。

(3) 右のような社会保障の計画をたてるについては、 国庫負担、保険料および受益者負担の割合についての原則をあらかじめ確立し、その原則により費 用の配分の原則を定めること、また、各種の社会保障についても、その間の均衡の基準を定めること。

(3つの公準)

…かくのごとくして、わが国社会保障の問題はいまや新局面を迎えた。それは皆保険、皆年金によって 全国民をいずれかの制度に加入させるというだけではなく、それは全制度を通じて全国民に公平にその生活を十分保障するものでなければならない。そのためには、各種制度を根本的に再検討し、それら諸制度間のバランスを確立しなければならない。このバランスとは、単に各種医療保険相互間とか、各種年金相互間におけるバランスだけでなく、社会保障 制度全般を通じて、より高い次元におけるあたらしいバランスでなければならない。

このあたらしい課題にこたえるために、われわれは、まず社会保険についての従来の考え方を再検討する必要がある。というのは、この制度はもっぱら被用者に対する制度としてはじめられ、その発達も社会保険即労働者保険、労働政策叉は社会政策の一環としてであった。しかしわが国には、欧米先進国に比してなお自営業者とくに農民が多いために、 このような被用者に対する制度をそのまま国民一般にまでひろめてもうまくはゆかない。それゆえ現段階における社会保険の社会保障においてはたすべき役割および限界をあらためて検討することがまず必要であり、ついで、これまでの社会保障の諸制度における保障の水準を全制度を通じて総合調整することが必要であり、前述の三つの公準を前提として、あたらしい構想に対する財源の分配、ことに国家の分担について、その通則を明らかにすることが必要である。この際において従来のように無計画にそれぞれの制度の水準を引き上げることのみに努力をかさね、財源の不足は国庫負担にゆだねればよいというような考え方を続けるならば、力の強い者の属する制度はますます発展し、力の弱い階層に対する制度は低い水準にとり残される結果となって、社会保障の均衡のとれた発展が期待できないことは明らかである。

社会保険では社会保障の目的が十分に達せられないというのは、保険そのものの性質上やむをえない。けだし、保険料を累進的に徴収することも、逆に給付を所得に反比例させることもむずかしい。また保険においては、その対象とする事故を限定する必要があるから、各人各様の貧困原因のすべてをカバーすることはできず、できても、それぞれの収入の減少や支出の増大を測定し、それに給付をリンクさせることは非常に困難である。これを要するに、防貧制度としては社会保険は有力な手段であるが、すでに低所得者にはこれだけでは尽しえない面があり、このひとびとに対しては、保険以外に別の施策を考える必要がある。これが日本における社会保障のあたらしい面である。

(4)社会保険におけるプール制の導入

その総合調整においてはこの点が反省されねばならぬ。現在のように社会保険の被保険者がひろまれば、負担能力の低い層が入ってくる。そのため後からできた低所得の階層を含む制度においては、総付内容が悪いのにその負担はかえって重くなるという不合理を生じている。このような不均衡は国民感情からしてもなんらかの是正の措置をとる必要があり、社会達帯の思想からしても負担の公平化をはからなければならない。これを根本的に是正するためには、現在分立している各種の制度を統合し全国民を一つの制度に加入させることが理想である。

3 給付の調整

つぎに給付面においては、従来の社会保険は保険の原則にこだわりすぎたきらいがある。今後は所得再配分の観点にたつとともに費用の効率的な使用を考えて、できる限り保険料と給付の比例関係を排し、保険料は能力に、給付は必要に応ずる方向に進むべきである。また従来は、個々の事故に対しておおむね画一的な給付を行ってきたが、各人の収支を総合的にとり上げ、低所得者には特別の給付をする工夫を図ることがのぞましい。

この勧告は「われわれは今後10年間における社会保障制度全般を通じて均衡のとれた発展を期するため」の「10年間に限定した」方策と断りつつも、極めて重要な面を指摘している。つまり、皆保険皆年金に向けて、社会保険制度を統合拡大していけばいくほど(社会連帯 社会全体で支えあう)、従来の保険の原則(積み立て方式)に立てば保険制度に貧困層・低所得者層が流入し、その場合、給付内容の低下や保険料の上昇という不利益が「保険料を真面目に払う」被保険者に襲い掛かるという矛盾を生むことになった。そのため勧告では、①保険料は応能負担原則で、給付は原則ニーズに応じる。②低所得者には特別な給付を支給し、社会保険制度を支える(つまり保険料を支払うことを支える)ことを提言した。

社会保障制度が発展した現在、我々には保険料を払うことは当たり前すぎる行為であるが、「保険料を払う」行為は、社会保険制度を成り立たせる根本であり、貧困・高齢・障害があろうがなかろうが、社会連帯(社会を全員で支えあう理念)を実現する上で外せない行為でもあるのだ。従って、被保険者資格を持つ者が保険料を支払う、収めるという行為は社会保障制度を支えるうえで絶対的に保証されなければならないのだ。

*例えば、年金制度も社会保険である。現在の賦課方式(現在納められた保険料で現在の年金受給者に給付を払う方式)のおかげで、知的障害者は保険料を全額免除の上、障害年金として国民年金相当額を給付されている。これは賦課方式でなければ成立しない。完全積立方式(従来の保険原則)では、知的障害者は自ら保険料を納めていないから給付の支給はそもそもないことになる。

*ちなみに、平成5‐6年(1993-94年)に社会保障制度審議会社会保障将来像委員会が「第一次報告~社会保障の理念像の見直しについて」「第二次報告」を発表し、社会福祉基礎構造改革への方向をしめした。皆保険皆年金を実現した社会保障制度に対して、生活全般を保障する普遍的な制度に成長したとしつつも、「基本的には生活の維持向上は国民各自に第一次的な責任がある。」として、自助努力・自立自助を強調した。そればかりか、「高齢者や障害者もできる限り自立する努力をするとともに、家族による世話を全面的に公的責任に切り替えるというのではなく、家族による介護を公的に支援し、高齢者や障害者ができる限り在宅で生活できるようにしていく必要がある。」(第一次報告P11)とこれまでの「国民の自主的責任の尊重」原則が過度に強調された、もしくは社会的弱者も含めた「自立自助」原則に取って代わられた。(身体障害者・知的障害者福祉法の目的変更を想起しよう)(最近では、「全世代型社会保障」「1億総活躍」という社会保障像が喧伝されているが、それについては別稿で。)

*厚生労働省は平成27年(2015年)7月24日「高齢の障害者に対する支援の在り方について」という資料を整理し、「介護保険制度と障害福祉制度の適用関係」において「社会保障制度の原則である保険優先の考え方」から介護保険優先原則を説明している。これは厚労省によると「我が国の社会保障制度体系においては、あるサービスが公費負担制度でも社会保険制度でも提供されているときは、保険料を支払って国民が互いに支え合う社会保険制度によるサービスを利用する」ことと「保険優先の考え方」の内容を説明している。(社会保障審議会障害者部会第127回R4.4.18提出「高齢障害者に対する支援について②」)しかし、これまでの歴史的な勧告を概観しても、我が国の社会保障制度が社会保険を軸に構築されていることは原則・基準となっているが、上記の「保険優先の考え方」にふれた文章は見つけられなかった。どなたか知っている方がいらっしゃるならご教示願いたい。

長々、我が国の社会保障制度を振り返ったが、補足給付は以上のように社会保険制度を低所得な(知的)障害者であっても支えていく為に生み出された社会保障システムの重要なピースであることを押さえておこう。

今回の報酬改定で基準費用額について、障害福祉サービス等経営実態調査等を踏まえて検討されたとされ、54,000円から55,500円へ改定された。(単純に割り算すると、1.028%)急激な物価上昇をある程度考慮されているので歓迎すべきではあるが、経営実態調査結果(令和5年度)はウェブ上に公表されてはいるが、実際どのような実態調査結果のデータからはじき出したは不明だし、本当に実態に即しているのかも不明だ。計算根拠・計算手法については、明示されるべきと思う。年金や市町村の財源、社会保険料等にどう影響を与えるかそして妥当であるかは研究者にお任せするしかない。(数式に明るい方ならわかると思うが、実態値がなくても、その他の生活費・年間の年金支給額・社会保険料と補足給付として市町村が支出できる額さえ決まれば、基準費用額は計算式上導き出せるし、政治的判断でいくつかの候補値から選択すればよいのだ。)

さて食事提供加算である。食事提供加算の目的は、「収入が一定額以下の利用者に対して、事業所が原則として当該施設の調理室を利用して調理員による食事提供を行った場合」(障害福祉サービス等報酬改定検討チーム第22回R2.11.27 その他の横断的事項について(論点)より)に事業所のサービス料金に追加する加算だ。食費=食材料費+調理加工費(人件費・設備費等)とすると、低所得な利用者の負担軽減措置として、食材料費だけをもらい調理加工費(人件費・設備費等)を加算という形で補填するという二つの機能を食事提供加算は担っている。この加算がなくなれば、食費軽減措置はなくなるし、かといって低所得者から調理加工費を付加して値上げた料金を徴収するのは気が引ける。かといって、調理加工費は或る程度補填しなければならない。こうした三すくみな状況が本来は臨時的経過的だった加算の廃止を思いとどまらせている。しかし、在宅であれ、利用者は低所得層に属することが多いのであれば、社会保険制度に包摂していくべく、通所利用者の「食費等の基準費用額」と「その他の生活費」を設定し、施設入所者と同様の補足給付を支給する方式に転換することが、施設と地域の差をなくし地域へ移行する選択をしやすくし、利用者にも一定の可処分所得と社会保険料が確保保障され生活のめどが立てやすくなり、事業者も食費を基準費内で値上げできるのではないだろうか?通所利用者の生活データーがないというならそれこそ実態調査をすればいい。いずれにせよ、食事提供加算は、地域で生活しようとする知的障害者の生活基盤を保障し、社会保険制度に参加する目的のための手段として整理される必要があり、安易な廃止論では社会保障制度の本質を見ないで単なる金額合わせための論議であり、解決不能なのだ。

グループホームの家賃補助についてはそもそもの制度設計の問題があるので費用負担については入り組んでしまうので機会があれば書きたいと思う。

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