やっと強度行動障害支援について、自分のこれまでの支援経験を踏まえて、機序やアセスメントの方法論についてまとめることができた。「少子化」についてそろそろ書かなければとしていたところ、令和6年度の医療保険、介護保険、障害福祉サービス費報酬改定で書き残しておかなければならないテーマがあった。
「地域移行」と「身体拘束」と費用負担(補足給付、食事提供加算、グループホームの家賃補助等)についての基本的考え方について、歴史や資料に基づいて書き起こしてみたいと思う。先ずは、「地域移行」から始めよう。(不定期なコーヒーブレイクなので、突然次回「少子化」が始まるかもしれないので勘弁を)
今回の報酬改定で、「地域移行」について、以下のような方針が打ち出された。(長いが主要部分を転載する。)
4.施設系・居住支援系サービス
(1)施設入所支援
①基本報酬の定員区分の見直し
・利用定員の変更を行いやすくし、施設から地域への移行を推進するため、利用定員ごとの基本報酬を 10 人ごとに設定する。
→基本報酬の区分の見直しについて(別紙 1 )参照
②地域移行を推進するための取組の推進
・すべての入所者に対して、地域移行及び施設外の日中サービス利用の意向を確認し、希望に応じたサービス利用にしなければならないことを運営基準に規定する。・
・ 本人の希望に応じたサービス利用に実効性を持たせるため、
➢ 地域移行及び施設外の日中サービス利用の意向確認を行う担当者を選任すること
➢ 意向確認のマニュアルを作成すること
を運営基準に規定する。当該規定については、令和6年度から努力義務化し、令和8年度から義務化するとともに、未対応の場合は、減算の対象とし、令和8年度から義務化するとともに、未対応の場合は、減算の対象とする。
・ 地域移行に向けた動機付け支援として、グループホーム等の見学や食事利用、地域活動への参加等を行った場合を評価するための加算を創設する。
≪指定障害者支援施設等の一般原則の見直し【新設】≫
・指定障害者支援施設等は、利用者の自己決定の尊重及び意思決定の支援に配慮しつつ、利用者の地域生活への移行に関する意向を把握し、当該意向を定期的に確認するとともに、定期的に確認するとともに、地域生活支援拠点等地又は相談支援事業者と連携を図りつつ、利用者の希望に沿って地域生活への移行に向けた措置を講じなければならない。
・ 指定障害者支援施設等は、利用者の当該指定障害者支援施設等以外における指定障害福祉サービス等の利用状況等を把握するとともに、利用者の自己決定の尊重及び意思決定の支援に配慮しつつ、利用者の当該指定障害者支援施設等以外における 指定障害福祉サービス等の利用に関する意向を定期的に確認し、 相談支援事業者と連携を図りつつ、必要な援助を行わなければならない。
≪地域移行等意向確認担当者の選任等【新設】≫
指定障害者支援施設等は、利用者の地域生活への移行に関する意向や施設外のサービスの利用状況等の把握及び施設外におけるサービスの利用に関する意向の定期的な確認(以下「地域移行等意向確認等」という。)を適切に行うため、地域移行等意向確認等に関する指針を定めるとともに、地域移行等意向確認担当者を選任しなければならない。
・地域移行等意向確認担当者は、地域移行等意向確認等に関する指針に基づき、地域移行等意向確認等を実施し、アセスメントの際に把握又は確認した内容をサービス管理責任者に報告するとともに、施設障害福祉サービス計画の作成に係る会議に報告しなければならない。
上記規定は、令和6年度から努力義務化、令和8年度から義務化
・地域移行等意向確認担当者は、地域移行等意向確認等に当たっては、地域生活支援拠点等又は一般相談支援事業若しくは特定相談支援事業を行う者と連携し、地域における障害福祉サービスの体験的な利用に係る支援と連携し、地域における障害福祉サービスの体験的な利用に係る支援その他の地域生活への移行に向けた支援を行うよう努めなければならない。他の地域生活への移行に向けた支援を行うよう努めなければならない。
≪地域移行等意向確認等に関する指針未作成等の場合の減算【新設】≫
・ 地域移行等意向確認等に関する指針を作成してない場合又は地域移行等意向確認担当者を選任していない場合は、1日につき5単位を減算する。(令和8年度から減算を実施。)
≪地域移行促進加算(Ⅱ)【新設】≫ 600単位/日
入所者に対して、通所サービス又はグループホームの見学や食事体験等を行うなど、地域生活への移行に向けた支援を実施した場合に、1月につき3回を限度として所定単位数を算定する。
③地域移行の実績の評価
・障害者支援施設から地域へ移行した者がいる場合であって、入所定員を1名以上減らした場合を評価するための加算を創設する。
(略)
※前年度に当該指定障害者支援施設等から退所し、地域生活が6月以上継続している者が1人以上いる指定障害者支援施設等であって、利用定員を減少させたものとして都道府県知事に届け出たものについて、 1年間を限度として1日につき所定単位数に当該利用定員の減少数を乗じて得た単位数を加算する。
長々引用したが、要約すれば、「地域移行」を指定障害者支援施設の運営基準(規定)に明記させ、(これによって、備えるべき標準サービスとした上で、やっていないと、標準サービス以下の提供であるから単価を下げるという理屈だ。)新たに、指針や地域移行等意向確認担当者といった担当職員を設けなければ値引きをすると厚労省に宣言された訳だ。そして、地域移行推加算や地域移行実績及び定員削減をすると一年に限り加算で評価すると「アメとムチ」のような誘導をしようと試みている。どうやら、これにはこんな背景があるからだ。
「入所施設の障害者、地域移行伸びず 重度者の生活支援を」(日本経済新聞2022年11月7日)
(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF070FM0X01C22A1000000/)より
地域移行、政府目標下回る4.9%
厚生労働省によると、入所施設にいる全国の障害者のうち、自宅や、アパートのようなグループホームなど地域社会での生活に移った人は2020年度末までの4年間で4.9%の約6300人にとどまり、政府目標の9%を大幅に下回る。
地域移行が比較的容易な軽度者は既に施設を出て、重度や高齢の人が残っているのが背景。知的障害者を中心に依然12万人超が入所している。重度者を支援できる専門的な人材の育成や社会の理解が求められる。
国は06年度から法律に基づき国が期間を設けて目標値を定め、各自治体が具体的な障害者福祉の計画を立てている。
達成状況を見ると、施設入所者のうち地域生活に移った人は当初、軽度者が多かったため、比較的高い割合で推移した。11年度末までの6年半で21.8%(目標は10%)。14年度末までの9年半の累計では26.9%になった(目標は30%)。
その後は、専門的なサポートが必要となる重度者らが残る形となり移行は進まず、20年度末までの4年間では4.9%に落ち込んだ。(太字はLooker-on)
厚労省は地域移行後の主な受け皿として、アパートや民家などで少人数が共同生活を送るグループホームの整備を進めている。事業者に支払う報酬改定で手厚い人員配置や医療的ケアへの対応などを後押ししてきたが、重度者の受け入れは依然進んでいない。〔共同〕
厚生労働省が公式に掲載していた資料を見てみよう。(昔から資料を集めていたので、紙媒体に印刷したものを今回画像取り込みして掲載している。厚労省は定期的なのか古い資料はWEB上から外すので、時系列的に事象を追うことができないことが多い。)
先ずは、平成23年度障害保健福祉関係主管課長会議 関連資料に提出された資料。
平成21(2009)年10月~平成22年(2010)年10月について
4,847人が地域に移行したとされているが、死亡者を除いた退所者は8,081人(9,841人-1,760人)で新規入所者8,425人よりわずかだが少ない実態だ。つまり、退所してもその分、同数以上入所したのだ。さらに、新規入所の流入元は、家庭や病院が断トツで、合計5,802人で新規入所者の69%を構成している。
次は、平成25(2013)年厚生労働省 第1回障害者の地域生活の推進に関する検討会に提出された「地域における居住支援の現状等について」(資料7)において
1年後の平成22(2010)年10月~平成23年(2011)年10月について、
4,836人が地域に移行したとされているが、死亡者を除いた退所者は8,191人(10,181人-1,990人)で新規入所者7,803人より388人多かった。これも、退所してもその分、ほぼ同数程度の数が入所したのだ。新規入所の流入元は、家庭や病院が断トツで、合計5,057人で新規入所者の65%近くを構成している。
次は、平成28(2016)年1月25日 厚生労働省障害保健福祉部障害福祉課「障害者の住まいの場の確保に関する施策について」(資料1(5))
2年後の平成25(2013)年4月~平成26年(2014)年3月について、
地域移行者の数は、急激に半減し、2,402人が地域に移行したとされているが、死亡者を除いた退所者は5,025人(7,102人-2,077人)で新規入所者5,946人が1,000人近く上回った。入所超過が顕著に表れたわけだ。新規入所の流入元は、家庭や病院が断トツで、合計3,811人で新規入所者の64%を構成している。日本経済新聞の記事と合わせて推察すると、この減少傾向は継続しているのだろう。「だろう」と書いたのは、このような様式に整理された調査資料は、以降見つからないからだ。(あれば、教えてほしい。)
その後については、厚労省は、令和3年6月28日第113回社会保障審議会障害者部会に「障害者の居住支援について」という資料を提出し、その中で「障害者の地域生活を支えるグループホームについては、平成18年度に障害者自立支援法のサービスと位置づけて以降、入所施設や精神科病院等からの地域移行を推進するために整備を推進してきたところであり、利用者数は令和元(2019)年11月入所施設利用者数を上回り、令和3年(2021)年2月には、約14万人に増加」との認識の上で、検討事項(論点)として「グループホームの制度の在り方(障害者が希望する地域生活の実現、重度障害者の受入体制の整備等の観点を踏まえた検討)」を打ち出し、「一人暮らし」支援についても打ち出し始めた。
こうした厚労省や日本経済新聞の “地域移行は、軽度者の時は目標を実現し、重度者のステージに入ってきて、より制度整備が必要”とでもいう認識はそもそも成立するのだろうか?資料を紹介してきたが、①そもそも入所施設からの地域移行者数と新規入所者の差は、同程度かもしくは新規入所者の方が多いという傾向にある。②施設入所支援受給者(入所者)の減少の要因は、むしろ死亡による自然減が大きい。この事実があるにもかかわらず、地域移行が進んでいるとするならば、あまりにも我田引水過ぎるというものだ。
それよりも、グループホームの総数が増えているにもかかわらず、「家庭」からの入所施設への流入が、一貫して2,500人前後あるのは何故か?おそらく推察するに、これは「親の高齢化」により家庭介護が困難になった為に施設入所を(親や家族、もしくは関係機関が)選択する構造が根強くあるからと思われる。(このことには、もれなく子供の高齢化がついてくる)何故施設入所が選択されるのか。おそらく、24時間365日体調への気遣い、こまごました見守りのこと等、親・家族が長年行ってきたことの代替が、医師や看護師が配置され、昼夜交代制であっても一貫して見守る支援体制が義務となっている入所施設にあるからだ。知的障害者は本人中心で自立しなければならないとして親の存在を否定的に扱う識者がいるが、二つに意味で不思議に思う。一つは、知的障害福祉の運動や権利向上は親たちの存在無くして進んでこなかったのではないかということだ。知的障害者福祉法や重度心身障害者医療助成制度等親の運動が常に推進力だったことを投稿で折に触れて書いてきた。その総括抜きに親を「支配・抑圧する」者として描き出すのは正しく歴史を評価していないと思う。もう一つは、あなたに生活がおぼつかなくなった老親がいた場合、同居面倒を見ることができないが、あなたが何等かの福祉サービスを手配しなければならなくなった場合、医療や見守り体制のある入所型の介護施設をまず探すことをしないだろうか?もしくは、医療や見守りをどうするかを一番気に掛けないだろうか?もしくは、あなた自身生活がおぼつかなくなった時、またそれに備える時に、入居する施設を探すことをしないだろうか?いずれにせよ、知的障害者にとって、高齢化し生活が一人でおぼつかなくなった時用の「住みか」が成人期向けの障害者支援施設一択しかない現実が、知的障害者が自分のライフスタイルに合わせて様々な住みかで生活することを妨げている問題の本質であるにも関わらず、一面的な「地域移行」の数値目標の議論をすれば事足りるとしているのが不誠実というものだ。
この問題に正面から取り組まず、ただ入所定員の削減による加算を餌に「地域移行」数を上げようとすると、これまで在宅で家族や居宅サービスの援助を受けて生活してきた知的障害者やグループホーム入居者が「高齢化し生活が一人でおぼつかなくなった時」に入所施設のキャパシティは既にないため、行く場がない、介護・支援難民となることが想像できないだろうか?それを見越した「一人暮らし」推奨ならばこれもブラックジョークとしか言いようがない。
老人福祉法では、「ひとりでおぼつかなくなってきた老人」に対して、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホームを制度化し、受け皿を作ってきた。そろそろ、その潜みを狙って、制度として、特別養護障害者ホーム、養護障害者ホーム、軽費障害者ホーム、有料障害者ホーム(名称は何でもいいのだが)といった老人期の入居施設の立ち上げと多様化(もしくは転換)やこうした老人期対応施設への入所の促進を図るべきではないかと思う。