今回は前回の投稿で触れられなかつた留意点について簡単に触れたいと思う。

前回、バイステックの”Acceptance”の章で”obstacles to acceptance”として、” acceptance”の障壁となるものを8つ挙げた。

1.Insufficient knowlege of patterns of human behavior
2.Nonacceptance of something in self
3.Imputing to the client one’sown feelings
4.Biases and prejudices
5.Unwarranted reassurances
6.Confusion between acceptance and approval
7.Loss of respect for the client
8.Overidentification

(Lookeron訳)
1.人間の行動パターンについて不十分な知識
2.自分の中にある何かを受け入れられないこと
3.自分の感情をクライアントに押し付ける
4.偏見と偏見
5.保障のない安心感
6.受容と承認の混同
7.クライアントに対する敬意の喪失
8.過剰に自分と重ね合わせること

先ず、スーパーバイザーが、心掛けなければならないのは5の”Unwarranted reassurances”についてである。

  1. Unwarranted reassurances
    The caseworker’s reassurance of a client, in some instances, can be a form of psychological support; it is also a method of helping the client postpone temporarily the facing of a difficult reality, when it is clear that he is not strong enough to face it at the time. Reassurances, however, can be unwarranted; they are then equivalently a refusal on the part of the caseworker to deal with reality. In a case of marital counseling, for example, the wife raised the discussion that her husband’s excessive drinking might be due to some fault in herself. Instead of pursuing this line of thought and exploring the wife’s feelings in the matter, the caseworker said that the wife need not blame herself; that the drinking was partly rooted in her husband’s personality and partly an escape from worry caused by his business responsibilities. Clearly, this reassurance prevented the client from bringing into the open her own feelings. The caseworker, in effect, refused to accept something which in all probability was pertinent to the case.

  1. 保障のない安心感
    ケースワーカーがクライアントを安心させることは、場合によっては心理的サポートの一形態となり得る。 クライエントがその時点で困難な現実に直面する十分な強さがないことが明らかな場合に、これは困難な現実に直面するのを一時的に延期するのを助ける方法でもある。 ただし、安心は保証されない場合がある。 その時点では、ケースワーカー側では現実への対処への拒否と同じである。 例えば、ある夫婦カウンセリングの場合、妻は、夫の過度の飲酒は自分自身に何ら落ち度があるからではないかと議論を提起した。 ケースワーカーは、この考え方を追求し、この件に関する妻の気持ちを探る代わりに、飲酒はある面夫の性格に根ざしたものであり、ある面仕事上の責任から生じる心配からの逃避でもあったから、妻に自分自身を責める必要はない、と言った。 明らかに、この安心感はクライアントが自分の感情を明らかにするのを妨げた。 ケースワーカーは十中八九このケースに関連した何かを受け入れることを拒否することとなった。

不安を抱えるクライアントに対して、支援者がクライアントの気持ちを安心させるために「大丈夫。」と支援者が繰り返すことは往々にしてよくあることだ。しかし、安心させることで、直視しなければならない現実を受け入れることを延期してしまうことは支援を拒否することになる。問題の先延ばしと同じだ。スーパービジョン関係も同様だ。支援に行き詰って不安を抱えた支援者に根拠のない「大丈夫だ。」を繰り返しても、支援者の不安やネガティブな感情は解消されない。リアルな現実を受け入れることでしか解決はないからだ。

支援者の心を癒し、平静に導くのは、いわゆるカウンセリングだ。スーパーバイザーは時として心の安定を失って課題を直視できない支援者のカウンセリングをしなければない。その意味で、カウンセリングは今・過去を向いている。しかし、その後、課題解決に向けて未来を向いて、現実に当たらなければならない。スーパービジョン関係は未来を向いている。スーパーバイザーはそのことを心に留めていく必要がある。スーパービジョン関係を実りあるものにするには、技法が必要だ。植田寿之先生によれば、その技法としてはコーチングが推奨されている。コーチングでも必要なことは、信頼関係を築く、相手の存在を認める、問いかけ発見を促す等々、confidentiality・individualization・purposeful expression of feelings・client self-determinationと言ったバイステックで見られた原則だ。支援者は、問題として生じている現実を認識できたり、感じているのは、把握する又は感じる能力を持っているからだ。その能力を持っていなければ、問題・現実を把握することも感じることもできない、つまり支援者にとって問題・課題はないことになってしまう。そして、把握する・感じる力があるということは、解決する方向性に到達するのにもう一歩だ。「答えはその人の中にある」というコーチングの大原則の根拠はここにある。そして、コーチングは、「その人が自分で学ぶことを助ける」「その人が自ら選択し行動をすることを助ける」ためにある。スーパーバイザーが、この気持ちを持って支援者に接すれば解決の答えは必ずともに考え出せる。必要なのはこのような支援者に対する姿勢であって、根拠なく「大丈夫」と繰り返すことではないのだ。

次に翻訳が難しかったのは”Overidentification”である。googleで翻訳すると、「過剰識別」となるが、今一つピンとこない。バイステックの次の文章を訳してみて、最終的に「過剰に自分と重ね合わせること」「自身と同じと過剰に思い込むこと」と意訳した。

8.Overidentification
The root of overidentification is, again, a lack of self-awareness on the part of the caseworker. Recognizing something in the client which is very akin to something in his own life, the caseworker emotionally responds in a way which meets his own needs rather than the client’s. It may be such an intense concern about some area of the client’s situation that the caseworker assumes the principal responsibility for it. It may be the recognition of injustice done to the client by some person or some circumstance, but it is felt by the caseworker in such an extreme way that he unconsciously feels that he himself was the victim of the injustice.
It may be taking sides with the child against the parent, the wife against the husband, the client against the agency. It may be caseworker’s striving to gratify his own need for affection through the client. Thus the caseworker ceases to be a professional helping person to the degree of his overidentification, because he has confused his own problems and needs with those of the client.
Overidentification with the client, from whatever motive, creates a blind spot in the caseworker, impeding the perception of things as they really are and therefore endangering the effectiveness of the total helping process.

8.自身とが同じであると過剰に思い込むこと
(クライアントと)自身とが同じであると過剰に思い込むことの根本には、やはりケースワーカー側の自己認識が欠けていることがある。 ケースワーカーは、クライエントの中に自分自身の人生の何かとよく類似した何かがあることと認識し、クライエントのニーズより自分自身のニーズを満たす方法で情緒的に反応してしまう。それは、クライアントの状況の何らかの領域について、ケースワーカーの方が主に責任を負ってしまうほど非常に強い心配事かもしれない。 それは、誰かまたは何らかの環境がクライアントに対して行う不正義であると認識していても、ケースワーカーが、とても極端に、無意識のうちに自分自身が不正義の犠牲になっていたと感じている。
それは、親に対決する子供の側に、夫に対決する妻の側に、サービス機関に対決するクライアントの側につくことかもあり得る。 ケースワーカーは、クライアントを通じて自分自身の愛情欲求を満たそうと努めているのかもしれない。 このようにして、自分自身の問題やニーズとクライアントの問題やニーズを混同することで、行き過ぎた同一視の度合いに応じて、ケースワーカーは専門的な支援者でなくなってしまう。
動機が何であれ、クライアントを過剰に同一視すると、ケースワーカーに盲点が生じ、物事をありのままに認識することが妨げられ、その結果、支援プロセス全体の有効性が危険にさらされることになる。

この部分は、知的障害児者の支援現場では、クライアントと支援者にも起こりうるが、むしろ支援者とスーパーバイザーとの関係において起こりやすいように思われる。一番わかりやすいのは、2015年から進められ進行している「職場運営法」改革である。長時間労働の規制、有給休暇取得義務化、パワハラ、セクハラ規制、等は、「利用者のために私生活を犠牲にする」「仕事にすべてを打ち込む」と言った態度やそれを美徳と敬う職場の価値観をネガティブなものに変えた。「利用者のためなら、生活を犠牲にしたり、時間無制限に職場に残らなければならない」という価値観で職場を統制する(スーパーバイザーが支援者を統制する)ことは法的にもはや不可能であるし、そのような価値観を部下が持っている(もしくは持つべき)と思って接するのもスーパーバイザーがすでにOveridentificationに陥っていることを示している。それは、スーパーバイザーが専門職でなくなってしまうことを意味している。スーパーバイザーの立場に立つ者は、過去を懐かしんで詠嘆するのではなく、新しい方法、技法を使ってソーシャルワークの価値観を支援者に伝えていく義務があるのだ。
この微妙な問題の取り扱いを間違うととんでもないことが起こるのであるが、それはまた別の投稿で。

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