今回から児童虐待について書いていこうと思ったのだが、「高齢化」について、あまり展開しなかったので、入所施設との関連でポイントを絞って述べていこうと思う。
実際は、かなり入り組んだ問題でその構図を分析していくと何回か投稿が必要となるので、詳しくはその時に譲り、今回は本当に必要なことを述べておきたい。


一般には、入所施設において高齢層の比重がどんどん増え、介護負担が増え、支援の在り方や施設環境・設備、健康管理の在り方等を高齢知的障害者に対応して見直さなければならないとされるのが、いわれる「高齢化」という「入所施設の危機」である。
国立重度知的障害者総合施設のぞみ園が知的障害者の高齢化について様々なデータを蓄積し、提言を行っている。しかし、この問題は、最近に始まった課題ではない。最近、のぞみ園や関係者の講演で取り上げられてきているが、平成12年(2000年)4月から介護保険制度が施行され、社会福祉基礎構造改革が本格化するに合わせて、厚生省は「知的障害者の高齢化対応検討委員会」を同年1月から立ち上げ6月までに7回にわたって委員会を開催し、6月に報告書をまとめたという事実がある。すでに20年以上前から高齢化については検討が開始されていた。危機への対応を考えるならば、この検討委員会での審議及び報告書の提言を出発点に総括と評価が行われ、課題を抽出し、新たな改善につなげるのが、政策立案の正しい態度と思われるし、歴史的な検証を行う立ち位置と思う。

結論を先にまとめると、
①例えば、のぞみ園においても、この検討委員会の評価については、委員会があったこと、報告書がHPにアップされていることの紹介程度にとどまり、歴史的評価・政策改善についての試みは明らかではない。
*ちなみに、報告書については検索すれば、厚生労働省HPに掲載されているが、平成29年(2017年)ぐらいまで掲載されていた第1回~7回委員会の議事録はリンクが解除され見ることができない。たまたま、掲載されている頃、資料としてダウンロードしWordにコピペして、体裁を整え保管しておいたものをPDF化して、ダウンロードできるようにしておいたので、興味がある方・活用されたい方はどうぞ自由に活用していただきたい。

報告書(平成12年6月)

第1回(平成12年1月24日)

第2回(平成12年2月22日)

第3回(平成12年3月29日)

第4回(平成12年4月26日)

第5回(平成12年5月23日)

第6回(平成12年6月8日)

第7回(平成12年6月21日)


②「入所施設の高齢化危機」とは、結局「60歳、あるいは65歳を超えて障害者をすべて障害者施設で対応するのか、あるいは高齢者施策一般の中で対応するのか」(第1回議事録 今田障害保健福祉課長 冒頭あいさつ)の問題であるにもかかわらず、特に「高齢者施策一般の中で対応する」方向性についてほぼ検討されていないか介護保険制度自身への無理解や忌避感が問題を深刻化、停滞を引き起こしていると思われる。
③具体的には、障害者支援施設が、介護保険の「適用除外施設」であるという規定は、本来臨時的であったことが忘れ去られている。そのおかげで、障害者支援施設の利用者は、被保険者資格を取得できていないため、恩恵的に(保険料を払っていないから被保険者資格がないにもかかわらずという意味で)90日ルールの範囲で介護保険施設への移行を図っているが、これは本来、国民ならば誰でも加入し利用できる権利を持つ社会保険としての介護保険制度の主旨から言って、施設入所者だけが排除されているという重大な権利侵害が無自覚なまま行われていると私は考えている。

「適用除外施設」の根拠となる法律は、介護保険法本体にはない。介護保険施行法及び介護保険施行規則という介護保険制度を実施する際の具体的な取り扱いを決めた実務的な法及び省令の中に根拠づけられる。

国民皆年金皆保険の原則の中で、社会保険としての介護保険は、40歳以上の者ならば誰でも被保険者資格を持つことができる公的な強制加入保険である。つまり、保険料を支払わなければ、被保険者の資格は停止されてしまうが、保険料を支払う限り40歳以上の者には平等に介護保険給付が支給される権利が与えられている。

介護保険法(平成九年法律第百二十三号)
(被保険者)
第九条 次の各号のいずれかに該当する者は、市町村又は特別区(以下単に「市町村」という。)が行う介護保険の被保険者とする。
一 市町村の区域内に住所を有する六十五歳以上の者(以下「第一号被保険者」という。)
二 市町村の区域内に住所を有する四十歳以上六十五歳未満の医療保険加入者(以下「第二号被保険者」という。)

しかし、リハビリについて医療保険から支給するのか介護保険から支給するのかといった場合、その目的でどちらかの給付で支給するかを決めなけらばならない。同じ日に受けたサービスを医療保険からも介護保険からも支給することは給付の二重取りになるので、どちらかで調整しなければならない。これを給付調整というが、適用除外施設とはその考え方の延長線上にある。

①平成9年法律制定時

介護保険法施行法(平成九年法律第百二十四号)
(適用除外に関する経過措置)
第十一条 介護保険法第九条の規定にかかわらず、当分の間、四十歳以上六十五歳未満の同法第七条第八項に規定する医療保険加入者又は六十五歳以上の者であって、身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)第十七条の十一第二項の規定による支給の決定(同法第五条第四項に規定する身体障害者療護施設支援に係るものに限る。)を受けて同法第十七条の二十四第一項の規定により都道府県知事が指定する身体障害者療護施設に入所しているもの若しくは同法第十八条第三項の規定により身体障害者療護施設に入所しているものその他特別の理由がある者で厚生労働省令で定めるものは、介護保険の被保険者としない。

介護保険施行規則(平成十一年厚生省令第三十六号)
(施行法第十一条第一項に規定する厚生労働省令で定める者)
第百七十条 施行法第十一条第一項に定める者は、次に掲げる施設に入所又は入院しているものとすること。
一 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第四十三条の四に規定する重症心身障害児施設
二 児童福祉法第二十七条第二項の厚生大臣が指定する医療機関(当該指定に係る治療等を行う病床に限る。)
三 心身障害者福祉協会法(昭和四十五年法律第四十四号)第十七条第一項に規定する福祉施設
四 国立及び国立以外のハンセン病療養所
五 生活保護法第三十八条第一項第一号に規定する救護施設

介護保険制度開始時は、医療的管理や濃密な介護、及びリハビリを受ける身体障害者療護施設のサービスは、介護保険が支給保障するサービスと同等程度の支給を受けていると見なされた為、適用除外施設の認定を受け、入所サービスを受けている入所者は支給を受けているという意味で取り扱いを調整しないといけなくなり、被保険者の資格から除外された。当時は社会福祉基礎構造改革、障害者福祉の介護保険統合等障害福祉自体の大きな方向性で揺れていた時期でもあり、こうした臨時措置は致し方なかったと思われるが…

②障害者自立支援法施行時(平成18年10月1日施行)

介護保険法施行法(平成九年法律第百二十四号)
(適用除外に関する経過措置)
第十一条 介護保険法第九条の規定にかかわらず、当分の間、四十歳以上六十五歳未満の同法第七条第八項に規定する医療保険加入者又は六十五歳以上の者であって、障害者自立支援法(平成十七年法律第百二十三号)第十九条第一項の規定による支給決定(同法第五条第六項に規定する生活介護(以下この項において「生活介護」という。)及び同条第十一項に規定する施設入所支援に係るものに限る。)を受けて同法第二十九条第一項に規定する指定障害者支援施設に入所しているもの又は身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)第十八条第二項の規定により障害者自立支援法第五条第十二項に規定する障害者支援施設(生活介護を行うものに限る。)に入所しているもののうち厚生労働省令で定めるものその他特別の理由がある者で厚生労働省令で定めるものは、介護保険の被保険者としない。

介護保険施行規則(平成十一年厚生省令第三十六号)
(施行法第十一条第一項に規定する厚生労働省令で定める者等)
第百七十条 施行法第十一条第一項の指定障害者支援施設に入所している者又は障害者支援施設に入所している者のうち厚生労働省令で定めるものは、障害者自立支援法第十九条第一項の規定による支給決定(同法第五条第六項に規定する生活介護(以下この条において「生活介護」という。)及び同法第五条第十一項に規定する施設入所支援(以下この条において「施設入所支援」という。)に係るものに限る。以下「支給決定」という。)を受けて同法第二十九条第一項に規定する指定障害者支援施設(次項及び次条において「指定障害者支援施設」という。)に入所している身体障害者又は身体障害者福祉法第十八条第二項の規定により障害者自立支援法第五条第十二項に規定する障害者支援施設(生活介護を行うものに限る。次項及び次条において「障害者支援施設」という。)に入所している身体障害者とする。
2 施行法第十一条第一項の特別の理由がある者で厚生労働省令で定めるものは、次に掲げる施設に入所し、又は入院している者とする。
一 児童福祉法第四十二条第二号に規定する医療型障害児入所施設
二 児童福祉法第六条の二の二第三項の厚生労働大臣が指定する医療機関(当該指定に係る治療等を行う病床に限る。)
三 独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園法(平成十四年法律第百六十七号)第十一条第一号の規定により独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園が設置する施設
四 ハンセン病問題の解決の促進に関する法律(平成二十年法律第八十二号)第二条第二項に規定する国立ハンセン病療養所等(同法第七条又は第九条に規定する療養を行う部分に限る。)
五 生活保護法第三十八条第一項第一号に規定する救護施設
六 労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第二十九条第一項第二号に規定する被災労働者の受ける介護の援護を図るために必要な事業に係る施設(同法に基づく年金たる保険給付を受給しており、かつ、居宅において介護を受けることが困難な者を入所させ、当該者に対し必要な介護を提供するものに限る。)
七 障害者支援施設(知的障害者福祉法(昭和三十五年法律第三十七号)第十六条第一項第二号の規定により入所している知的障害者に係るものに限る。)
八 指定障害者支援施設(支給決定を受けて入所している知的障害者及び精神障害者に係るものに限る。)
九 障害者自立支援法第二十九条第一項の指定障害福祉サービス事業者であって、障害者自立支援法施行規則第二条の三に規定する施設(同法第五条第六項に規定する療養介護を行うものに限る。)

しかし、平成17年4月自民党障害者問題特別委員会のまとめが発表され。障害者福祉は介護保険との統合をしないと大きな方向性が定まった後、自立支援法が施行される際、引き続き身体障害者については、障害者支援施設又は身体障碍者療護施設に入所している場合は、適用除外規定で、被保険者資格を得られなかったが、七・八項目の挿入で障害者支援施設に入所している知的障害者も被保険者資格を失うことになった。文章が分かりづらいが、要は(指定)障害者支援施設に入所している知的障害者は、第1号・第2号被保険者にならないと規定されているのが主意である。すべての入所施設が平成18年4月に一気に障害者支援施設に移行したわけではないので、完全移行の平成24年度に向けた6年間をかけて、入所していた約10万人にものぼる知的障害者は保険料免除と引き換えに被保険者資格を失った、つまり介護保険制度から排除されたことを意味している。その後、障害者総合支援法においてもこの規定は引き継がれている。

③障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)施行時(平成25年4月1日施行)

介護保険法施行法(平成九年法律第百二十四号)
(適用除外に関する経過措置)
第十一条 介護保険法第九条の規定にかかわらず、当分の間、四十歳以上六十五歳未満の同法第七条第八項に規定する医療保険加入者又は六十五歳以上の者であって、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)第十九条第一項の規定による支給決定(同法第五条第七項に規定する生活介護(以下この項において「生活介護」という。)及び同条第十項に規定する施設入所支援に係るものに限る。第三項において「支給決定」という。)を受けて同法第二十九条第一項に規定する指定障害者支援施設(第三項において「指定障害者支援施設」という。)に入所しているもの又は身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)第十八条第二項の規定により障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第五条第十一項に規定する障害者支援施設(生活介護を行うものに限る。第三項において「障害者支援施設」という。)に入所しているもののうち厚生労働省令で定めるものその他特別の理由がある者で厚生労働省令で定めるものは、介護保険の被保険者としない。

介護保険施行規則(平成十一年厚生省令第三十六号)
(施行法第十一条第一項に規定する厚生労働省令で定める者等)
第百七十条 施行法第十一条第一項の指定障害者支援施設に入所している者又は障害者支援施設に入所している者のうち厚生労働省令で定めるものは、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第十九条第一項の規定による支給決定(生活介護及び同法第五条第十項に規定する施設入所支援に係るものに限る。以下「支給決定」という。)を受けて同法第二十九条第一項に規定する指定障害者支援施設(次項及び次条において「指定障害者支援施設」という。)に入所している身体障害者又は身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)第十八条第二項の規定により障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第五条第十一項に規定する障害者支援施設(生活介護を行うものに限る。次項及び次条において「障害者支援施設」という。)に入所している身体障害者とする。
2 施行法第十一条第一項の特別の理由がある者で厚生労働省令で定めるものは、次に掲げる施設に入所し、又は入院している者とする。
一 児童福祉法第四十二条第二号に規定する医療型障害児入所施設
二 児童福祉法第六条の二の二第三項の厚生労働大臣が指定する医療機関(当該指定に係る治療等を行う病床に限る。)
三 独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園法(平成十四年法律第百六十七号)第十一条第一号の規定により独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園が設置する施設
四 ハンセン病問題の解決の促進に関する法律(平成二十年法律第八十二号)第二条第二項に規定する国立ハンセン病療養所等(同法第七条又は第九条に規定する療養を行う部分に限る。)
五 生活保護法第三十八条第一項第一号に規定する救護施設
六 労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第二十九条第一項第二号に規定する被災労働者の受ける介護の援護を図るために必要な事業に係る施設(同法に基づく年金たる保険給付を受給しており、かつ、居宅において介護を受けることが困難な者を入所させ、当該者に対し必要な介護を提供するものに限る。)
七 障害者支援施設(知的障害者福祉法(昭和三十五年法律第三十七号)第十六条第一項第二号の規定により入所している知的障害者に係るものに限る。)
八 指定障害者支援施設(支給決定を受けて入所している知的障害者及び精神障害者に係るものに限る。)
九 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第二十九条第一項の指定障害福祉サービス事業者であって、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則第二条の三に規定する施設(同法第五条第六項に規定する療養介護を行うものに限る。)

被保険者資格を失うということは、障害者支援施設に入所しながらでは、介護保険を利用して介護サービスを利用しようとしても、先ず要介護認定調査を受けられない。従って、介護保険での支給限度額が定まらないから、サービス提供量が定まらない。特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)への利用申し込みをしようとしても要介護度が定まっていない為、受け入れ先の介護施設からすれば、入所資格があるかどうかも不明(知的障害者は要介護1以上から、障害がなければ要介護3からしか入所はできない)、体験利用についても障害者のグループホームであれば最近体験利用制度が整備されてきているが、介護保険での短期入所サービスを利用しようにも、介護認定審査会に正規にかけられていないから、全額自費で利用するしかない。厚生労働省は、90日ルールを活用して移行を図るよう指導しているが、通常でも要介護認定を申請し、要介護度及び支給サービスの種類と量が定まるのに、1ヵ月程度かかり、受け入れ先施設の選定・見学から体験利用等に2ヶ月でこなすことができるだろうか?(一般の特養待機者でも何年待ちというのに)もし移行させるとすれば、あらかじめ選定し受け入れ先と下打ち合わせが出来ていないと不可能なタイムテーブルだ。ここに利用者の意思決定支援は入り込む余地があるのだろうか?自治体によっては、さすがにこの無茶なタイムテーブルに対して、「みなし認定」制度でみなしの要介護度まで出してくれるが、それは自治体の自助努力にすぎない。入所施設の知的障害者が高齢期を自己決定・自己選択する権利は著しく制限されている、いや侵害されていると言えないだろうか?(障害者支援施設を退所すれば、被保険者資格は直ちに得られ、正規の流れとなるが、退所してまですぐに決まらない入所先を待ち続けることができるだろうか?)

さらに問題なのは、これは「当分の間」という臨時措置であることが示されてることである。国民の重要な権利である社会保険加入権を著しく制限したまま通算10年、自立支援法から数えれば、16年間たなざらしになっている実態について、高齢化を論ずる識者から指摘されないのは何故だろうか?まして、こんな重要なことが、国会審議も経ず、施行規則=省令で定められていることに民主主義的な手続きの問題を感じざるえない。

この権利制限・侵害が問題にならないのは、現在の高齢化への対応が結局、高齢知的障害者を知的障害福祉(もしくは障害福祉サービス)の枠内で完結させようとする試みを選択しているからとしか考えられない。政府が入所施設について抑制政策をとっている中、入所施設は高齢知的障害者を中心とする一種の老人ホームのようにますますシフトしていくだろう。援助手法の開発は大いに行うべきだが、援助手法論偏重から、介護保険側とも援助手法の共有を広く図って、受け入れの間口を広くし、知的障害者の老年期における意思決定が尊重される制度論、理念論を検討する時期ではないかと思う。
この部分は、社会保障制度、介護保険の根幹にかかわる論点なので、詳しくは別稿で行いたいと思う。ただ引き返すならば今だと思う。

期せずして、敬老の日の投稿となった。次回こそは、児童虐待について触れたいと思う。

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