7月は久々に日本知的障害者福祉協会の全国施設長等会議に参加したり、在籍する都道府県の強度行動障害支援実践報告会をライブ配信で閲覧したりと最新の動向に触れる機会があり、そこで得た知識を吟味したり、それで新たな研究書を購入したりしていた。最近の制度や知見についてやっとまとまってきたので、まとまってきたことも含めて新たに情報共有していきたいと思う。

前の投稿で、強度行動障害支援において、構造化と機能的アセスメント(応用行動分析)を中心とする「標準的支援」を国は採用したことにふれ、自閉スペクトラム症支援に偏っている点の「危うさ」について述べてきた。

令和4年10月から開催された厚生労働省「強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会」の第1回目に提出された資料(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000995582.pdf)には、次のように強度行動障害になりやすい対照群を図式化している。

この図表は、自閉症と知的障害の2軸によって、強度行動障害群を説明する枠組みを暗黙裡にしめしている。標準的支援は、この枠組みから発展して、例えば、強度行動障害の大半は自閉スペクトラム症である、自閉スペクトラム症を理解しその支援方法(構造化、機能的アセスメント)を実践することが有効、という論理で補強されている。実際、国立のぞみの園研究部FBの2013年7月11日~19日にかけて投稿された研究史を見ると、

「強度行動障害の範囲は時代とともに変化してきました。初期の石井班の研究では、対象は強度行動障害の大半を占める自閉症児者に絞られていました。次の飯田班の報告書からは、自閉症児者を基本としながら、多動性・衝動性の強いタイプ、強迫症状の強いトゥレット障害といった、タイプ別の支援方法の確立を目指していたことが読み取れます。一方、井上班では、反社会的行動を示す高機能の広汎性発達障害や精神科入院者などの検討も行われており、「強度行動障害」をより広く捉えようとしています。」(2013年7月19日投稿より)自閉スペクトラム症を軸にした研究史整理が行われている。

*図表では、石井班研究として、強度行動障害群の8割が自閉スペクトラム症との報告が記載されている。これは、「自閉症児・者の不適応行動の評価と療育指導に関する研究」(平成12(2000)年度 厚生科学研究 研究代表者 江草安彦(川崎医療福祉大学) 研究分担者 山崎晃資(東海大学医学部精神科)石井哲夫(白梅学園短期大学) 太田昌孝(東京学芸大学教育学部特殊教育研究施設))に所収されている石井論文「自閉症児者の強度行動障害の発症機序の究明とその治療法の開発」の一節「一般に、強度行動障害を示す者は、その約80%が自閉症といわれている。」という一節を切り出したものと思われる。しかし、この文章は伝聞情報であり、典拠となる資料や先行研究は示されていなかった。ご存じの方はご教授願いたい。

後続の飯田班研究では、重度・最重度の知的障害×自閉スペクトラム症という図式となるが、その後の研究史では、もはや重度・最重度の知的障害という要素は後景に追いやられているまとめられ方をしていると言えよう。

厚生労働省「強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会」の第1回目に提出された資料(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000995582.pdf)の別スライドを見ると、強度行動障害施策の根拠法は、障害者総合支援法(施設入所支援・在宅地域サービス)と発達障害者支援法(発達障害者支援センター)によって担われている枠組みとなっているのであることが分かるだろう。知的障害者福祉児者の中の一群であるにもかかわらず、知的障害者福祉法は介在しないのだ。

強度行動障害の80%-つまり大半が自閉スペクトラム症であるならば、このようなスキームで対応するのも致し方がないかもしれない。先行論文がない為、その説の客観的検証は現在に近い時点でのデータで検証するのが妥当だ。国レベルでの調査はないが、都道府県レベルの実態調査についてはネットで公開されている。

強度行動障害に関する実態調査(2019年度 岡山県)https://asdshien.jp/assets/files/shiencenter/kyoudokoudousyougai%20houkokusyo(2019).pdf

強度行動障害連絡会議調査部会(障害者支援施設いずみ寮 おかやま発達障害者視線センター)

福祉・教育・医療にまたがる実態調査(サンプル数388名)

愛知県強度行動障害児者実態調査(2025年度 愛知県)

https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/614642.pdf

  名古屋市を除く愛知県全域での在宅の強度行動障害児者・家族対象(サンプル数2537人)

先ず、岡山県調査について見てみよう。

岡山県実態調査3ページ(4)強度行動障害のある人の状態像(強度行動障害得点10点以上)の章には以下のようなデータがある。

この調査は診断分類として、併存症の組み合わせを全て集計しているので、分かりやすい。この図の各要素のみを抜き出して評価すると、以下のような票が出来上がる。

下部の集計懶は、「知的障害」とした欄は、知的障害のみもしくは知的障害と発達障害・精神疾患等が併存した者の合計数である。「知的障害以外」としたのは、知的障害を呈していない者、つまり知的レベルについては問題なく、発達障害や精神疾患等のみを抱えている者の集計である。「知的障害+ASD」は、障害要素に知的障害・ASDが含まれる群の合計として集計している。この集計で一目瞭然であるが、強度行動障害を示すグループは、ほぼ知的障害であること。知的障害を持たない発達障害グループではほとんど強度行動障害は認められないことが分かる。まして、標準的支援が適用対象とする知的障害+ASD群は、最も多い組み合わせとは言え、強度行動障害群の半分程度しかないという事実が浮かび上がってくる。付け加えておくならば、この実態調査は、福祉・教育・病院といった専門機関の報告に基づくものであるので、診断名についてはそれなりに信ぴょう性のあるものとみなせるであろう。

 さて、次は愛知県調査である。クロス集計表として、以下の表が公開されている。

この表を岡山県調査と比較するには、少々留意しないといけないことがある。このクロス集計表は、例えば「知的障害」行を見ると、「知的障害」1402人、自閉症672人、ADHD116人、LD52人、てんかん424人、精神障害原因疾患90人となっており、その下に%表示されている。672人÷1402人=47.9%から分かる通り、下の%表示は、知的障害群の中に、ASD併合群が672人、ADHD併合群116人、LD併合群52人、てんかん併合群424人、精神障害原因疾患併合群98人であることを示しており、これらの要素を合計しても、1362人と全体サンプル数1402人より少ないので、引き算をすると、1402人-(672人+116人+52人+424人+98人)=40人 これが、知的障害のみで強度行動障害を呈している群の人数とみなすことができる。(実際の原データでは、3つ以上の障害がついている可能性もあるが、ここでは、クロス集計という性質上、2つまでの障害が併存していると見なして計算することとする。)ADHD・LD・てんかん・精神障害原因疾患については、合計すると明らかに総数を超えてしまうので、これらの群は明らかに三つ以上の障害を持っている群がいると見なされる。

従って、この図表と岡山県調査を比較する為には、知的障害・ASD群だけが比較できることになる。この点を考慮して、岡山県実態調査と同じフォーマットに試算値を書き込むと以下の表になる。

岡山県実態調査と比較すると、「知的障害」群の比率がかなり下がっているが、P13障害支援区分を見てみると同一サンプル集団のほぼ8割以上が重度知的障害の判定を得ていることが判明する。

*この大きな差異は、調査方法によるものと思われる。愛知県実態調査では、強度行動障害の状態にある在宅の児者4,400名に市町村を通じて、対象者・家族に配布・集計したとあるので、数字の精査や診断名について曖昧である可能性が高いと推定することも可能であろう。実際クロス集計で修正作成したサンプル総数が、療育手帳A 判定の人数とほぼ同じという点からも考えても、ASDやADHDという診断名について、医療や専門機関を通さず、家族が主観的に判断している可能性を捨てきれない。

この二つの実態調査を比較するために作成した表が以下の通り。

二つの表を比較して、改めてわかるのは

第1に、当たり前のことだが、むしろ強度行動障害群の8割から9割が療育手帳A 即ち重度知的障害者であり、ASDであるのは、高い併存率とはいえ、3割から5割程度あり、とても「8割」とか「大半」とは言えない実態である。

第2に、強度行動障害群の背景にある疾患は、ASD以外にてんかん、精神疾患原因疾患等多様であるということである。

第3に、最も強度行動障害になりやすい組合せである重度知的障害+ASDのすべてが強度行動障害になっていないことを考慮すると、環境因子や個人因子(ICF的な意味における)や他の疾患等が複雑に絡まりあった病理現象・症状と考えることが妥当ではないかと思われる。

厳しく言えば、標準的支援という行動療法的なツールとアセスメントで、強度行動障害支援を行うのは、せきや熱で調子の優れない体調を崩した人に対して、風邪だから市販の風邪薬を飲んで、毎日検温しておけば治るし、治る目安も分かると薦めるようなものである。診療所や病院で、医師の指示に基づき正式な医療検査(検査キットやレントゲン等)を受け、診断をしてもらい、治療方針の下、治療や処方を受けることが求められることだ。素人判断で風邪と思っても、検査をしたら新型コロナウィルス感染症や肺結核、肺炎であることが判明して、市販薬を飲んで寝ておけば治るといったたぐいのことでないことなぞ多々あるではないか?これまでも、強度行動障害の裏に、てんかんや薬剤起因性行動障害や病気の可能性について論じてきたが、病理的な問題であるならば、強度行動障害支援は、一種の医療支援であるべきで、これまでも論じてきた英国NHSと同様に、保険診療として専門チームや外来・訪問診療が構成されるべきなのだ。マクロ的に言えば、強度行動障害支援の社会的コストは障害福祉サービス財源が負うのではなく、社会保険財源によって全国民が社会的にコストを負うべき課題なのである。福祉側は、医療と視点を共有して、家族と同様に療養介護にあたるべきではあるが、支援丸ごとを引き受ける立場からは解放されるべきなのだ。

ここまで書いてしまうと、自分の見解が現在進行、洗練化されている施策の流れとあまりにかけ離れていることを実感する。しかし、どこかで転換しないと、強度行動障害で苦しむ本人家族も、事業者も、国家財政も袋小路に入ってしまうのも想像してしまう。

次回は、この投稿を書く過程で、ASD(自閉スペクトラム症)の最新知見や障害の捉え方について得るものがあったので、お伝えしたいと思う。(もちろん、障害者支援施設を考えるシリーズも続けます。大きく回って、関連づく内容になると思う。)

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