年明け早々、シリーズ「障害者支援施設を考える」第1回を書き起こして、そこから早6ヶ月。思いもよらず、回り道をしてしまった。久しぶりなので、前回の投稿を簡単に要約しておこう。
前回のシリーズ投稿では、政策を立案していくための入所施設をめぐる基本的なコホート調査に基づく統計が存在しないため、ここ10年近くは「高齢化」「重度化」に対する危機感だけが表明されるだけで、実態や原因を踏まえた有効な解決に向けた取り組みがなされていないことを明らかにしてきた。また、厚生労働省が政策策定の為、実態調査を委託している先はここ数年民間のコンサルティング株式会社に重点が移っており、政策立案のための調査結果に対する分析に危うさが付きまとう点も論じた。
こうした限界がある現状ではあるが、散らばったデータをかき集めて、この失われた期間を再現してみて、何が進行していたのか、そしてその原因は何であるかを再構成できないものかを考えてみることとした。
これまでのこのブログの方法論として、研究史や先行論文にあたることが鉄則だ。
障害者支援施設において脱施設化が進まないことを正面切って論じた研究として、6年までの資料ではあるが、「日本において知的障害者の脱施設化が進まないのはなぜか(特集 シンポジウム : 脱施設 : なぜ進まないのか、どうしたら進むのか)シンポジュウム資料」(障害学研究 / 障害学研究編集委員会 編 (16):2020 鈴木良(同志社大学 社会学部社会福祉学科 教授)がある。この資料に、データを再構成する方法論について、次のように示唆されている。
「2.2.施設退所者数と新規入所者数
・2009年から施設からの退所者数は6,000名前後(前年度居住者数の約4%)で推移しており、グループホームへの移行者数は2009年から2017年までで年間平均約1,000名であった。2009年から2012年までの退所者は、施設からグループホームへの移行者や家族同居への移行者でその大半を占めてきたが、2013年以降はその数が減少し、代わりに死亡者数や施設入所・入院数が増加している(出典:『社会福祉施設等調査』のデータより)。
・2013年から2017年までの新規入所者数は、5年間で30,190名、年間で平均約6,000名である。ただし、2016年以降は、新規入所者は4,000名台になっており、その数は縮小傾向にある(社会福祉施設等調査のデータより作成)。今後はグループホームや家族同居への移行という取り組みではなく、死亡者数・入院者数が増えて新規入所者数が減ることで全体の施設居住者数が減るというかたちになっていくのではないか。」
この文章の注釈として、文末に
「施設退所者数は、社会福祉施設等調査における「障害者関係施設等からの退所者数」のデータに依拠しており、これには福祉ホームからの退所者数も含まれると考えられる。福祉ホームの在所者数は1,500人前後で推移しているため、数百人前後の退所者が推定される。このため、新規入所者数は、この数値よりも数百名少なくなるのではないかと推測される。施設退所者数は、2013年は6,667名、2014年は6,415名、2015年は7,311名、2016年は6,795名、2017年は6,652名であり、施設居住者数の単年度増減数は、2013年は2,109名増、2014年は226名減、2015年は1,234名減、2016年は2,058名減、2017年は2,241名減となっている。この結果、新規入所者数は、2013年は8,776名、2014年は6,189名、2015年は6,077名、2016年は4,737名、2017年は4,411名、と推計した。これは、5年間で30,190名、年間で平均約6,000名が新規入所していることを意味する。なお、厚生労働省の「障害者の地域生活の推進に関する検討会(第1回)」における、『地域における居住支援の現状等について』には、平成23年度10月時点での単年度の新規入所者数が7,803名と記載されている(p4)」とあり、データの推計方法と基礎データの出典が明示されている。
鈴木教授は、厚生労働省が毎年行う「社会福祉施設等調査」(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=dataset&toukei=00450041&metadata=1&data=1)から次のデータを対象年度データから抜き出している。
「施設退所者数」は
調査の個別表>施設票の
(障害者関係施設の退所者(過去1年間)数、施設の種類・経営主体の公営-私営、退所後の住居(夜の住まい)・退所理由別)
*主にH18というカテゴリーで分類されている。(年度ごとに、H19、H20 という場合もあり)
において、障害者支援施設の調査年度の退所者数を見ることができる。さらに、退所先について「就職・家庭復帰・他の社会福祉施設等へ転所・入院・死亡」について分類しているので、地域移行者数把握しやすい。
「施設居住者数の単年度増減数」は
調査の個別表>施設票の
(障害者支援施設等の在所者数,年齢階級、施設の種類・経営主体の公営-私営別)
*これも主にH11 というカテゴリーに分類されている。
単年度増減数=前年度在所者数-今年度在所者数
新規施設入所者-施設退所者=施設居住者数の単年度増減数であるから、
新規施設入所者数=施設退所者数+施設居住者数の単年度増減数となる。実際、注釈で示されている数字で検証すると、2013年度は6,667名(退所者)+2,109名(増減数)は8776名となり、注釈の数と一致する。統計データ、推計法は明らかになったので、対象年度範囲で表にしてみると

この表を見る限り、鈴木教授の予想「2016年以降は、新規入所者は4,000名台になっており、その数は縮小傾向にある(社会福祉施設等調査のデータより作成)。今後はグループホームや家族同居への移行という取り組みではなく、死亡者数・入院者数が増えて新規入所者数が減ることで全体の施設居住者数が減るというかたちになっていく」は妥当のように思われる。実際、退所者に占める入院+死亡の割合は、28%→40%と急増しており、新規入所者は年々減って2013年度に比べれば、2017年度は半減の4000人台になっている。地域移行者等もコンスタントに4000人台前後を維持しており、新規入所者が減り、地域移行者数等に近づいている傾向や在所者数が3650人減っているのを見れば、地域移行の方向性が障害者支援施設に定着しつつあり、地域移行機能を果たしつつあるように見える。
しかし、2023年度まで同様の方法論で表を拡張すると、異なった様相が現れる。

退所者に占める入院+死亡の割合は、上昇し近年では45、46%と退所者の半分に迫っている。高齢化した入所者が施設在籍のまま亡くなっているか病気により治療療養となり退所を余儀なくされたということであろう。(明らかに死亡数の方が急増しているが)地域移行者数は毎年度4000人台に落ち着く一方で、新規入所者も毎年度6000人程度を維持している。この10年間で見て、地域移行者の倍近くの新規入所者が障害者支援施設に流れ込んできており、2012年度末の在所者数からわずか540人程度しか在所者数は減らなかったことになる。在所者減の大きい要因は、入院+死亡によるもので地域移行によるものではないのだ。そして重要なことは、この構造が、地域移行等が推奨されてきたにもかかわらず、10年間変わらなかったということである。
鈴木教授の解説において、例示されている厚生労働省の「障害者の地域生活の推進に関する検討会(第1回)」における、『地域における居住支援の現状等について』で引用されている新規入所者数は、第1回障害者の地域生活の推進に関する検討会(H25.07.26)資料7「地域における居住支援の現状等について」(https://www.mhlw.go.jp/content/12204500/0000013352.pdf)に収められている「施設入所者の地域生活への移行に関する状況」という表題のフォーマットに基づく数字である。ちなみにこのフォーマットは、「コーヒーブレイク:『地域移行』を考える(https://looker-on.com/?p=385)でも引用してきたが、歴史的には長く続いているフォーマットである。



Looker-onの主観では、平成25年度以降は、このテンプレートでの地域移行状況調査は行われなくなり、R4年度調査(2022.4‐2023.3)に復活した。

この資料に示されている確定値を表にまとめてみると以下のようになる。

*確定値を赤で表示している。注意深い読者は、この四つの資料は最初二つは10月起点、あと二つは4月起点となっていることが気になると思われるが、大きなトレンドをつかむための目的なので、計測時期についてはすべて年度データとみなすこととした。
専門家の方たちには色々な統計処理方法を考案されると思うが、このブログでは、空欄の部分を推計するため、最も単純な一次近似式で推計値を求めていこうと思う。計算は簡単である。確定値と確定値を直線で結び、1次関数と見立てて、係数(傾き)を算出する。
例えば
2010年度から2013年度の新規入所者数の推移については
(5946人–7803人)÷3=–619人
で、引き算をしていくという要領で算出していく。
2013年度から2023年度の新規入所者数の推移については、
(5599人–5946人)÷10=–34.7人
上記の表の他の空欄を同様の方法で算出して埋めていくと

新規入所者数は、鈴木論文と同じ時期で見ると、同様に2013年度から2023年度においては、毎年度5000~6000人存在しており、地域移行者は鈴木教授の推計よりも低く、新規入所者の4分の1~2分の1未満で年々退所者の割合の中で比重が低下していっている。死亡+入院が退所理由の殆どを占めている。2025年5月26日第1回障害者の地域生活支援も踏まえた障害者支援施設の在り方に係る検討会に提出された「障害者の地域生活支援も踏まえた障害者支援施設の在り方について」(資料2)にて施設入所者の地位生活移行者数累計が示されている。

令和4年(2022年)52,143人から平成20年(2008年)までの累計14,098人を差し引けば、2009年~2022年まで38,045人が算出され、先の表の累計数とほぼ一致するので、1次近似式による簡単な推計表であるが、ある程度実相を再現しているとみてよいだろう。
二つの推計から浮かび上がってきた障害者支援施設の実相は、地域移行の実績を打ち消してしまうほどの根強い入所ニーズである。そして、障害者支援施設での退所と言えば、死亡か入院もしくは老人施設への移行といった高齢化による要因が主流であることがここ10年間で明らかに定着したと言える。最近の民間コンサル会社の統計調査で新規入所者の年齢が50歳代を全簿に分布しているという知見と合わせて考えてみるならば、新規入所者は親の高齢化で在宅生活の維持が困難になった場合つまり障害者版8050問題を抱えたグループがまず思い浮かぶが、もう一つの流れとして若い頃からグループホームで生活していた利用者が高齢化しグループホームでの自立生活が困難になった場合が潜んでいると思われる。いずれの場合も、高齢化によって在宅生活・地域生活の継続が阻まれ、障害者支援施設に流入せざる得ない事例と言える。
厚生労働省は令和6年度から地域移行等意向確認、地域移行指針の策定、意向確認者の選任を義務付け(令和8年度完全実施)減算化することで、がた落ちな地域移行者数の維持若しくは向上を引き締めを行った。これは一定の効果があるかもしれない。しかし、これまでの投稿で述べた通り、グループホームが就労可能な中軽度障害者の賄いつき下宿モデルから脱却しない限り、入居者は高齢化して介護が必要となれば、たちまちグループホームは対応することが困難となり、所得補償がある(特定障害者特別給付金いわゆる補足給付)入所施設を選択する方がはるかに合理的だからである。(皮肉を交えていえば、看取りすら障害者支援施設で行ってくれるようになるからだ)受け皿となるグループホームを質量ともに増したところで彼らは舞い戻ってくる。
地域生活を家族同居・家族介護で過ごすのも同様の壁にぶち当たる。心ある家族なら、子どもの年金は子どもの将来のために積み立てて残しておくと思われるが、一定数の世帯は、年金を丸ごと家計に入れて生計を支えていくことに使うだろう。
強度行動障害でも地域で生活できるよう標準的支援等が開発され、若い頃から家族やグループホームで生活できるような枠組みが整備されているが、地域生活は施設入所と異なり、所得補償はなく、将来のたくわえを準備するシステムにはなっていない。家族の献身的な行動により、生活が成り立っていたバランスは、家族に老いが見えた瞬間、たちまち窮地に陥るのだ。
このように障害者支援施設は、(知的)障害者どんな行動上等の障害があっても地域で寿命が全うできる生活支援体制が社会的に形成されていないことに起因する社会構造の受け皿の役割を強いられていると言えるのだ。
最後に、いわゆる「重度化」の問題についてLooker-onの見解を書きとどめておきたい。先ず「重度化」が進行していると嘆く論調については、自立支援法以来、施設入所支援の対象者を障害程度区分4以上に設定したから必然的に生じたとしか言いようがないことを指摘しておきたい。
厚労省委託研究「今後の入所施設のあり方に関する研究事業報告書~入所施設及びショートスティにおけるサービスの実態調査~」(みずほ情報総研株式会社 平成21年3月)によると、2008年度(平成20年度)区分3以下が入所者の2割以上と想定されている。知的障害者援護施設が障害者支援施設に移行する期間は、2006年4月~2012年3月の6年間であった。先ほどのLooker-on推計表で2009-2012までの新規入所者数は、8425人+7803人+7184人=23,412人。当時の入所者数134,697人で割ると17%程度となるので、障害者支援施設への移行過程でほぼ入所者は区分3を含む入所者グループから区分4以上のグループに再編されたと見ていいだろう。当然、平均障害程度区分は、4以上に標準化されたのである。以降は、区分4以上しか入所はできないのだから、平均値を上がる方向にシフトしていくのは必然と思われる。まして、区分が上がるにしたがって、自立支援給付の単価も上がるのであるから、利益を極大化しようと思えば、「重度化」は進むのだ。しかし、それにより入所施設は大切なものを失ってしまったようにも思われる。
障害者自立支援法 第五条
11 この法律において「施設入所支援」とは、その施設に入所する障害者につき、主として夜間において、入浴、排せつ又は食事の介護その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう。
12 この法律において「障害者支援施設」とは、障害者につき、施設入所支援を行うとともに、施設入所支援以外の施設障害福祉サービスを行う施設(のぞみの園及び第一項の厚生労働省令で定める施設を除く。)をいう。
知的障害者福祉法 第二十一条の六(2001年)
知的障害者更生施設は、十八歳以上の知的障害者を入所させて、これを保護するとともに、その更生も必要な指導及び訓練を行うことを目的とする施設とする。
この二つの条文を比較すると、知的障害者更生施設には保護機能を持つ社会復帰を志向した施設としても役割があったが、障害者支援施設は生活サービスの供与をする場に過ぎない。つまり、障害者支援施設は保護機能及びその義務を負っていないのである。区分3以下の入所者がいた時代、それは障害が軽くても地域や家庭で生活できない、即ち虐待や差別偏見から保護しなければならない事情があった時代ではなかっただろうか?自立支援法以降は、社会的保護義務を入所施設は解除されてしまい、入所施設の支援スタッフにも保護義務という倫理を求めないこととなり、社会的な偏見差別、虐待に対する最後の砦は、差別偏見と虐待の場である社会と地続きとなってしまったのではないだろうか。「重度化」を嘆くのならば、区分要件を撤廃し、保護の必要性で施設入所支援支給を決めるほうが、よほど理にかなっているように思う。