厚生労働省が、当事者やそうそうたる有識者、関係団体を招集して設置した「障害者の地域生活支援も踏まえた障害者支援施設の在り方について」検討会は、第1回目を令和7年5月26日に開催し、第4回令和7年9月16日をもって終了し、「障害者の地域生活支援も踏まえた障害者支援施設の在り方に関するこれまでの議論のまとめ」(令和7年9月24日)を発表した。

これから、「障害者支援施設を考える」シリーズを何回かに分けて掲載していくのだが、多少シリーズの合間合間にテーマに関わるサブテーマを扱う記事を挟むこともあると思っている。

さて、シリーズのプロローグとして、検討会まとめに登場した「緊急時を含む脱施設化に関するガイドライン」について考えてみたいと思う。163-178行の1節に、特定非営利活動法人日本障害者協議会による和訳文が引用されている。

このガイドラインは、「まとめ」のL163-178に引用されている。

「○ 緊急時を含む脱施設化に関するガイドラインにおける施設の典型的要素※を踏まえた支援等の状況については、「本人の意思を尊重しつつ、施設外での活動や地域での生活を見据えた支援が実現できている」と回答している施設は、39.2%である。

※ 緊急時を含む脱施設化に関するガイドライン(2022年9月国連障害者権利委員会公表)抜粋

 14. 施設には、次の明確な典型的要素が存在する。

 ・ 介助者を他人と共有することが義務付けられ、誰に介助をしてもらうかについての意思表示権がない、または制限されている

 ・ 地域での自立した生活から隔離され、分離されている

・ 日々の決定をコントロールできない

・ 誰と暮らすかという関心事についての本人の選択肢がない

・ 個人の意思や希望に関係なく、日常生活が厳格である

・ 一定の管理のもと、個人が属するグループ単位に、同じ場所でほぼ同じ活動を行う

・ サービス提供が父権主義的アプローチである

 ・ 生活環境を監督する

・ 同じ環境に障害のある人が偏っている

*特定非営利活動法人日本障害者協議会 緊急時を含む脱施設化に関するガイドライン(wordファイル)より引用 」

今回の投稿では、さりげなく引用されているこの「緊急時を含む脱施設化に関するガイドライン」についてこの内容や界隈また「まとめ」において引用された理由について整理してみたい。

「緊急時を含む脱施設化に関するガイドライン」は邦訳で、正式には

Guidelines on Deinstitutionalization, Including in Emergencies(2022 Committee on the Rights of Persons with Disabilities, CRPD:国連障害者権利委員会)を指す。

https://www.ohchr.org/en/documents/legal-standards-and-guidelines/crpdc5-guidelines-deinstitutionalization-including

政府による公式訳がないので、いつも通り原文にあたりながら、ガイドラインが策定された背景を整理していこう。

Purpose and process

These guidelines complement the Committee’s general comment No. 5 (2017) and its guidelines on the right to liberty and security of persons with disabilities (art. 14). They are intended to guide and support States parties, in their efforts to realize the right of persons with disabilities to live independently and be included in the community, and to be the basis for planning deinstitutionalization processes and prevention of institutionalization.

The guidelines draw on the experiences of persons with disabilities before and during the coronavirus (COVID-19) pandemic, which uncovered widespread institutionalization, highlighting the harmful impact of institutionalization on the rights and lives of persons with disabilities, and the violence, neglect, abuse, ill-treatment and torture, including chemical, mechanical and physical restraints, that they experience in institutions. 

The guidelines are the result of a participatory process, which included seven regional consultations organized by the Committee. Over 500 persons with disabilities, including women with disabilities, girls and boys with disabilities, survivors of institutionalization, persons with albinism, grass-roots organizations and other civil society organizations participated. 

(Google翻訳も活用した和訳)

目的とプロセス

このガイドラインは、委員会の一般的意見第5号(2017年)および障害者の自由および安全に対する権利に関するガイドライン(第14条)を補完するものである。本ガイドラインは、障害者が自立して生活し、地域社会に包摂される権利を実現するための締約国の努力を導き、支援すること、ならびに脱施設化プロセス施設化の防止を計画するための基礎となることを意図している。

このガイドラインは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック以前およびパンデミック中の障害者の経験に基づいている。その経験は、広範な施設化を明るみにし、障害者の生活や権利に関して施設化の有害な影響を際立たせた。暴力、ネグレクト、虐待、不当な扱い、拷問(化学的拘束、機械的拘束、身体的拘束を含む)、障害者たちは、それらを施設の中で体験した。

本ガイドラインは、委員会が主催した7回の地域協議を含む参加型プロセスの成果である。障害のある女性、障害のある少年少女、施設収容の被害者、アルビノの人、草の根団体、その他の市民社会団体を含む 500 人を超える障害者が参加した。

この「目的とプロセス」を見ればわかる通り、このガイドラインはつい最近の新型コロナウィルス感染症パンデミック下の障害者の体験、特に施設に収容され、人権を人街された障害当事者の体験に基づいて策定されたものである。当然、施設否定の方向性が強く出るものではあるが、最初の一節に、国連が準拠してきている基礎も明らかにされている。国連の勧告や意見、ガイドラインを調べていくと、条約・勧告・意見の積み重ねに上にガイドラインとかが成立しているといった複雑に組み合わさった伽藍のような構造になっている。従って、ある特定の意見が突然強調的に述べられているわけではなく、これまでの条約・勧告・意見の積み重ねの上に、ガイドラインは存在している。従って、ガイドラインを分析するにしてもその下敷きとなっている条約・勧告・意見やそこに触れられている概念や定義について丁寧に目を通す必要がある。その作業は、後段で行うとして、取りあえず、このガイドラインで定義されている、「施設化」「脱施設化」について原文を示して、分析していこう。

長々、原文とLooker-on訳を対比させていくが、最後までお付き合いいただきたい。全部読むと、皆さんが常識的に知っていることとは、様相は変わってくると思っている。

  1. Institutionalization

*institutionという単語には、「施設」という言葉が訳語として当てられるので、その動詞形の名詞化として、institutional-ationという構造なので、直訳すると「施設化」となる。

反対語を表す接頭語de‐を付けると、de-institutionalizationは「脱施設化」という訳が当てられる。

14. There are certain defining elements of an institution, such as obligatory sharing of assistants with others and no or limited influence as to who provides the assistance; isolation and segregation from independent life in the community; lack of control over day-to-day decisions; lack of choice for the individuals concerned over with whom they live; rigidity of routine irrespective of personal will and preferences; identical activities in the same place for a group of individuals under a certain authority; a paternalistic approach in service provision; supervision of living arrangements; and a disproportionate number of persons with disabilities in the same environment.

「まとめ」に引用されている特定非営利活動法人日本障害者協議会 緊急時を含む脱施設化に関するガイドライン(wordファイル)の一節は、この原文から引用されている。とりあえずは、直訳的に日本語訳を提示しておく。

(直訳)

施設には、明確に定義された要素がある。他者とassistant(介助者)の他の人と義務的な共有、誰がassistant(介助)を提供するかについて影響力がまったくないか限られていること、地域社会における自立した生活からの孤立および隔離、日々の決定に対するコントロールの欠如、一緒に生活する関係する個人を選択できないこと、個人の意志や好みに関係のない厳格なルーチン、一定の権限の下で一団の個人が同じ場所で同じ活動を行うこと、サービス提供においての父権主義的(パターナリズム)なアプローチ、生活環境の監督、同じ環境にいる障害者の数の不均衡

*日本障害者協議会訳では、assistantについて、「介助者」の訳語を充て、引用している政府もそれを使用しているが、以下の論旨のために、併記の形で訳出しておく。

15. Institutionalization of persons with disabilities refers to any detention based on disability alone or in conjunction with other grounds such as “care” or “treatment”. Disability-specific detention typically occurs in institutions that include, but are not limited to, social care institutions, psychiatric institutions, long-stay hospitals, nursing homes, secure dementia wards, special boarding schools, rehabilitation centres other than community-based centres, half-way homes, group homes, family-type homes for children, sheltered or protected living homes, forensic psychiatric settings, transit homes, albinism hostels, leprosy  colonies and other congregated settings. Mental health settings where a person can be deprived of their liberty for purposes such as observation, care or treatment and/or preventive detention are a form of institutionalization.

(Google翻訳も活用したLooker-on訳)

障害者の施設収容とは、障害のみに基づく、または「ケア」や「治療」のような他の理由と併せて行われるあらゆる拘禁に帰する。障害に特化した拘禁は、通常、社会ケア施設、精神科施設、長期入院病院、養護施設、認知症専用病棟、特別寄宿学校、地域密着型センター以外のリハビリテーションセンター、中間型施設、グループホーム、家族型児童施設、保護シェルター型ホーム、司法精神科住居、トランジットホーム、アルビニズムホステル、ハンセン病コロニー、その他の集団型施設を含む施設で起こるが、これらに限定されない施設でも行われる。観察、ケア、治療、予防拘禁などの目的で人の自由を奪われる可能性がある精神保健施設も、施設収容の一形態である。

16. All institutions, including those run and controlled by non-State actors, should be included in deinstitutionalization reforms. The absence, reform or removal of one or more institutional elements cannot be used to characterize a setting as community-based. Such is the case, for example, in settings where adults with disabilities continue to be subjected to substituted decision-making or to compulsory treatment, or where they have shared assistants; settings located “in the community” where service providers set a routine and deny autonomy; or “homes” where the same service provider packages housing and support together.

(Google翻訳も活用したLooker-on訳)

16. 国でない主体によって運営・管理されている施設も含め、すべての施設は脱施設化改革の対象とされるべきである。一つあるいは複数の施設的要素の欠落、改革、あるいは除去をしたとしても、地域社会に根ざした住処と特色づけることはできない。例えば、障害のある成人が引き続き代理意思決定や強制的な治療を受けている住処、あるいはassistant(介助者)を共有している住処、サービス提供者がルーチンを設定し自立を否定する「地域社会」に位置する住処、あるいは同じサービス提供者が住居と支援をパッケージ化した「ホーム」などがこれにあたる。

17. States parties should recognize that living independently and being included in the community refer to life settings outside residential institutions of all kinds, in accordance with article 19 of the Convention. Regardless of size, purpose or characteristics, or the duration of any placement or detention, an institution can never be regarded as compliant with the Convention.

(Google翻訳も活用したLooker-on訳)

17. 締約国は、条約第19条に従って、自立した生活と地域社会への包摂とは、あらゆる種類の居住型施設の外の生活環境を指すことを認識すべきである。施設の規模、目的、特徴、あるいは収容期間や拘禁期間に関わらず、施設が条約に適合しているとみなされることは決してない。

18. Persons with disabilities may be overrepresented in other detention settings, such as prisons, segregated settings in refugee camps and migrant shelters, shelters for homeless persons and prayer camps. States should ensure the rights of persons with disabilities detained in other detention settings and eradicate discriminatory practices to which they are subjected on the basis of disability.

(Google翻訳も活用したLooker-on訳)

18. 障害者は、刑務所、難民キャンプや移民シェルター内の隔離された収容施設、ホームレス用シェルター、祈祷キャンプのような他の拘禁施設においても、過剰に代表(標的に)される可能性がある。各国は、他の拘禁施設に拘禁されている障害者の権利を保障し、障害を理由とする差別的慣行を根絶すべきである。

B. Deinstitutionalization processes

(Google翻訳も活用したLooker-on訳)

脱施設化プロセス

19. Deinstitutionalization comprises interconnected processes that should focus on restoring autonomy, choice and control to persons with disabilities as to how, where and with whom they decide to live.

(Google翻訳も活用したLooker-on訳)

19. 脱施設化は、障害のある人が、どのように、どこで、誰と暮らすかという自律性、選択(権)、そしてコントロール(権)を回復することに焦点を当てるべき、相互に関連したプロセスから成っている。

20. Processes of deinstitutionalization should be led by persons with disabilities, including those affected by institutionalization, and not by those involved in managing or perpetuating institutions. Practices that violate article 19 of the Convention should be avoided, such as renovating settings, adding more beds, replacing large institutions with smaller ones, renaming institutions, or applying standards such as the principle of the least restrictive alternative in mental health legislation.

(Google翻訳も活用したLooker-on訳)

20. 脱施設化のプロセスは、施設の運営や存続に関わる者ではなく、施設収容の影響を受けた者を含む障害のある人が主導すべきである。施設の改修、ベッド数の増設、大規模施設の小規模施設への転換、施設名の変更、あるいは精神保健法における「最も制限の少ない代替措置の原則」などの基準の適用など、条約第19条に違反する行為は避けるべきである。

E. Allocation of funding and resources

資金と資源の配分

29. Investments in institutions, including renovation, should be prohibited. Investments should be directed towards the immediate release of residents and the provision of all necessary and appropriate support for living independently. States parties should refrain from suggesting that persons with disabilities “choose” to live in institutions, or using similar arguments to justify the maintenance of institutions.

(Google翻訳も活用したLooker-on訳)

29. 施設への投資(改修を含む)は禁止されるべきである。投資は、入所者の即時退所と、自立生活に必要なあらゆる適切な支援の提供に向けられるべきである。締約国は、障害者が施設での生活を「選択」していると示唆したり、同様の論拠を用いて施設の維持を正当化したりすることを控えるべきである。

30. States parties should stop using public funds for the construction and renovation of institutions and should allocate them, including those from international cooperation, to ensure the sustainability of inclusive community support systems and inclusive mainstream services.

(Google翻訳も活用したLooker-on訳)

30. 締約国は、施設の建設や改修に公的資金を使用することをやめ、国際協力による資金も含め、包括的なコミュニティ支援システムと包括的な主流のサービスの持続可能性を確保するために公的資金を割り当てるべきである。

31. States parties should provide persons with disabilities, including children with disabilities, leaving institutions with a comprehensive compensatory package comprising goods for daily living, cash, food vouchers, communication devices and information about services available, immediately upon departure. Such packages should provide basic security, support and confidence to persons with disabilities leaving institutions, in order that they can recover, seek support when they require it, and have an adequate standard of living in the community without risk of homelessness or poverty.

(Google翻訳も活用したLooker-on訳)

31. 締約国は、施設を退所する障害者(障害児を含む)に対し、退所後直ちに、日常生活用品、現金、食料券、通信機器、利用可能なサービスに関する情報を含む包括的な補償パッケージを提供すべきである。こうした補償パッケージは、施設を退所する障害者に対し、基本的な安全、支援、そして自信を与えるものでなければならない。これにより、障害者は回復し、必要に応じて支援を求めることができ、ホームレスや貧困のリスクなしに地域社会で適切な生活水準を維持できる。

ガイドラインが一貫して主張しているのは、institution=施設を、我々がイメージするような集団で生活する入所施設ではなく、障害者の自律性、選択権、自立を奪うあらゆる環境であると規定していることである。(14)日本では地域移行の切り札になっているグループホームですらその対象に上がっている。(15)さらに、脱施設化のプロセスとして、先ず締結国の政府は、施設の新設、改築・改修への公的資金の投下を中止し、「包括的なコミュニティ支援システムと包括的な主流のサービスの持続可能性を確保するために」公的資金の配分を変更するよう求めているのである。(29-31)さらに、この脱施設化プロセスは、(元)施設入所者も含む障害者、即ち当事者が主導すべきともされている。(20)そして、強調しておかなければならないのは、ガイドラインが指摘している「施設化」の諸要素はパッケージ化されており、「一つあるいは複数の施設的要素の欠落、改革、あるいは除去をしたとしても、地域社会に根ざした住処と特色づけることはできない。」と、全廃以外を認めていない厳しい立場を打ち出していることである。(16)

しかし、「障害者の地域生活支援も踏まえた障害者支援施設の在り方について」検討会では、脱施設ガイドラインを以下のように取り扱っている。公開されている議事録から拾ってみよう。

第1回目

青木障害福祉課長補佐(事務局)

「この検討会で議論いただきたい論点を記載しております。大きく1と2の項目がございます。
 1つ目としましては、障害者支援施設に求められる役割・機能、あるべき姿について、脱施設化ガイドラインにおける「施設」の典型的要素も参考にしつつ、例えば記載しておりますマル1からマル5の観点からどのように考えるか。
 マル1ですと、生活の様々な場面における自己実現に向けた本人の意思・希望の尊重といった意思決定支援の在り方について。
 マル2としまして、個室、ユニットケアなど居室の在り方、施設の定員について。あと、生活環境、日中活動の状況について。重度化・高齢化への対応などの運営体制について。
 マル3としては、強度行動障害を有する者や医療的ケアが必要な者などへの専門的な支援、専門性の地域への還元について。
 マル4としまして、重度・重複障害のある方を含む地域移行をさらに進めるための取組について。
 マル5として、障害者の地域生活を支える機能や緊急時、災害時の対応についてどう考えるかなどでございます。
 大きな2つ目としましては、今後の障害福祉計画の目標の基本的方向性について、記載のマル1からマル5などをどのように考えるか。
 マル1としまして、いわゆる「親なき後」を含む一定の居住支援のニーズがあることについてどう考えるか。なお、現在の施設の待機者の把握状況は自治体間でばらつきがあることに留意する必要があると考えております。
 マル2としまして、足下の障害福祉計画の目標の達成状況について。
 マル3として、住まいとしての障害者支援施設とグループホームとの共通点・相違点について。
 マル4として、厳しい人手不足の状況下における居住支援に係る生産性向上や定員規模について。
 マル5として、障害福祉計画の目標と施設整備費補助金の対象要件との整合性をどう考えるのかなどとなっております。」

今村構成員

「DPI日本会議の今村です。
 このたびはこの検討会に呼んでいただき、誠にありがとうございます。
 私の意見は7ページからになります。
 お示しいただいた論点について、私の意見を申し上げます。
 まず検討を始める前の大前提として、2022年に国連から出された障害者権利条約の総括所見及び緊急時を含めた脱施設化ガイドラインをどのように実現していくかも考えていくということをこの会の共通認識の上で議論を進めていただければと思います。
 いただいた論点の中で幾つかピックアップして申し上げます。
 まず、1番の施設の役割・機能については、項目のマル2とマル4についてお話しさせていただきます。
 マル2の居室、定員、生活環境等に関する課題についてですけれども、個室化やユニットケア、小規模化は、入所施設内のプライバシー保護や家庭的環境に寄与するとは思います。しかし、こうした施設整備を優先して行うと、常時介助が必要な人ほど自治体は優先して入所を進め、地域生活の継続や地域移行が遅れていきます。このような根本的リスクを無視して施設整備を進めてしまうと本末転倒です。
 また、国連障害者権利委員会は、入所予算を地域生活支援へ再配分せよと勧告しています。真に必要なのは、予算の軸足を施設から地域へ移行し、医療、福祉、自治体職員などに転じ、条約が示す社会モデル、人権モデルを徹底的に周知した上で、地域生活支援拠点や地域医療との連携を標準化することが重要と考えます。
 次にマル4です。重度・重複障害者の地域移行についてですが、地域移行のボトルネックは家族介護依存と長期的な伴走支援の不足です。幼少期から家族依存を段階的に減らし、ヘルパー等の社会資源の利用比率を高めていく。そうした仕組みに再編することが有効と考えます。その推進役として、地域移行専任の拠点コーディネーターの育成や配置、ピアサポーターの積極的活用、本人と家族双方の不安を解消する丁寧な情報提供などが必要かと思います。その結果として入所待機者が減り、施設に入らないと安心できないという構造そのものを転換していけるのではないかと思います。
 次に、2番目のマル1について、いわゆる「親なき後」等を含む一定の居住ニーズについてというものについてですが、新規入所を止めても、家族介護に頼らず地域で暮らし続けられるにはどんな居住支援が必要かという論点で検討すべきと考えます。その参考とするためにも、自治体が統一した基準で意向を把握するためのツールとして、昨年度研究事業でまとめられた意向確認マニュアルなどを活用されるとよいと考えます。
 次に2のマル4、人手不足時代の生産性向上等についてですけれども、これは支援の在り方の生産性の向上というよりも、こうした深刻な人材不足を補うためにはサービス体系や報酬体系の大胆な簡素化が最も効果的と考えます。例えば訪問系サービスを短時間支援、長時間支援と2つぐらいの区分に再編したり、処遇改善加算を基本方針に内包したり、事務業務を簡素化するべきと考えます。また、告示523号の外出制限を撤廃したり、強度行動障害、医療的ケアなどは加算で専門性を評価していったりという業務の簡素化が求められると思います。
 最後に、支援施設と地域移行は、個室化や小規模化だけでなく、常に権利条約に立ち返り、支援の軸足を地域に移す、予算の再配分、幼少期からの伴走支援、人材不足を乗り越える報酬制度の簡素化などを同時に進めていくことで、重度・重複のある方が当たり前に地域で暮らせる未来に近づけられると考えます。また、実現に向けたロードマップの策定も具体的に検討して、報告書を皆さんと一緒にまとめていければと思います。」

第1回目から、脱施設化ガイドラインについて締結国政府の立場から事務局からも当然提起があり、当事者団体であるDPIもガイドラインの実現について共通認識にすると提起されたのであるが、実際「まとめ」では、「

(1)基本的な考え方

   ① 利用者の意思・希望の尊重

  どこで誰と、どのように生活したいか本人の意思・希望が尊重される意思決定支援の推進が重要であり、あらゆる場面で体験や経験を通じた選択の機会を確保し、本人の自己実現に向けた支援を行う必要がある。その際、脱施設化ガイドラインにおける 「施設」の典型的要素1を、可能な限り減らしていくことに留意する必要がある。

脚注1として

1 ・介助者を他人と共有することが義務付けられ、誰に介助してもらうかについての意思表示権がない、または制限されている ・地域での自立した生活から隔離され、分離されている ・日々の決定をコントロールできない ・誰と暮らすかという関心事についての本人の選択肢がない ・個人の意思や希望に関係なく、日常生活が厳格である  ・一定の管理のもと、個人が属するグループ単位に、同じ場所でほぼ同じ活動を行う  ・サービス提供が父権主義的アプローチである ・生活環境を監督する  ・同じ環境に障害のある人が偏っている

とされている。

読者の皆さんは、不思議に思わないだろうか?明らかにかみ合っていないのだ。

ガイドラインの実現を謳いながら、ガイドラインがそもそも厳しく批判した「国でない主体によって運営・管理されている施設も含め、すべての施設は脱施設化改革の対象とされるべきである。一つあるいは複数の施設的要素の欠落、改革、あるいは除去をしたとしても、地域社会に根ざした住処と特色づけることはできない。」(16)と全廃しか認めない立場に対して、存続を前提とした漸次的な改善を打ち出したところでかみ合っていないし、そもそも全廃という国連の立場の是非について議論もなく、各論の議論をするには国連の側からすれば、本質をそらしていると疑念の目を向けられても仕方がないのではないだろうか?まして、国連は締結国の国家戦略として提示しているにもかかわらず、利用者の意思の尊重原則に整理されているにすぎないのだ。

検討会には、推察するに「施設を必要とする障害者もいるから、施設は必要だ」という暗黙の了解が検討会メンバーの中になければ、こうしたかみあっているようでかみあっていない議論は成り立たない。

英文も交えて描いてきたので、記事自体が相当のボリュームになってきた。脱施設化ガイドラインの分析やその政策の是非、国内の対応等まだまだ尽くしきれないが、次回に書いていきたいと思う。原文交じりで大変と思うが、お付き合い願いたい。

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