自閉スペクトラム症(ASD)について、書き終えて、次の投稿の準備に取り掛かっている最中、職場が所属している中央団体の機関紙が届き、来年度国家予算の概算要求が掲載されていた。日頃から、現場に関連する課題にしか興味がないので、流し読みをする内容だったが、今回興味本位に掲載されている概算要求に目を通した。

愕然とした。そして、自分を恥じた。何故そう思ったか、自戒と問題提起の意味を込めて、以下書き留めておきたい。以下の論説は、概算要求の金額ベースを対象に分析した物であり、予算細目まで細かく分析したものでないが、論じておきたいと思う。

令和9年度概算要求の強度行動障害関係の予算部分について、Looker-onが整理した表は以下の通り。

令和9年度障害福祉関連予算概算要求 (https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/27syokan/dl/gaiyo-11-1.pdfより編集)

内容を見てうすうすわかると思うが、この予算項目は、大項目「3 発達障害児・発達障害者の支援施策の推進」でまとめられている。つまり、強度行動障害支援は、発達障害児者支援のカテゴリーに厚生労働省は分類したことを示している。知的障害福祉の領分とするならば、「広域的支援人材」の配置先は各都道府県の知的障害者更生相談所が筆頭に挙げられるのが順当だ。前々回投稿をはじめ、Looker-onは強度行動障害の大半は知的障害であって、実態調査の分析からASD併存型は一番多い類型であるが、3割から5割(最大見積もっても7割)程度である。この実態から強度行動障害支援は知的障害福祉分野の領域であることを示したのであるが、発達障害者支援センターを筆頭で上げている限り、政府は強度行動障害支援を主要に発達障害児者支援の枠組みで解決することを選択したことを示唆している。Looker-onは政府がここまで施策を進めていることと思っていなかったので愕然としてしまった。(運用の是非は別として)

さて、政府はいつからこのような方向に舵を切ったのだろうか?

幸い、毎年度の予算の概算要求が厚生労働省ホームページで公開されているので、整理してみよう。

        

令和8年度 https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/26syokan/dl/gaiyo-11-1.pdf        

令和7年度 https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/25syokan/dl/gaiyo-11-1.pdf        

令和6年度 https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/24syokan/dl/gaiyo-11-1.pdf        

令和5年度 https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/23syokan/dl/gaiyo-14-1.pdf        

令和4年度 https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/22syokan/dl/gaiyo-12.pdf         

これらの障害保健福祉部概算要求から「発達障碍児者の支援施策の推進」を年度ごとの並べてみると次のような表となる。

先ず、令和4-5年度概算要求及び前年度予算額

次に、令和6-8年度概算要求及び前年度予算額

*文字が小さいので読みづらいと思うので、発達障害児者支援施策概算要求を令和4-9年度推移が分かる一覧表をダウンロードできるようにしておくので活用いただきたい。A3横になる幅広な表なので、印刷の際は細かい字が煩わしくないなら、A4縮小印刷して確認してほしい。

強度行動障害関連予算が計上されるのは、令和6年度「強度行動障害の状態にある者に対する地域支援機能の強化」【拡充】からである。

令和6年度

強度行動障害の状態にある者に対する地域支援機能の強化【拡充】

「著しい行動障害が生じているなどの難しい事案に対応する現場の職員を支援するため、高い専門性を有する「広域的支援人材」を発達障害者支援センター等に新たに配置し、現場に訪問等をして適切なアセスメントを行うとともに、現場の職員と共に有効な支援方法の整理を行い、環境調整を進めていく。」

として、3.9億円の概算要求を行っている。これは、令和4年度厚生労働省障害保健福祉部が立ち上げた有識者による「強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会」報告書(令和5年3月30日公表 https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001080076.pdf )の提言を受けて、令和5年度に予算化を検討され、令和6年度予算として概算要求されたものだ。令和6年度4.3億円要求に対して、令和6年度4.3億円と満額予算化され、令和7年度6.21億円要求に対して、新規要求は認められず4.3億円と据え置かれた。令和8年度4.61億円要求に対して4.69億円と新規要求は認められ微増。令和9年度は一部新規要求も含めて、7.19億円を要求している。財務省が強度行動障害支援のための支援体制構築に財政的な事情で締め付けているような印象ではある。しかし、財政難の折か、障害保健福祉部が実際に行った方策は、「強度行動障害の状態にある者に対する地域支援機能の強化【拡充】」とあるように、

実は令和5年度まで行われてきた

発達障害児・発達障害者に対する地域支援機能の強化

「発達障害児者の各ライフステージに対応する一貫した支援を行うため、地域の中核である発達障害者支援センター等に配置する発達障害者地域支援マネジャーの体制を強化することで、市町村や事業所等が抱える困難事例への対応促進等を図り、発達障害児者に対する地域支援機能を強化する。」(概算要求3.9億円)

を「拡充」し、内容を強度行動障害支援にシフトさせた(拡充した)ものである。

実際、令和6年度概算要求では、「発達障害児・発達障害者に対する地域支援機能の強化」の項目はいったん見えなくなったことから見ても、裏付けられよう。

厳しい事を言えば、障害保健福祉部は、強度行動障害児者支援体制を構築する予算を獲得するために、本来の「発達障障害児者の地域生活支援」という使命を持つ事業を変容させたのだ。もともと知的障害を伴わない、むしろ優れた知的能力をもっているにもかかわらず地域生活や学業仕事がうまくいかない発達障害児者も対象とした事業だったはずではないか?この問題はこの問題で、発達障障害児者支援において深刻な問題であり、実際、毎日新聞連載「となりの発達障害」というシリーズを拡げてみれば、判定ができないようなグレーな発達障害の学生が学業についていけず、自死を選んだ事例等もあり、命を守っていく上での深刻な課題ではないかと思う。その独自の深刻さを認識してか、令和9年度概算要求では、

発達障害者支援センターの地域支援機能の強化【一部新規】【再掲】

「発達障害者支援の地域の中核である発達障害者支援センターの地域支援機能を強化するため、発達障害者地域支援マネジャーの配置等による体制整備を行うとともに、専門人材の確保・定着に向けた処遇改善の支援や、ICT機器の導入及び記録・情報共有のデジタル化に向けた支援を行う。」

と、令和5年度までの元の趣旨を継承発展する事業として、発達障害者支援センターの強化と看板を掛けなおして概算要求されている。(ご丁寧に、実績金額4.3億円と記載されており、令和6年度事業を金額的に継承発展させていることを示唆しているように見受けられる。)さらに概算要求額は、6.5億円と課題の深刻さを反映させているのか、これまでの未整備分を解消する為なのか大幅な増額要求をしているのだ。

Looker-onは障害保健福祉部のこの予算編成経過を整理して愕然とした。いくら強度行動障害で苦しむ本人・家族がいるとしても、発達障害者支援センターの機能として、発達障害単独でも苦しむ当事者や悲しむ家族への支援するための機能を強化する事業をいったん置いて、別のコンセプトを追加して予算化するべきものなのかどうか。まして、強度行動障害を発達障害(さらには自閉スペクトラム症)の範疇に流し込むのはこれまでも論証してきたが、明らかに無理があり、どう見ても同一パッケージにくくるには無理があると思われる。

発達障害者支援法において

(目的)

第一条 この法律は、発達障害者の心理機能の適正な発達及び円滑な社会生活の促進のために発達障害の症状の発現後できるだけ早期に発達支援を行うとともに、切れ目なく発達障害者の支援を行うことが特に重要であることに鑑み、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、発達障害者が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるよう、発達障害を早期に発見し、発達支援を行うことに関する国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、学校教育における発達障害者への支援、発達障害者の就労の支援、発達障害者支援センターの指定等について定めることにより、発達障害者の自立及び社会参加のためのその生活全般にわたる支援を図り、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。

(定義)

第二条 この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。

2 この法律において「発達障害者」とは、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいい、「発達障害児」とは、発達障害者のうち十八歳未満のものをいう。

3 この法律において「社会的障壁」とは、発達障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

4 この法律において「発達支援」とは、発達障害者に対し、その心理機能の適正な発達を支援し、及び円滑な社会生活を促進するため行う個々の発達障害者の特性に対応した医療的、福祉的及び教育的援助をいう。

(基本理念)

第二条の二 発達障害者の支援は、全ての発達障害者が社会参加の機会が確保されること及びどこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないことを旨として、行われなければならない。

2 発達障害者の支援は、社会的障壁の除去に資することを旨として、行われなければならない。

3 発達障害者の支援は、個々の発達障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、かつ、医療、保健、福祉、教育、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体相互の緊密な連携の下に、その意思決定の支援に配慮しつつ、切れ目なく行われなければならない。

知的能力や環境への適応によって、幼少期には困難が目立たないで生活できる発達障害者なら、必ずしも発達障害の症状が低年齢から発現するとは限らない。しかし、青年期・成人期と社会システムが複雑になればなるほど、対応する課題も複雑になり、発達障害が足かせになってしまうことは十分ありうるのだ。改めて、この法律を眺め、この国家予算措置の経緯を見ると、結局この法律で対象となっている発達障害児者とは、発達障害(✕知的障害)と陰数項目として知的なハンディを抱えている児童・成人を想定しているように感じてしまう。大人になってから発達障害であると診断され社会的に困難に直面している人たちも、社会的な理解と支援を受けるべきであり、支援法はそうした児童・成人も含めた支援を想定すべきではなかったか? それが、発達障害児者の独自の課題であり、それはそれで対策や支援の施策を強化すべきであって、知的障害福祉の領分と予算を食い合う場合ではないのである。

実際のところ、障害保健福祉部の概算要求項目には、都道府県レベルでバラバラに運用されている療育手帳制度を国レベルの統一した制度にする課題や都道府県・市町村の独自財源で運用されているが為赤字運営されている重度障害者医療制度の国レベルでの支援援助の課題について、令和4年度から9年度の間でも予算化は確認できなかった。どちらも、強度行動障害支援をはじめ支援の土台となるものであるにもかかわらず、統一的な制度運営や財政基盤強化はなされないままである。知的障害児者の「福祉」=幸せを保障しないまま、強度行動障害支援だけが突出する現状、中途半端な現状に深い懸念を持ってしまうのだ。

平凡な結論であるが、国家予算の配分についてその意図や経緯について、監視を続けていくことは重要だと痛切に思った。

*Looker-onは、この仕事について36年となるが、駆け出しの頃は、周りから社会的な常識がないとか空気が読めないとかで上司・先輩・同僚に叱られっぱなしであった。まして、座学研修や偉い方と同席する会議なぞは頑張っても注意力が途切れて寝てしまうというおよそ社会人としてはダメダメなところがあり、自己嫌悪もひどかった。(後で知ったことだが、管理医にアスペルガーではないかと疑われたそうだ。その分、研究や学習を積み重ねて、支援力を向上させようと頑張ってもきたが)40歳代になり、仕事する機会が多かった発達障害児教育の専門家が、飲み会の席でLooker-onの話を聞き、ASDではないがADHDの可能性があるのではないかと言われた。自分自身を発達障害という視点で分析したことがなかったので、少し気が楽になったものである。他の人とは確かに集中力の働き方が違うのか、シングルフォーカスすると覚醒レベルが下がってしまい、同時に色々な課題を頭や体で走らせないと覚醒レベルが高まらない。改まった場所で話を承る時は「ながら聴き」やノート作りをすると集中力が維持向上できるという自分発見もした。いわゆる自分も「発達凸凹」の類に入るかもしれないし、たまたま、これまで支えや運があって生き永らえてきたかもしれない。別にだから、熱くなるわけではないのだが、国・行政には公平で科学性、論理性に基づいた問題への対処をしてほしいと思うのだ。

走り書きのようなまとまっていない投稿になってしまった。次回から「障害者支援施設を考える」シリーズに戻れることを自分自身に願っている。

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